「成功の呪い」、すなわち、あるやり方で成功すると、そのやり方にしがみついて結局は失敗してしまうということですが、その呪縛から逃れられない企業が未だ少なくありません。
SI事業者の工数や物販に頼る収益構造が、どれほど脆弱かはいまさら申し上げるまでもありません。しかし、この仕組みを変えるとなると売上や利益が減り、いまの雇用も維持できなくなるので具体的な行動に移せないという企業も少なくありません。
しかし、若者人口は減少に転じています。かつての成功の前提は崩れてしまったのです。若者の採用で「コストの安い売れる工数」を増やさなければ、売上も利益も拡大できない収益構造は、成り立たなくなる時代は時間の問題でやってきます。しかも、そういう仕事は3Kという評判が拡がり、ますます若者の採用が難しくなっています。
一方で、既存社員の高齢化が進めば給料を上げなければならず、黙っていてもコストは増えてゆきます。だからといって、いままでと同じ仕事で単金を伸ばす余地はありません。今後、クラウドや自動化が普及すれば、それらとの競合になるので、益々単金を上げることは難しくなってゆくでしょう。
売るべき商品である工数は増やせない、原価は増えてゆく、売値は低く抑えられる。
この三重苦を同時に解消することは、容易なことではありません。ならば、何かを犠牲にすることを覚悟して、舵を切り直すしかありません。
株主や金融機関から企業経営者へは、売上も利益も毎年伸ばせという暗黙のプレッシャーがかかっていることはわかりますが、そのプレッシャーをはねのけ、「成長すること」を一旦棚上げし、「生き残ること」すなわち「サスティナビリティ」を優先することです。まずそちらに舵を切り、根本的に戦略や組織、そして人材の再構成を図るべきでしょう。
自らを過去の「成功の呪い」から解き放ち、新たな成功の筋道を描く時が来たのです。
その鍵を握るのが、お客様のデジタル・トランスフォーメーション実現への貢献です。デジタル・トランスフォーメーションとは、お客様の伝統的な仕事のやり方を、テクノロジーを駆使して根本的に変えてしまうことです。これによってコストや期間、生産性の常識が大きく変わります。その結果、企業は圧倒的な競争優位と変化への即応力を手に入れることができます。
容易なことではありませんが、これからのIT需要はそこから生みだされます。そこに取り組めば、ビジネス・チャンスは必ず生まれます。
一方で、そんな人材は容易には育ちません。お客様もまた模索の段階であり、短期的には大きな需要は見込めないでしょう。しかし、工数は稼げなくてもコンサルティングのニーズはありますから、高い単金が期待できます。若者人材も新しいことへの関心は高いはずです。高いプレゼンスを手にすることもできます。ならば一時的な売上や利益の減少は覚悟してでも舵を切るべきです。やがて時間差で売上も利益も戻ってきます。
ただ、こういうことを申し上げると必ず次のような「できない理由」が返ってきます。
- いまでも利益率が低いのに、新しい取り組みに人材を割けば人件費がまかなえなくなる。
- デジタル・トランスフォーメーションの可能性は分かるが、いつ収益に結びつくか分からないのでリスクが高い。
- やる気のある人材はうちにはいない。
本当にそうでしょうか。
いまでも利益率が低いのに、新しい取り組みに人材を割けば人件費もまかなえなくなる。
少子高齢化により、何もしなくても工数では成長は期待できません。原価率も上がり益々利益率は低下します。それに対処しようと給与や賞与の抑制や、見せかけの経費削減に手を付ければ、現場のモチベーションは下がり、稼げる優秀な人材は去って行きます。それを食い止めるためにも、優秀な人材に新しい取り組みをさせてみることです。本業の片手間のボラティア活動ではなく、予算を付け、体制を整え、これからの事業の成果で業績評価される本業として責任を与えることです。
デジタル・トランスフォーメーションの可能性は分かるが、いつ収益に結びつくか分からないのでリスクが高い。
確かにお客様も模索の段階です。だからこそ、いち早く取り組み、どこが成果をあげやすいか、どこに制約があるかのノウハウをいち早くものにすべきです。それが差別化の武器となります。また先進的なテクノロジーに取り組むことも避けられません。ただ、テクノロジーの発展は加速しており、わずかな遅れが圧倒的な差となってしまうでしょう。もし経営者や幹部として、テクノロジーの進化についてゆけないのであれば、分かる人に権限を委譲すべきです。もはやテクノロジーが企業存続の鍵を握るといっても過言ではありません。
やる気のある人材はうちにはいない。
経営者や管理者が足を引っ張ってはいないでしょうか。やらせてもみないで、いないと断言できるのでしょうか。SNS禁止、外部のコミュニティや勉強会に参加することにも制約を課し、若い人材が新しいことに関わろうとするきっかけを摘んではいないでしょうか。もはやそんなことをやっている時代ではないのです。もっと社員にチャンスを与えることです。テクノロジーの進化は速く、多岐にわたっています。それらを全て社員だけでまかなうことなどできません。だから社外に出して、人のつながりを拡げさせることです。そして、共創の関係を拡げることです。「人材がいない」と嘆く前に、オープンな取り組みを推し進め、人材の可能性を高めてゆくことです。そんな覚悟と行動が、現場のモチベーションを高め、生き残りを主導できる人材を育てます。
お客様のデジタル・トランスフォーメーションの実現に貢献することに舵を切ることです。それこそが、生き残りの道であると覚悟を決めて、経営資源を思い切ってシフトしてはどうでしょう。一時的な売上や利益の減少にはなるかもしれませんが、いち早く取り組めば、成長の軌道もまた、いち早く取り戻すことができるはずです。
躊躇している余裕はありません。関わるか関わらないかとは無関係に、デジタル・トランスフォーメーションは、確実に世の中を変えてゆくことは間違えありません。
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ビジネス戦略編
- 【改訂】デジタル・トランスフォーメーションの定義 p.18
- 【改訂】デジタル・トランスフォーメーションを主導するクロスオーバー人材 p.21
- 【新規】加速する時代のスピードに対応できる人材 p.22
- 【新規】常にテーマや問いを発し続けられる人材 p.23
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
- 【新規】Amazonのデータ収集戦略 p.30
- 【新規】IoT通信:LPWAと他の通信方式の比較 p.34
- 【新規】IoT デバイスとしての自動車 p.96
- サービス&アプリケーション・先進技術編/人工知能とロボット
- 【新規】人間は何を作ってきたのか p.10
- 【新規】人工知能の限界 p.11
- 【新規】「東ロボくん」の実力と代替可能な職業 p.12
- 【改訂】コレ1枚でわかる人工知能 p.13
- 【新規】機械学習の課題 p.80
- 【新規】転移学習 p.81
- 【新規】学習データと結果の関係 p.97
- 【新規】自動運転レベル p.118
- 【新規】富士通 Mobility IoT 2018(動画・事例紹介) p.120
開発と運用編
- 【新規】これからの開発や運用に求められるもの p.5
- 【新規】ITについての認識の変化が「クラウド×内製化」を加速 p.6
インフラ&プラットフォーム編
- 【新規】HTAPとは何か? p.229
- 【新規】5Gと他の通信方式 p.231