「セキュリティが心配なので○○を禁止する。」
そんな「セキュリティ対策(?)」が、当たり前に行われています。「セキュリティ対策」とは本来、テクノロジーによって実現する利便性や効率を最大限に引き出すための安全対策であり、その安全を確実に維持するためのルールの運営や教育などの安心対策でなくてはならないはずです。テクノロジーの価値を毀損する「セキュリティ対策」に何の意味があるのでしょうか。
何が起こるか分からない、不安だから、心配だからと、セキュリティ対策の本来の目的を棚上げし、「対策すること」を目的とするとこんな発想になるのでしょう。
そもそも何を守のでしょうか。どの程度の安心や安全を担保すればいいのでしょうか。対象や基準を定めぬままに、対策を考えてはいないでしょうか。本来対策など必要のないことまで含めて、漠然と「心配だから、不安だから」で、一律全てに対策(らしきこと)をしてはいないでしょうか。
例えば、機密扱いする価値のない資料を暗号化してメールに添付し、そのパスワードを続けて送ってくることがあります。そんな資料を暗号化することに無駄なシステム資源を消費し、平文でパスワードを送り、それを開く手間を受ける人にも求めているのです。それでセキュリティが担保されることなどないことは、まともに考えれば分かる話です。
メールへ添付すること自体ネットワークに負担をかけるわけで、それが同報通信ともなると膨大なトラフィックを産み出します。また、メールで送り出されたファイルはもはや送信者は管理できません。そのためセキュアに扱われているかどうかが分からなくなってしまいます。ファイル共有サービスを使えば、誰がいつその資料をダウンロードしたかが分かりますし、問題があればいつでもダウンロードを停止できるわけですから、セキュアな運用が可能です。しかし、外部の仕組みを使うのが心配だと根拠稀薄な理由により、それも使わせないところもあります。
本質に向きあうことなく思考停止し、セキュアであることよりもセキュリティ対策(?)を行うという形式が大切であると考える人たち、それに文句は言いつつも改善を働きかけない人たちの結果としての暗黙の了解が、テクノロジーの価値を毀損し、ビジネスへの貢献を阻んでいるのです。
ものごとの本質を問い、その本質的価値を最大限に引き出すために、何をすべきかを考え、それにふさわしい手段を提供することが、ITに関わるビジネスの「あるべき姿」です。ここに紹介した「セキュリティ対策(?)」に留まらず、同様の状況はSIビジネスの現場にもありそうです。
お客様のビジネスの成果に貢献する
SIビジネスの本質的な価値がここにあることは、今も昔も変わりません。しかし、その本質を自らに問わないままに、手段を提供すること、あるいは手段の価値(=儲け)を最大化することが目的とはなっていないでしょうか。
かつて、ビジネス環境の変化が緩やかであった時代、ITに求められるスピードも緩やかでした。また、ITの対象は社内業務に留まり、ビジネス環境の変化が及ぼすシステム仕様の変更は限られていました。そのため「全ての仕様を決定」することが可能であり、仕様を凍結して時間をかけて開発しても、結果としての変更は限定的であり、ウォーターフォール型でも十分な成果をあげることができました。
しかし、ITの役割が社内業務だけではなく、顧客やビジネスを生みだす役割、例えば、マーケティングや販売、サービスの直接的な提供へと役割を拡げてきたいま、ビジネス環境の変化への即応が、売上や利益に直結します。ITによりビジネス・モデルが変わり、ITを前提にした新しいビジネス・モデルを創ることが、企業の競争力を維持するために大きな役割を担うようになると、社内のための業務システムも変化のスピードに対応しなければなりません。
「お客様のビジネスの成果に貢献する」というSIビジネスの本質的な価値は変わりませんが、それを実現する手段は明らかに変化を求められています。それにもかかわらず、旧態依然とした手段のままで、新しい時代の変化に目をつむり、本質を問うことを忘れてしまった企業は、やがては必要とされなくなってしまうでしょう。
いま、お客様が求めているのはテクノロジーとスピードです。AIやIoT、クラウドなどのテクノロジーを、お客様の事業に組み込み、お客様の事業の競争力を高めることが「お客様のビジネスの成果に貢献する」ことです。また、変化の激しいビジネス環境に即応して、必要な情報システムを開発、変更することができる、そんなスピードに対応しなければなりません。もはや旧態依然とした手段がそのまま通用しないのです。具体的施策については、下記ブログをご参照下さい。
【参考】デジタル・トランスフォーメーションの本質、破壊されるSIビジネス、この変化を味方にする方法
その必要性をお客様に伝えることもまたSI事業者の大切な役割です。ITがもはや効率化や利便性を高める手段に留まらないこと、むしろ積極的にITを武器にしなければ事業の競争優位を失ってしまうことを、お客様に理解してもらわなければ自分たちのビジネスを失ってしまうかもしれないからです。
情報システム部門にしかお客様を持たないSI事業者は「稼働率は上がっても利益率は下がる」現実に直面しています。それは、情報システム部門がコスト削減をミッションとする組織だからです。自分たちの売上と利益を伸ばしてゆきたいと考えるのであれば、売上や利益の拡大をミッションとする事業部門や経営者にITの価値を直接伝え、コストではなく投資としてITを使ってゆくことの大切さを訴求できなければなりません。
そんなことは「もうやっている」とご批判を頂くかもしれません。しかし、事業部門と組んだIoTやAIのプロジェクトがPoC(Proof of Concept)に留まり、本格的なプロジェクトにつながらない「PoC貧乏」を繰り返しているとすれば、そのメッセージがうまく訴求できていない証しです。
それは、お客様と一緒になってリスクをとる覚悟ができていないからかもしれません。これまで同様に、お客様の支援者に留まり、お客様から「こうして欲しい」と正解を期待しているからかもしれません。それではいつまで経っても、経営者や事業部門に覚悟を伝えることはできず、彼らを動かすことはできないのです。
お客様と手を組んでリスクを共有して、お客様のビジネスの成果に貢献する
経営者や事業部門に、そんなメッセージを届けているでしょうか。それができていないとすれば、事業部門や経営者を直接の顧客に引き込むことができないのは当然です。
2017年の年初に上梓した拙著「未来を味方にする技術」は、ITの価値を「ITを知らない人」に伝える言葉を綴ったものです。拙著に限らず、そんな言葉が巷にあふれています。そんな現実に目を向け、事業部門や経営者に伝える言葉を磨く努力をしなければ、彼らを動かすことなどできません。それもまた、SIビジネスの本質的目的を達成するために必要な取り組みなのです。
お客様のビジネスの成果に貢献する
この本質的命題に、あらためて真摯に向き合ってみてはどうでしょう。そのために何を捨てなくてはならないのか、何を手に入れなければならないのかを定義し直してみてはどうでしょう。
従来の手段では、お客様のビジネスの成果に貢献できないいま、新たな手段を持つことは、極めて合理的なことです。冒頭のセキュリティ対策同様、本質についての問いかけに思考停止し、過去の形式だけをただ無批判に繰り返すことが、いかに無益であり、むしろ社会の発展を停滞させる実害でしかないことを悟るべきです。
ビジネスは加速することはあっても、歩みを緩めることはありません。ならば、その流れにいち早く対応することです。
常に本質を問い続け、そのたになすべきことをすればいいのです。SIビジネスがこれからも成長してゆくためには、それ以外に選択の余地はないはずです。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
2017年12月版・改訂/追加リリース
最新版【12月版】を公開しました。
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・量子コンピュータのプレゼンテーションを追加しました。
・各チャートの解説文を大幅に追加・改訂しました。
・デジタル・トランスフォーメーションについて追加・改訂しました。
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追加・更新の詳細は以下の通りです。
サンプル:量子コンピュータ
ビジネス戦略
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションの意味 p.5
【新規】デジタル・トランスフォーメーション実践のステップ p.11
【新規】デジタル・トランスフォーメーションとは p.12
【新規】SIビジネスのデジタル・トランスフォーメーション p.13
【改訂】SIビジネスの変革を牽引するトレンド p.16
【新規】収益を生みだすビジネス構造 p.17
【新規】働く現場で何が起こっているのか? P.33
【新規】SI事業者の「働き方改革」 p.34
【新規】「働き方改革」で何を目指すのか p.35
開発と運用
【改訂・解説文】情報システムにもとめられる品質 p.5
【改訂・解説文】これからの開発と運用 解説文の改訂 p.6
【改訂・解説文】開発と運用の関係や役割を変革するDevOps p.25
【改訂・解説文】コンテナとDevOpsの関係 p.36
【改訂・解説文】コマイクロサービス p.38
【改訂・解説文】イベント・ドリブンとコレオグラフィ p.39
【改訂・解説文】超高速開発ツール p.41
【改訂・解説文】コレ1枚でわかるFaaS p.42
【改訂・解説文】これからのITとITビジネス p.48
【改訂・解説文】SRE(Site Reliability Engineer) p.49
【改訂・解説文】APIエコノミー p.51
インフラとプラットフォーム
【改訂・解説文】サーバー仮想化とコンテナ p.95
【改訂・解説文】デスクトップ仮想化とアプリケーション仮想化 p.97
【改訂・解説文】ストレージの仮想化 p.102
【改訂・解説文】SDNとNFV p.103
【改訂・解説文】SD-WAN p.104
【改訂・解説文】サーバー仮想化の3つのメリット p.106
【改訂・解説文】コンバージド・システムとハイパーコンバージド・システム p.135
【改訂】ストレージ性能の推移/1台当たりの容量 p.214
【新規】インフラでの重複排除/圧縮 p.220
テクノロジー・トピックス
【改訂・解説文】「ムーアの法則」と「メトカーフの法則」 p.5
【改訂】VRとARとMR (MRを追加、チャートと文言を改訂) p.14
【新規】従来の方法(集中台帳)とブロックチェーン(分散台帳) p.37
【新規】「量子コンピュータ」についての新章を追加 p.66〜79
量子コンピュータの必要性
これまでの古典コンピュータで解けない問題
巡回セールスマン問題(組み合わせ最適化)
量子コンピュータとは何か
量子力学
量子コンピュータの適用分野
BitとQubit
量子コンピュータが高速で計算できる理由
量子コンピュータの種類
量子コンピュータの現状
自然現象を借用したアルゴリズム
量子イジングマシンとスパコン
D-Waveの計算原理
ITの歴史と最新のトレンド
*追加・変更はありません
サービス&アプリケーション・先進技術編/人工知能
*追加・変更はありません
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
*追加・変更はありません
サービス&アプリケーション・基本
*追加・変更はありません
クラウド・コンピューティング
*追加・変更はありません