「デジタル・トランスフォーメーション(Digital TransformationまたはDX)」
そんな言葉をあちらこちらで目にするようになりました。
AIやロボット、センサーやネットワークなどのデジタル・テクノロジーを駆使しして、ビジネスの仕組みを根本的に作り替えてしまおうという取り組みです。
これはITそのものの変革を意味する言葉ではありません。ITによって、様々な産業における伝統的な仕事のやり方や仕組みを大きく転換し、新しい価値基準を生みだそうということです。
こんな時代の要請に、SIビジネスは、どのように向きあえばいいのでしょうか。
■情報システム部門の期待に応えることの課題
「お客様のビジネスの成果に貢献すること」
どのようなビジネスであっても、この原理原則は変わりません。しかし、SIビジネスの現実を見れば、必ずしも当てはまりません。
「情報システム部門の成果に貢献すること」
すなわち、情報システムの開発や保守、運用管理、あるいは、設備投資をできるだけ低く抑えることが、旧来の情報システム部門の成果として重視されてきました。そこに貢献することが、SIビジネスの収益の源泉ともなってきました。
つまり、「お客様のビジネスの成果に貢献する」ことではなく、その「手段に貢献すること」が、事業目的となっているのです。
確かに手段に貢献すれば、結果としてお客様のビジネスの成果に貢献できるでしょう。しかし、「手段は少しでも安く」が求められ、例えここでビジネス機会を拡大できても利益の拡大にはなかなかつながりません。また、手段は今後クラウドや自動化に置き換えられてゆきます。そうなれば、工数や物販はそれらとの競合となって価格競争は厳しさを増し、ますます利益を圧迫することになるでしょう。
このように、お客さまの価値が、私たちの価値とぶつかり合うような関係があるとすれば、それは解決しなければならない課題なのです。
■経営者や事業部門にアプローチすることの大切さ
一方で、デジタル・トランスフォーメーションによる「ICTの戦略的活用」への期待は高まっています。
そんなデジタル・トランスフォーメーションへの取り組みを主導するのは既存の情報システム部門であることは少なく、経営者や事業部門の役割となります。
彼らは、情報システムをコストとしてではなく投資として捉えます。つまり、事業規模と投資対効果が見合うのであれば、新しいことへのシステム投資を惜しみません。もちろん少しでも安く、ミニマム・スタートでと言う条件は付くでしょうが、そこで成果を挙げれば、システムの需要は拡大してゆきます。この点が、情報システムをコストと捉える情報システム部門と投資として捉える経営者や事業部門との違いです。
「お客様のビジネスの成果に貢献する」ためには、そんな彼らと直接関わりながら、お互いに成果を共有できる関係を築くことです。それは同時にリスクをも含めて共有できなくてはなりません。「共創」はそんな関係を築いてこそ成り立つ取り組みです。
ただ誤解のないように申し上げておきたいのですが、だから「情報システム部門を相手にするな」ということではありません。むしろ、事業部門のデマンドを掘り起こし、情報システム部門がデジタル・トランスフォーメーションに取り組める環境を作り、情報システム部門の変革も合わせて支援してゆくことが、現実的なアプローチと言えるでしょう。
■デジタル・トランスフォーメーションに取り組むための3つの要件と「共創」
デジタル・トランスフォーメーションへの取り組みは、リスクを伴う投資です。成果に対する保証はありません。そのため、ビジネス環境の変化に柔軟かつ迅速に対応できる取り組みでなくてはなりません。それは必然的に、次の3つの要件を満たさなくてはなりません。
- 固定的な設備投資リスクを回避すること
- ビジネス環境の変化にアプリケーションの開発や運用が迅速に対応できること
- 最もコストパフォーマンスが高く、大きなビジネス価値を生みだすことができる手段を採用すること
クラウド・コンピューティング、アジャイル開発、DevOpsが前提となり、AIやIoTなどの最新テクノロジーを活用することもまた前提となります。また、「ICTを活用した新しいビジネス・モデル」を作る取り組みでもあります。つまり、既存の業務プロセスの改善ではなく、新しい業務プロセスの創出です。これまでのようにユーザーにどうしたいのか、何が正解なのかを教えてもらうことができません。業務のプロのユーザーとICTのプロのSI事業者とが、一緒になって新しい正解を創り出してゆく「共創」が必要となるのです。
また、最新のテクノロジーについては、お客様の良き相談相手、つまり教師でなくてはなりません。
「共創」とは、絶対的な正解のないところで最善の正解を生みだす取り組みです。その前提は、既存の発想にとらわれないオープンさと最新テクノロジーの活用であり、それを効率よく創り出すフレームワークが必要です。デザイン思考やリーン・スタートアップが注目されるのは、そのような背景があるからです。
■2つの情報システム:ビジネス価値と文化の違いを理解する
『キャズム』の著者、Geoffrey A. Mooreは、2011年に出版したホワイト・ペーパー『Systems of Engagement and The Future of Enterprise IT』の中で、「Systems of Engagement(SoE)」という言葉を使っています。彼はこの中でSoEを次のように説明しています。
様々なソーシャル・ウエブが人間や文化に強い影響を及ぼし、人間関係はデジタル化した。
人間関係がデジタル化した世界で、企業だけがそれと無関係ではいられない。社内にサイロ化して閉じたシステムと、そこに記録されたデータだけでやっていけるわけがない。
ビジネスの成否は「Moment of Engagement(人と人がつながる瞬間)」に関われるかどうかで決まる。
■System of Record(SoR)とSoE(System of Engagement)
これまで情報システムは、顧客へリーチし、その気にさせる役割はアナログな人間関係が担ってきました。そして顧客が製品やサービスを“買ってから”その手続きを処理し、結果のデータを格納するSystem of Record(SoR)に関心を持ってきました。ERP、SCM、販売管理などのシステムがそれに該当します。
しかし、人間関係がデジタル化すれば、顧客接点もデジタル化します。そうなれば、顧客に製品やサービスを“いかに買ってもらうか”をデジタル化しなくてはなりません。Systems of Engagement(SoE)とは、そのためのシステムであり、その重要性が増していると言うのです。CRM、マーケティング・オートメーション、オンライン・ショップなどがこれに当たります
両者に求められる価値の重心は異なります。SoRでは手続きがいつでも確実に処理され正確にデータを格納する安定性が重要になります。一方SoEでは、ビジネス環境の変化に柔軟・迅速に適応でできるスピードが重要となります。これは、システム機能の違いだけではありません。それぞれのシステムに関わる開発や運用のあり方に関わるもので、思想や文化の違いにも及びます。
デジタルな人間関係が大きな比重を占めるようになったことで、SoEで顧客にリーチし購買に結びつけ、SoRで購買手続きをストレスなく迅速、正確に処理しデータを記憶するといった連係が重要になってきます。もはや、企業の情報システムはSoRだけでは成り立たず、SoEへの取り組みを進めなくてはならないというわけです。
■2つの情報システム:バイモーダルITと人材のあり方
ガートナーは、SoRに相当する情報システムを「モード1」、SoEに相当するものを「モード2」と呼んでいます。そして、それぞれには次のような特徴があると述べています。
- モード1:変化が少なく、確実性、安定性を重視する領域のシステム
- モード2:開発・改善のスピードや「使いやすさ」などを重視するシステ
モード1
モード1のシステムは、効率化によるコスト削減を目指す場合が多く、人事や会計、生産管理などの機関系業務が中心となります。そして、次の要件を満たすことが求められます。
- 高品質・安定稼働
- 着実・正確
- 高いコスト/価格
- 手厚いサポ
- 高い満足(安全・安心)
モード2
一方、モード2は、差別化による競争力強化と収益の拡大を目指す場合が多く、ICTと一体化したデジタル・ビジネスや顧客とのコミュニケーションが必要なサービスが中心となります。そして、次の要件を満たすことが求められます。
- そこそこ(Good Enough)
- 速い・俊敏
- 低いコスト/価格
- 便利で迅速なサポート
- 高い満足(わかりやすい、できる、楽しい)
■2つのモードの違いを理解して取り組むことの必要性
この両者は併存し、お互いに連携することになりますから、どちらか一方だけに対応すればいいと言うことではありません。その際に注意すべきは、業務要件を確実に固め、要求仕様通りシステムを開発する従来のモード1やり方が、モード2ではそのまま通用しないことです。
モード1では「現場の要求は中長期的に変わらない」ことを前提に要求仕様を固めますから、ビジネスの現場と開発を一旦切り離して作業を進めることも可能です。一方、モード2では、不確実性の高まるビジネス環境において、事前に要件を完全に固めることはできません。こんな状況にあっても現場のニーズに臨機応変に対応し、俊敏・迅速に開発や変更の要求に応えなくてはなりません。
デジタル・トランスフォーメーションへの取り組みもまた、この両者の組合せですが、SoE/モード2の比重が高いとも言えるでしょう。この両者の違いを理解し、組み合わせて行くための取り組みが必要です。
■バイモーダルSI:モード1とモード2を両方できることの価値
SoRとSoE、モード1とモード2、これからの情報システムは、両者の共存・連係が必要です。このような関係をガートナーは「バイモーダル」と呼んでいます。しかし、両者は思想や文化の違いから対立が起きやすく、同じ組織に閉じ込めておくことは難しいため、独立した組織とするほうが現実的だとも述べています。そして、双方に敬意を払いつつ間を取り持ち、調整を行うための役割として「ガーディアン」を置くことを提唱しています。
デジタル・トランスフォーメーションを担うSIビジネスにも同様の視点を持ち込む必要があるかも知れません。つまり、異なる価値を提供する2つの組織を、業績評価も基準も変えて、それぞれに独立させ、お客様のニーズに応じ、両者を組み合わせて提供する「新たなシステム・インテグレーション・ビジネス」の提供へと、自らの役割を進化させる必要があるでしょう。
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内容:全3回の講義と演習/受講者と講師のコミュニケーション
- 2月26日(月)第1回 最新のITトレンドとこれからのビジネス戦略
- 4月27日(金)第2回 デジタル戦略を実践するための手法とノウハウ
- 5月29日(火)第3回 未来創造デザインによる新規事業の創出
2月14日(水)よりスタートする次期「ITソリューション塾・第27期」の受付を開始致しました。
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日程 2018年2月14日(水)~4月25日(水) 18:30~20:30
回数 全11回
定員 80名
会場 アシスト本社/東京・市ヶ谷
料金 ¥90,000- (税込み¥97,200) 全期間の参加費と資料・教材を含む
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【お願い】早期に定員を超えると思われますので、まだ最終のご決定や参加者が確定していない場合でも、ご意向があれば、まずはメールにてご一報ください。優先的に参加枠を確保させて頂きます。
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第27期は、これまでの内容を一部変更し、AIやIoTなどのITの最新トレンドについての解説と共に、そんなテクノロジーを武器にして、どうやって稼げばいいのかについて、これまで以上に踏み込んで考えてゆこうと思います。また、働き方改革やこれからのビジネス戦略についても、皆さんに考えて頂こうと思っています。
SI事業者の皆さんには、これからのビジネス戦略やお客様への魅力的な提案を考える材料を提供します。
情報システム部門の皆さんには、自分たちのこれからの役割やどのようなスキルを磨いてゆく必要があるのかを考えるきっかけをご提供します。
講義で使用する500ページを超える最新のプレゼンテーションは、オリジナルのままロイヤリティ・フリーで提供させて頂きます。お客様への提案、社内の企画資料、イベントでの解説資料、勉強会や研修の教材として、どうぞ自由に活用してください。
古い常識をそのままにお客様の良き相談相手にはなれません。
「知っているつもりの知識」から「実践で使える知識」に変えてゆく。そんなお手伝いをしたいと思っています。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
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- 開発と運用について大幅に追加改訂しました。
- デジタル・トランスフォーメーションについての解説を増やしました。
- 量子コンピュータについての記述を追加しました。
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追加・更新の詳細は以下の通りです。
ビジネス戦略編
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションの意味 p.5
【新規】デジタル・トランスフォーメーションとは p.11
【改訂】デジタル・トランスフォーメーション実践のステップ p.12
【新規】デジタル・トランスフォーメーション時代に求められる能力 p.14
【改訂】SIビジネスのデジタル・トランスフォーメーション p.15
【改訂】共創の3つのタイプ p.82
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】深層学習が前提となったシステム構造 p.68
開発と運用編
【新規】開発と運用:従来の方式とこれからの方式 p.15
【新規】アジャイル開発の基本構造 p.16
【新規】アジャイル開発の目的・理念・手法 p.23
【新規】スクラム:特徴・三本柱・基本的考え方 p.25
【新規】スクラム:スクラム・プロセス p.26
【新規】スクラム:プロダクト・オーナー p.27
【新規】スクラム:スクラム・マスター p.28
【新規】スクラム:開発チーム p.29
【新規】エクストリーム・プログラミング p.30
【新規】これまでのソフトウェア開発 p.58
【新規】これからのソフトウェア開発 p.59
【新規】Microsoft Azureによる予測モデルの開発方法 p.60
インフラ編
【新規】ストレージ・コストの推移 p.215
テクノロジー・トピックス編
【改訂】ソーシャル・グラフ 解説文・追加&改訂 p.4
【改訂】CSIRT解説文・追加&改訂 p.6
【改訂】3Dプリンター 解説文・追加&改訂 p.7
【改訂】RPA 解説文・追加&改訂 p.17
【新規】量子コンピュータがいま注目される理由 p.73
【新規】D-Waveとは
【新規】量子ゲート方式の限界と可能性 p.82
ITの歴史と最新トレンド
*追加・変更はありません。
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
*追加・変更はありません。
サービス&アプリケーション・基本編
*追加・変更はありません。
クラウド・コンピュータ編
*追加・変更はありません。
【講演資料】量子コンピュータ
【新規】量子コンピュータがいま注目される理由 p.73
【新規】D-Waveとは
【新規】量子ゲート方式の限界と可能性 p.82