何かをしてもらうためにお金を払うのがビジネスだとするならば、当然ながら何かをやり遂げてくれる人をプロと見込んで発注するわけです。「きっとこういう仕事を求めるクオリティで実現してくれるだろう」と値踏みをするのが履歴書に書かれた学歴や職歴、スキルです。しかし、40代になってなお学歴に縋る、どこそこの大企業に勤めた、どの役職であった、というのは果たして本当にその中年の「仕事の品質保証」になるのでしょうか。そういうカタガキは仕事の品質とあまり関係が無くなり、取引先や企業組織や部下が求めるものは仕事に対する姿勢やこだわり、あるいはビジネス、社会に対するものの考え方へとどんどんシフトしていく。それがこれからの中高年が向き合うことを余儀なくされる環境の変化だと強く感じます。[文春オンライン・「負け組」50代の漂流・山本一郎]
ITが事業の合理化や生産性を支える基盤であるという考え方は、もはや過去のものになりつつあります。ITはビジネスとの一体化を推し進め、収益の源泉たる事業価値を生みだす存在として、これまでにも増して重要な経営資源になろうとしています。
デジタル・トランスフォーメーションとは、まさにこの状況を表現する言葉です。めまぐるしく変わるビジネス環境の変化に即応し、競争力を維持し経営を支え続けるためには、
「IT(デジタル・テクノロジー)を駆使して製品やサービスをジャスト・イン・タイムで提供できる組織・体制、ビジネス・プロセス、事業・経営へと転換してゆくこと」
が求められています。もはや「合理化や生産性を支える」ITではなく、企業の存続と競争力を維持するためにITを前提として事業活動や経営のあり方を転換することを意味する言葉なのです。
こんな時代だからこそ事業会社はIT人材を求めており、IT業界における転職需要を拡大させている1つの理由となっています。しかし、必ずしもそのマッチングはうまくいっていないようです。
IT企業で長年働き、次のキャリアとしてユーザー企業のIT部門に迎え入れられ、それなりの責任を果たしたいと考えるのは、自然のことのように思います。これまで勤めていたIT企業の看板、ビッグ・プロジェクトの経験、資格や肩書きなど申し分もなく、何とかなるだろうと面接を請けると、最後の経営者との面接で、だめになることがよくあるそうです。
「我が社はITを活かして事業の変革を進めたい。そのために、何をすればいいとお考えですか?」
そんな問いかけに、答えられないのだそうです。
「お客様が何をしたいかを聞き出し、要件をまとめ、それをシステムに仕立て上げることはやって来ました。しかし、何をすべきかと問われると、答えようがありませんでした。もっと、若いときから経営や事業について関心を持ち、勉強すべきだったと思っています。」
面接に落ちた50代の方から、こんな反省の弁を聞き、なるほどこれでは採用は難しいだろうと思いました。
いまユーザー企業が求めているのは、IT企業の事情がわかり彼らの提案を値踏みでき、コストパフォーマンスの高い情報システムを作れる人材ではありません。ITの価値や可能性を正しく理解し、デジタル・トランスフォーメーションを主導する人材なのです。
ユーザー企業の課題を整理でき、彼らが設定したテーマを確実に実現することではなく、その企業の未来のあるべき姿を描き、自らがテーマを設定し、仮説検証を繰り返して変革のリーダーシップを発揮できることなのです。
めまぐるしく進化するテクノロジーがもたらす価値や可能性を正しく理解し、それを経営に活かすために何をすべきかを自ら組み立てられる人材と言うことになるのでしょう。
このような人材は、ユーザー企業にばかりが求めているのではありません。IT企業もまた、こういうことができる人材がいなければ、お客様に価値を提供でなくなる時代になろうとしています。
「マシンは答えに特化し、人間はよりよい質問を長期的に生みだすことに力を傾けるべきだ。」
“これからインターネットに起こる『不可避な12の出来事』”の中で、ケビン・ケリーはこのように述べています。
IT企業、特にSI事業者の収益を支えている工数や物販は、AIや自動化に置き換えられてゆきます。与えられたテーマは機械が解決し実現してくれるのです。一方で、「何に答えを出すべきか」を設定し、それを実現するプロセスを組み立てることができる人材こそが、ユーザー企業やIT企業にかかわらず、求められている人材と言うことになるのでしょう。
AIが優れた答えを出してくれる一方で、何に答えて欲しいかを決める役割は、しばらくは人間が担うことになるでしょう。AIの機能や生産性が高くなればなるほど、人間には多くの問いが求められ、それが人間の社会や知性を進化させてゆくことになります。そのような能力が求められる時代になったということなのです。
今年は、キャリア人材の転職仲介、セカンド・キャリアとしての顧問業や自営業への転換支援、事業継承や生き残りを賭けたM&A仲介に関わる企業の方たちと仕事をする機会がありました。そういう人たちと話をしながら、求められる人材が大きく変わりつつあることを実感しています。
だからこそ、こういう人材をいかに育ててゆくかは、いまの私にとっての大切なテーマでもあります。来年で10年目、第27期を迎えるITソリューション塾も、当初の「ITの常識をわかりやすく伝えること」から「ITに関わる人が時代に即した考え方や視点を持てるようにお手伝いすること」へと大きく変わってきました。なぜならば、知識などというものは、もはや巷にあふれていて、自分で学ぼうと思えばいくらでもあるわけで、もはやその点に於いて、研修や講師の価値は失われつつあるからです。
しかし、世の中やビジネスの動向を咀嚼し、それが意味することは何か、どうすれば解決できるかを問い、考えてもらう機会を提供することにおいては、研修や講師の役割はまだまだ残っていると考えています。そういう考え方や視点を持ち行動を起こせば、いまの時代に必要な知識やスキルは自ずと身についてゆきます。
行動を起こせるかどうかは本人の問題で、残念ながらそこまでを保証するものではありませんが、そのきっかけは提供できるだろうと思っています。
ここで塾の宣伝をしたのではなく、塾に行くか行かないかにかかわらず、自らが自分の未来に対して問題を提起し、学んでゆかなければなりません。そして、会社やお客様から与えられたテーマに正解を出すことではなく、自らテーマを設定し、AIや機械などのテクノロジーを駆使し、短時間に精度の高い正解をつくって行く、そんなサイクルを高速に回してゆくことで、自らを進化させてゆくことが求められてゆくのでしょう。
藤井聡太・四段が中学生でありながらベテラン棋士をなぎ倒し快進撃を続けられたのは、AI将棋で繰り返し練習したことも1つの理由だと言われています。このことは、伝統的な棋譜というこれまでの常識あるいは先入観を越えて将棋に新たな可能性をもたらしただけではなく、スキルを磨くためには時間がかかるという常識がもはや時代遅れであるという現実を突きつけたとも言えます。まさに、私たちはいま「問いを作る」あるいは「テーマを見つける」ことが、人材の社会的価値であることを真正面から受けとめなくてはならないのです。
この問いかけは、IT企業だけが考えることではなく、ユーザー企業の経営者や事業責任を担う人たちもまた考えてゆかなくてはなりません。来年2月にスタートする「ビジネス・エグゼクティブのためのIT戦略塾」は、そんな人たちにもテクノロジーと経営/事業について深く考察していだく機会を提供しようと思っています。
テクノロジーの進化がこれまでの人間の仕事を奪うのは、もはや避けられない現実です。だからこそ、そのテクノロジーを使いこなすための問いやテーマを作る力が求められているのです。そして、それこそが、いま多くの企業が求めている「優秀な人材」ということになるのでしょう。
2月14日(水)よりスタートする次期「ITソリューション塾・第27期」の受付を開始致しました。
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日程 2018年2月14日(水)~4月25日(水) 18:30~20:30
回数 全11回
定員 80名
会場 アシスト本社/東京・市ヶ谷
料金 ¥90,000- (税込み¥97,200) 全期間の参加費と資料・教材を含む
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【お願い】早期に定員を超えると思われますので、まだ最終のご決定や参加者が確定していない場合でも、ご意向があれば、まずはメールにてご一報ください。優先的に参加枠を確保させて頂きます。
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第27期は、これまでの内容を一部変更し、AIやIoTなどのITの最新トレンドについての解説と共に、そんなテクノロジーを武器にして、どうやって稼げばいいのかについて、これまで以上に踏み込んで考えてゆこうと思います。また、働き方改革やこれからのビジネス戦略についても、皆さんに考えて頂こうと思っています。
SI事業者の皆さんには、これからのビジネス戦略やお客様への魅力的な提案を考える材料を提供します。
情報システム部門の皆さんには、自分たちのこれからの役割やどのようなスキルを磨いてゆく必要があるのかを考えるきっかけをご提供します。
講義で使用する500ページを超える最新のプレゼンテーションは、オリジナルのままロイヤリティ・フリーで提供させて頂きます。お客様への提案、社内の企画資料、イベントでの解説資料、勉強会や研修の教材として、どうぞ自由に活用してください。
古い常識をそのままにお客様の良き相談相手にはなれません。
「知っているつもりの知識」から「実践で使える知識」に変えてゆく。そんなお手伝いをしたいと思っています。
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- 開発と運用について大幅に追加改訂しました。
- デジタル・トランスフォーメーションについての解説を増やしました。
- 量子コンピュータについての記述を追加しました。
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追加・更新の詳細は以下の通りです。
ビジネス戦略編
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションの意味 p.5
【新規】デジタル・トランスフォーメーションとは p.11
【改訂】デジタル・トランスフォーメーション実践のステップ p.12
【新規】デジタル・トランスフォーメーション時代に求められる能力 p.14
【改訂】SIビジネスのデジタル・トランスフォーメーション p.15
【改訂】共創の3つのタイプ p.82
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】深層学習が前提となったシステム構造 p.68
開発と運用編
【新規】開発と運用:従来の方式とこれからの方式 p.15
【新規】アジャイル開発の基本構造 p.16
【新規】アジャイル開発の目的・理念・手法 p.23
【新規】スクラム:特徴・三本柱・基本的考え方 p.25
【新規】スクラム:スクラム・プロセス p.26
【新規】スクラム:プロダクト・オーナー p.27
【新規】スクラム:スクラム・マスター p.28
【新規】スクラム:開発チーム p.29
【新規】エクストリーム・プログラミング p.30
【新規】これまでのソフトウェア開発 p.58
【新規】これからのソフトウェア開発 p.59
【新規】Microsoft Azureによる予測モデルの開発方法 p.60
インフラ編
【新規】ストレージ・コストの推移 p.215
テクノロジー・トピックス編
【改訂】ソーシャル・グラフ 解説文・追加&改訂 p.4
【改訂】CSIRT解説文・追加&改訂 p.6
【改訂】3Dプリンター 解説文・追加&改訂 p.7
【改訂】RPA 解説文・追加&改訂 p.17
【新規】量子コンピュータがいま注目される理由 p.73
【新規】D-Waveとは
【新規】量子ゲート方式の限界と可能性 p.82
ITの歴史と最新トレンド
*追加・変更はありません。
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
*追加・変更はありません。
サービス&アプリケーション・基本編
*追加・変更はありません。
クラウド・コンピュータ編
*追加・変更はありません。
【講演資料】量子コンピュータ
【新規】量子コンピュータがいま注目される理由 p.73
【新規】D-Waveとは
【新規】量子ゲート方式の限界と可能性 p.82