「デジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation/DX)」
そんな言葉をあちらこちらで目にするようになりました。これまでのような何パーセント、あるいは十数パーセントの改善ではなく、何倍、何十倍の成果を、IT(デジタル・テクノロジー)を駆使して手にする取り組みが、デジタル・トランスフォーメーションの目指していることです。
これによりビジネスの価値基準、例えば、価格、期間、生産性などの常識を劇的に転換し、圧倒的な競争優位を手に入れようというわけです。そのために、AIやロボット、センサーやネットワークなどのデジタル・テクノロジーを駆使しして、ビジネスの仕組みを根本的に作り替えてしまおうというわけです。
このようなデジタル・トランスフォーメーションの時代に、旧態依然としたテクノロジーを引きずり、お客様に対するテクノロジー・リーダーシップを発揮できないSI事業者は、その存在価値を失ってしまうことを覚悟すべきです。
いまだ、オンプレミスの物理システムを仮想化しクラウドのIaaSに移行して工数を稼ぐことを「クラウド・インテグレーション・ビジネス」と言ってはばからず、センサーを組み込んだモノのデータを取得、処理するシステムを受託開発して「IoTビジネス」とアピールしているようでは、テクノロジー・リーダーシップなど、とても無理な話です。
テクノロジー・リーダーシップとは、一歩先の未来にお客様を導くために、テクノロジーの価値を正しく理解し、そのビジネスへの実装を支援することです。
そのためには、一歩先の未来に求められるテクノロジーを目利きし、見識を持たなければなりません。また、それを実装するノウハウもまた必要になるでしょう。
では、どのようなテクノロジーが一歩先の未来を創る力を持つようになるのでしょうか。アプリケーション、プラットフォーム、インフラストラクチャーとデバイスという3つのカテゴリーに分け、基本となるテクノロジーについて整理してみました。
なお、ここに紹介した以外のテクノロジーについても、注目すべきキーワードはまだまだありますが、特にその中でもSIビジネスへの影響が大きいものについて紹介をさせて頂きます。
アプリケーション
VR(仮想現実)/ AR(拡張現実)/ MR(複合現実)
コンピュータと人間が視覚を介してつながる技術です。
VR(Virtual Reality :仮想現実)
ゴーグルを被るとコンピュータ・グラフィックスで描かれた世界が目の前に拡がります。顔の動きや身体の動きに合わせて映像も動き、ヘッドフォンを被れば音響効果もそれに加わり、まるで自分がそこにいるかのような感覚を体験できます。これがVRです。コンピュータで作られた人工的な世界に自分自身が飛び込み、まるでそれが現実であるかのように体験できる技術です。
代表的な製品としては、Oculus Rift、HTC Vive、PlayStation VRなどがあります。次のような用途に使われています。
- 没入感を体感できるゲーム
- 航空機の操縦シミュレーション
- 3D映像で作られた住宅の中にシステムキッチンなどの住宅設備を設置してみせるデモンストレーションなど
AR(Augmented Reality:拡張現実)
ゴーグルやスマートフォン越しに見ている現実の建物や設備に、それが何かを説明する「別の情報」が重なるように表示されます。自分が見ている室内の光景や風景に、実際にはそこにないモノや建物が表示され、まるでそこに実物があるかのようです。身体を動かしても位置が変わりません。これがAR技術です。現実に見ている視覚空間に情報を重ね合わせて表示させ、現実世界を拡張する技術です。
ポケモンGoのようにスマートフォンやタブレットを風景にかざし、背面カメラで映し出された映像に情報を付加するソフトウェア製品も数多く登場しています。次のような用途に使われています。
- 設備点検の時に見ている箇所についての情報を表示させる
- 機械の操作パネルの映像上にスイッチやレバーの説明や操作方法を表示させる
- 現実の空間にモノを表示して製品の検討や教育などに使う
- スマートフォン越しに映し出された建物や風景に説明情報を重ねるように表示して観光案内をする など
MR(Mixed Reality:複合現実)
ゴーグルの向こうに見える現実世界に投影された3次元映像をさわり、それを動かすことができます。あるいは、現実世界にあるアイテムに触れるとその説明が文字や映像で表示されます。
ARとも似た概念ですが、ARが現実世界にコンピュータの作り出した情報を投影させる技術であるのに対して、MRは現実世界とコンピュータで作り出されたデジタル世界を重ね、そのデジタル世界に触れて操作したり作用をおよぼしたりできる技術です。
VRではコンピュータが作り出したCGに没入しその中で動いたり触れたり感じたりする相互作用を得ることができますが、MRはそんなVRの世界を現実世界に重ね合わせ、そこに表示された3D映像に触れて動かしたり、アイコンに触れて情報を呼び出すなどができるようになります。
マイクロソフトの「HoloLens」を含む「Windows Mixed Reality」が代表的な製品と言えるでしょう。
世界最大級の投資銀行であるゴールドマン・サックスは、世界のVR/ARに関連した市場は2025年までにおよそ800億ドル(約9兆円)に達すると予測しています。これは、現在のデスクトップPC市場にほぼ匹敵する規模です。その市場は、現在盛り上がりつつあるゲームやエンターテイメント分野だけではなく、医療分野や産業分野、小売市場など様々な業界で使われるようになるだろうと予測しています。
ディープラーニング(深層学習)と関連技術
人間が教えなくても森羅万象の中からパターンを見つけ、世界を分類整理する
ディープラーニングが注目されるのは、まさにこの点にあります。
データを分析し、その中に潜む規則性、すなわち「パターン」を見つけ出すことが機械学習のやろうとしていることです。それを使って、ものごとを分類整理し、推論や判断をおこなうための基準やルールを見つけ出そうというわけです。
これまでの機械学習は、このパターンを見つけるために、どのような特徴に基づいてパターンを見つけ出せばいいのかといった着目点、すなわち「特徴量」を予め人間が決めていました。しかし、ディープラーニングには、その必要がありません。データを分析することで特徴量を自ら見つけ出すことができるのです。
例えば、ベテランの職人がものづくりをする現場を想像してください。私たちは、道具の使い方、力加減、タイミングといった目に見える道具の使い方に着目し、その匠の技に感動するでしょう。しかし、本当にそれだけでしょうか。たぶん見た目には分からない他の「何か」がもっとあるかもしれません。その職人に、その説明を求めても、たぶんうまく説明することはできないでしょう。そんな説明できない知識のことを「暗黙知」と呼んでいます。
ディープラーニングはそんな「暗黙知」をパターンとしてデータの中から見つけ出し再現してくれるかもしれません。それをロボットに搭載すれば、匠の技を持つロボットが実現するかもしれません。他にも、
- 品質検査は、素人には気付か些細な不良を確実に見つけ出す
- 保守技術者は、機械の運転データから異常に気付き故障を未然に防ぐ
- 警察官は、犯罪の発生場所やタイミングを長年の経験や勘で予想する
など、世の中にはうまく説明できない「暗黙知」が少なくありません。ディープラーニングは、そんな見た目には分からない、あるいは気付くことの難しいパターンを、人間が特徴量を教えなくてもデータを分析することで自ら見つけ出し、そのパターンを教えてくれるところが、画期的なところなのです。
ディープラーニングだけが機械学習というわけではありませんが、その機能や性能は急速に向上し、それに合わせて実用範囲も拡大しつつあります。
また、ディープラーニングを発展させた技術も数多く登場しています。例えば、大量の学習データを必要とせず自分で学習し能力を高めてゆく深層強化学習(deep reinforcement learning)や「認識」ではなく「生成」においても大きな進化を遂げつつある敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Network)にも注目しておくといいでしょう。
プラットフォーム
ブロックチェーン
ブロックチェーン(blockchain)とは、複数のシステムで取引履歴を分散管理する技術のことです。これには暗号技術とP2Pネットワーク(通信ノード間で中継を介さず直接通信する)技術が使われており、第三者機関による証明がなくても取引の正当性を証明でき、データの改ざんを困難にしています。
ブロックチェーンは、もともと「政府や中央銀行による規制や管理を受けることなく、誰もが自由に取引でき、改ざんなどの不正ができないインターネット上の通貨」として開発されたビットコイン(Bitcoin)の信頼性を担保するための基盤技術として、サトシ・ナカモトと名乗る人物が論文中で初めて原理を示したことが誕生の切っ掛けとなっています。
この論文に基づいて有志の協力によりオープン・ソース・ソフトウエア(OSS)としてビットコインが開発され、2009年より運用が始まっています。運用が開始されて以降、改ざんなどの被害を受けることなく取引が継続されており、その仕組みの有効性・信頼性については認められつつあります。なお、日本にあったビットコインの取引所Mt.Goxのシステムが2014年に外部からの不正侵害による窃盗行為によるものとして取引が停止され大きな社会問題になりましたが、これはビットコインそのものの問題ではなく、ビットコインの取引を仲介するシステムの問題であり、これによってビットコインそのものの信頼性が侵害されたわけではなく、両者は分けて考えなくてはなりません。
さて、このビットコインの信頼性を担保する基盤となったブロックチェーンは、「複数のシステムで取引(トランザクション)の履歴を分散共有し監視し合うことで、取引の正当性を担保する仕組み」といえるでしょう。
一般的な取引では、法律や規制、あるいは実績によって信頼される第三者機関/組織が取引の正当性を保証し、その取引の履歴を一元的に管理することで、信頼性が担保されていました。
ブロックチェーンの技術を使うと、
- ブロックチェーンのネットワークに参加する全てのノードに取引が通知され、だれもがその取引の内容を知ることができます。
- 定められたルール(コンセンサス[合意]するための手順)に従って特定のノードが取引のまとまりである「ブロック」を分散共有された台帳に登録することが許され、登録します。ここでいう台帳とは、取引のまとまりである「ブロック」を時間軸に沿ってチェーンのようにつないだもので、これが「ブロックチェーン」と呼ばれる所以です。
- この台帳に取引記録が追加されると(=ブロックチェーンに新たなブロックが追加されると)、これに参加する全てのノードで新しいブロックチェーンが共有されます。
この一連の仕組みにより、膨大な複数のノードにより取引の履歴は分散共有され、取引の存在と正当性が特定の第三者に頼らなくても証明されるのです。また改ざんしようとしても、分散共有された膨大な数のブロックチェーンの特定のブロックをほぼ同時に改ざんしなければならず、結果として改ざんが不可能になっているのです。例えば、ビットコインの場合は、膨大な数のノードが四六時中ブロックチェーンの更新を行っており、この全てのノードの51%以上を改ざんしなければ、改ざんは成立しません。これは、強力なスパーコンピュータを駆使しても改ざんができない規模となっており、現実的には改ざんができないようになっているのです。
また、ブロックチェーンでは取引者の情報は暗号化されているため、取引の内容は公開されても取引者の具体的な情報に紐付けされていないので匿名性は担保されています。
ブロックチェーンは、ビットコインに代表されるパブリックな取引への適用ばかりではありません。改ざんを困難にする仕組みや、低性能なシステムを分散ノードとして使用し無停止で運用可能なことから、銀行取引や契約などの中核となっている元帳管理に適しているとして、プライベートなシステムでの適用にも注目されるようになってきました。例えば、銀行の預金や為替、決済などの勘定系業務、証券取引、不動産登記、契約管理などへの適用についての検討や研究が進められています。
このようにブロックチェーン技術は、実用に向けた様々な取り組みが積極的にすすめられており、今後ますます注目されるようになってゆくでしょう。
HTAP(OLTP/業務系とOLAP/分析系の実行基盤を統合)
Hybrid Transactional and Analytical Processingの略で、業務系のOLTP(Online Transaction Processing)と分析系のOLAP(Online Analytical Processing)を統合しようという流れです。
その要となるのがデータベースとなるわけですが、SAP HANAが先行し、それに続いてOracle Database、Microsoft SQL Server、IBM DB2などは、既にその機能を実装しています。
実際のところOLTPのDBとOLAPのDBが物理的にひとつであるとは限らず、それぞれのDBがインメモリーで高速に連係し、わずかな遅延でOLTP DBからOLAP DBが生成されることにより、見かけ上ひとつのDBに見えるものもあります。今後、オープン・ソース系DBでも同様の仕組みが登場してくるかもしれませんし、Apache Sparkなどを活用することで、HTAP環境を構築する動きも出てくるでしょう。
HTAPの仕組みを使えば、「業務系」と「分析系」にシステムを分ける必要はなくなります。今後は需要が高まると考えられるIoT→ビックデータ→AI→業務アプリケーションといった連係、すなわち、現場の状況を直ちにアプリーションに反映させるようなシステム・ニーズに於いては、自ずとHTAPが必要とされることになると考えられます。
コンテナとマイクロサービス
ソフトウェアは様々な機能を組み合わせることで、必要とされる全体の機能を実現します。例えば、オンライン・ショッピングの業務を処理するソフトウェアは、ユーザー・インタフェースとビジネス・ロジック (顧客管理、注文管理、在庫管理など) という特定の業務を処理する機能を組合せることで実現します。必要なデータは、すべてのロジックで共有するデータベースに格納され、各ロジックはひとつのソフトウェアの一部として組み込まれます。もし、複数の注文があれば、その注文の単位でソフトウェアを並行稼働させることで対応できます。このようなソフトウェアをモノリシック(巨大な一枚岩のような)と呼びます。
ただ、このやり方では、
- 商品出荷の手順や決済の方法が変わる、あるいは顧客管理を別のシステム、例えば外部のクラウド・サービスを利用するなどの変更が生じた場合、変更の規模の大小にかかわらず、ソフトウェア全体を作り直さなければなりません。
- 変更を重ねるにつれて、当初きれいに分かれていた各ロジックの役割分担が曖昧かつ複雑になり、処理効率を低下させ、保守管理を難しいものにしてゆきます。
- ビジネスの拡大によって注文が増大した場合、負荷が増大するロジックだけ処理能力を大きくすることはできず、ソフトウェア全体の稼働数を増やさなくてはならず、膨大な処理能力が必要となってしまいます。
このようにビジネス環境が頻繁に変わる世の中にあっては、このやり方での対応は容易なことではありません。
この課題に対応しようというのが、マイクロサービスです。このやり方は、ソフトウェアを互いに独立した単一機能の部品に分割し、それらを連結させることで、全体の機能を実現しようとするもので、この「単一機能の部品」をマイクロサービスと呼びます。
個々のマイクロサービスは他とはデータも含めて完全に独立しており、あるマイクロサービスの変更が他に影響を及ぼすことはありません。その実行も、それぞれ単独に実行されます。
この方式を採用することで、機能単位で独立して開発・変更、運用が可能になること、また、マイクロサービス単位で処理を実行させることができるので、処理量の拡大にも容易に対応することができます。
マイクロサービスと相性がいいのが、コンテナです。コンテナは仮想マシンと同様に「隔離されたアプリケーション実行環境」を作る技術です。ただ、仮想マシンとは異なりOS上で稼働するため、仮想マシンのようにそれぞれ個別にOSを稼働させる必要がなく、CPUやメモリ、ストレージなどのシステム資源の消費が少なくてすみます。そのため、極めて高速で起動できるのが特徴です。
ひとつのコンテナは、OSから見るとひとつのプロセスとみなされます。そのため、他のサーバーにコンテナを移動させて動かすにも、OS上で動くプログラムを移動させるのと同様に、元となるハードウェアの機能や設定に影響を受けることがありません。
開発〜テスト〜本番を異なるシステムで行う場合でも、上記のように異なるシステム環境でも稼働が保証されていることや起動が速いことで、そのプロセスを迅速に行うことができるようになります。
このコンテナを使ってマイクロサービスを構成すれば、開発からテスト、本番移行のサイクルを短縮でき、ビジネス・スピードとシステム対応のスピードを同期させる取り組み「DevOps」を効果的に運用することが可能になるのです。
インフラストラクチャーとデバイス
LPWA
IoT(Internet of Things/モノのインターネット)が本格的に普及するとデバイス数は爆発的に増加するとみられており、その数は数年のうちには数百億個にも達すると言われています。これらデバイスに求められる無線通信として期待されているのがLPWA(Low Power, Wide Area:省電力広域無線ネットワーク)」です。
LPWAとは、低速ですが低消費電力で半径数キロ~数十キロの通信が可能な無線通信技術の総称です。
低消費電力の無線ネットワークには、BluetoothやZigBeeなどがありますが、これらは電波を遠くまで飛ばすことはできず、1つの中継器でカバーできる範囲は限られてしまいます。広域に大量のモノを配置し、センサーデータを取得しなければならない場合には、多数の中継器を設置する必要があり、IoT用途には向きません。
また、広域をカバーできる3G/LTEの携帯電話のネットワークでは、1回線あたり月々数百円〜数千円の通信料金が必要となることに加えて、モノに組み込む通信モジュールも高額になり、消費電力も大きいことから、これもまたIoT用途には向きません。
LPWAは、こうした課題を解決する通信手段として登場しました。通信速度は100bps~数十kbps程度であり、3G(下り最大14.4Mbps/上り最大5.76Mbps)/LTE(下り最大150Mbps/上り最大50Mbps)と比較すると桁違いに遅い通信速度ですが、用途を絞り込めば圧倒的な低消費電力で広域での通信が可能です。通信モジュールが低価格であることからも、IoTのための無線ネットワークとして期待されています。
主要な方式として、「LoRaWAN」「NB-IoT」「SIGFOX」があります。
5G(第5世代移動体通信)
「第5世代移動体通信方式」すなわち5Gは現在の4Gに続く次世代のモバイル通信として、2020年頃の利用開始を目指し開発が進められています。
1980年代までの「1G」では、アナログ方式が使われ「音声通話」をモバイルで利用できるようになりました。1990年代の「2G」では、デジタル方式となり、音声に加えて「テキスト通信」が使えるようになります。2000年代には「3G」が登場し、「高速データ通信」が可能となり、携帯電話でのホームページ閲覧や電子メールのやり取りができるようになりました。2010年代には「4G」の利用が始まり、スマートフォンの普及と相まってデータ通信はさらに高速化して「動画通信」ができるようになります。「5G」では、4Gまでの機能や性能をさらに高めることに加え、新たに「IoT」への対応が期待されています。
このような需要に応えるため、5Gは「高速・大容量データ通信」、「大量端末の接続」、「超低遅延・超高信頼性」といった要件を満たすモバイル通信を実現しようというのです。
- 「高速・大容量データ通信」とは、現在のLTEの100倍の高速化・大容量化したデータ通信で、10G~20Gbpsといった超高速なピークレートの実現を目指しています。加えて、通信環境の如何に関わらず、どこでも100Mbps程度の高速通信が可能となります。
- 「大量端末の接続」とは、現在の100倍といった端末数への対応や省電力性能の実現をめざします。
- 「超低遅延・超高信頼性」とは、如何なる場合でも通信できることを目指します。例えば通信が遅れることで事故につながりかねない自動運転自動車や緊急時の確実な通信が求められる災害対応などに使われることが想定されています。
5Gは、こうした異なる要件をすべて1つのネットワークで満たすことができるように開発が進められていますが、実際の利用場面では、それぞれの必要に応じて、各要件を満たす1つのネットワークを仮想的に分離して提供できるようになります。この技術は、「ネットワークスライシング」と呼ばれ、5Gの中核的技術の1つとして位置付けられています。
さらに企業や組織が独自のネットワークを5Gで構築することが可能となり、コストのかかる通信設備を自ら所有し、運用管理することなく、自分たちの閉域網を構築することが可能になります。
5Gの登場は、このようにこれまでのネットワークのあり方を大きく変える可能性を持っているのです。
エッジ・コンピューティング
インターネットにつながるデバイスは、自動車や家電製品、ビルの設備や日用品にまで広がり、そこに組み込まれたセンサーが大量のデータを送り出すようになりました。そのため、大量のデータが通信回線、主にはモバイル通信回線に送り出されるようになり、回線の帯域を圧迫してしまう状況も出てきました。
そこで、デバイスの周辺にサーバーを配置し、中間処理して必要なデータのみを回線に送り出す「エッジサーバ」が普及の兆しを見せ始めています。エッジサーバはデータの集約だけではなく、デバイスを利用する現場での即時処理・即時応答が必要な業務や、きめ細かなセンサーデータを大量に集めるための仕組みとしても使われています。このようなエッジサーバは、空に浮かぶ雲に見立てた「クラウドコンピューティング」に対して、地面に漂うように広がる霧に見立てて「フォグコンピューティング」と呼ばれる場合もあります。
エッジサーバは、デバイスが置かれるローカルばかりでなく、より広い地域をカバーするために通信回線の経路上に置かれるケースも想定されています。
それとは反対に、デバイスに搭載するコンピュータの処理能力や機能を高めようというアプローチもあります。例えば、AppleのA11 BionicやHuaweiのKirin 970など、機械学習の機能をデバイスに搭載するプロセッサーに持たせようというものです。
これらエッジ・コンピューティングのメリットは、データを広域のネットワークに送り出さないことで、次の3点を実現することにあります。
- 通信量の削減
- セキュリティの強化
- 低遅延の実現
IoTの普及やアプリケーション・ニーズの高度化に伴い、クラウドだけではできない大量データの処理や高速応答を受け持つ役割として、エッジによる超分散コンピューティングの需要は、拡大してゆくことになるでしょう。
量子コンピュータ
「ムーアの法則」が限界を迎えつつあります。一方で、IoTやAIの普及と共に、データ量や計算需要は爆発的に増大し、必要とされる演算能力もまた増大しています。この状況に対応すべく、プロセッサー・コアの並列化やASIC、FPGAなどの特定の処理目的に最適化された半導体、スパーコンピュータを使うというという解決策が採られていますが、必ずしも十分なものとは言えません。量子コンピュータは、このような状況に対応する新たな解決策として注目されています。
特に、総当たりで計算しなければならない素因数分解や組み合わせ最適化問題、あるいは検索問題などで、劇的な演算速度の高速化が期待されています。
ただ、現段階では全ての演算問題を解くことができる量子コンピュータにめどが立った訳ではありません。そのため、一気にこれまでの古典コンピュータを置き換えるとことにはならないでしょう。ただし範囲の限られた演算問題であっても、実用での適用範囲は広く、早期実用化への期待が高まっています。その意味でも、いち早くそのノウハウを持つことの意義は大きいと考えられます。
ここに紹介したテクノロジーに加え、イノベーションを生みだし、ビジネス・スピードに合わせてジャストイン・タイムでシステム・サービスを提供する取り組みにも注力する必要があります。それが、デザイン思考、リーン・スタートアップ、アジャイル開発、DevOpsです。
- デザイン思考:多様な可能性の中からイノベーションを生みだす手法
- リーン・スタートアップ:最小限の機能に絞って短期間で開発しフィードバックをうけて完成度を高める考え方
- アジャイル開発:ビジネスの成果に貢献するシステムを、バグフリーで変更にも柔軟に開発する取り組みと手法
- DevOps:安定稼働を維持しながら、開発されたシステムを直ちに・頻繁に本番環境に移行する取り組み
SIビジネスを成長させてゆくためには、ここに紹介したような次の時代を担うテクノロジーをいち早く武器にして、お客様のデジタル・トランスフォーメーションに貢献することです。そのためには、これまでの常識にとらわれない、ビジネス開発やシステム構築、システム運用のノウハウもまた武器にしなくてはならないのです。
2月14日(水)よりスタートする次期「ITソリューション塾・第27期」の受付を開始致しました。
=====
日程 2018年2月14日(水)~4月25日(水) 18:30~20:30
回数 全11回
定員 80名
会場 アシスト本社/東京・市ヶ谷
料金 ¥90,000- (税込み¥97,200) 全期間の参加費と資料・教材を含む
—
【お願い】早期に定員を超えると思われますので、まだ最終のご決定や参加者が確定していない場合でも、ご意向があれば、まずはメールにてご一報ください。優先的に参加枠を確保させて頂きます。
=====
第27期は、これまでの内容を一部変更し、AIやIoTなどのITの最新トレンドについての解説と共に、そんなテクノロジーを武器にして、どうやって稼げばいいのかについて、これまで以上に踏み込んで考えてゆこうと思います。また、働き方改革やこれからのビジネス戦略についても、皆さんに考えて頂こうと思っています。
SI事業者の皆さんには、これからのビジネス戦略やお客様への魅力的な提案を考える材料を提供します。
情報システム部門の皆さんには、自分たちのこれからの役割やどのようなスキルを磨いてゆく必要があるのかを考えるきっかけをご提供します。
講義で使用する500ページを超える最新のプレゼンテーションは、オリジナルのままロイヤリティ・フリーで提供させて頂きます。お客様への提案、社内の企画資料、イベントでの解説資料、勉強会や研修の教材として、どうぞ自由に活用してください。
古い常識をそのままにお客様の良き相談相手にはなれません。
「知っているつもりの知識」から「実践で使える知識」に変えてゆく。そんなお手伝いをしたいと思っています。
================================
- 開発と運用について大幅に追加改訂しました。
- デジタル・トランスフォーメーションについての解説を増やしました。
- 量子コンピュータについての記述を追加しました。
================================
追加・更新の詳細は以下の通りです。
ビジネス戦略編
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションの意味 p.5
【新規】デジタル・トランスフォーメーションとは p.11
【改訂】デジタル・トランスフォーメーション実践のステップ p.12
【新規】デジタル・トランスフォーメーション時代に求められる能力 p.14
【改訂】SIビジネスのデジタル・トランスフォーメーション p.15
【改訂】共創の3つのタイプ p.82
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】深層学習が前提となったシステム構造 p.68
開発と運用編
【新規】開発と運用:従来の方式とこれからの方式 p.15
【新規】アジャイル開発の基本構造 p.16
【新規】アジャイル開発の目的・理念・手法 p.23
【新規】スクラム:特徴・三本柱・基本的考え方 p.25
【新規】スクラム:スクラム・プロセス p.26
【新規】スクラム:プロダクト・オーナー p.27
【新規】スクラム:スクラム・マスター p.28
【新規】スクラム:開発チーム p.29
【新規】エクストリーム・プログラミング p.30
【新規】これまでのソフトウェア開発 p.58
【新規】これからのソフトウェア開発 p.59
【新規】Microsoft Azureによる予測モデルの開発方法 p.60
インフラ編
【新規】ストレージ・コストの推移 p.215
テクノロジー・トピックス編
【改訂】ソーシャル・グラフ 解説文・追加&改訂 p.4
【改訂】CSIRT解説文・追加&改訂 p.6
【改訂】3Dプリンター 解説文・追加&改訂 p.7
【改訂】RPA 解説文・追加&改訂 p.17
【新規】量子コンピュータがいま注目される理由 p.73
【新規】D-Waveとは
【新規】量子ゲート方式の限界と可能性 p.82
ITの歴史と最新トレンド
*追加・変更はありません。
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
*追加・変更はありません。
サービス&アプリケーション・基本編
*追加・変更はありません。
クラウド・コンピュータ編
*追加・変更はありません。
【講演資料】量子コンピュータ
【新規】量子コンピュータがいま注目される理由 p.73
【新規】D-Waveとは
【新規】量子ゲート方式の限界と可能性 p.82