「AIを使って、うちも何かできないのか?!」
新規事業開発を任されている担当者にこんな言葉がふってきます。
これが、どれほど無意味な問いかけなのかは、次の言葉から分かるでしょう。
「データベースを使って、うちも何かできないのか?!」
データベースでできることはいろいろあります。データベースがなければできないこともあるでしょう。AIもまた同じです。大切なことは「何のために」であり、「どのような事業課題を解決したいのか」次第です。そこがないままにデータベースを使おうとしても使いようはなく、何のビジネス価値も生まれません。当然、ユーザーが魅力を感じることはなく、ビジネスにならないことは明らかです。
「サンフランシスコであまりにもタクシーがつかまらない。この場で乗りたいのに、手をあげてもタクシーは止まってくれない。」
ライドシェア・サービスの代名詞ともなった「Uber」は、そんな創業者の実体験がきっかけだったそうです。
「タクシーが利用者のニーズに応えてくれないのなら、自分たちでつくってしまおう。」
そうやって2009年3月にこの会社は設立されました。
いつでも、どこからでも、誰もが、すぐにスマートフォンでタクシーを呼び出すことができ、しかも既存のタクシーに比べて安い料金で利用できる。そんなUberは瞬く間に世界に拡がってゆきました。そして8年後の2017年10月現在、世界632都市にサービスを展開し、売上高も2兆円を超えています。
Uberの創業者は自分が感じたことを「それが普通だから仕方がない」とは考えず、「もっといいやり方があるはずだ」と考えたのでしよう。そして、それを実現するために「いまできるベストなやり方は何か」を考え抜いたのです。そのとき「ベストなやり方」の選択肢として、その当時としてはまだ目新しいクラウドやスマートフォンに目を付け、その可能性を信じ試行錯誤を繰り返しながら作り上げたのがUberだったのではないでしょうか。
- 「困った」を解決したい。
- もっと便利に使いたい。
- もっといいやり方があるはずだ。
そんな想いが新しいビジネスを生みだすきっかけとなりました。決して、ITでビジネスをやることが目的だったわけではありません。目の前にある課題を解決するには、最新のITを駆使することが一番いいやり方だったのです。そんな原点を突き詰めていった人たちが、結果として既存の業界秩序を破壊するまでの力を持つ、誰もが注目するような新しいビジネスを生みだしてきたのです。
しかし、身近な現実に目を向けると、かならずしもそうではないようです。
「AIを使って、うちでも何かできないのか?!」
冒頭の話しのように、こんな話しが経営者からふってきて、さてどうしたものかと現場が頭を抱えています。「世間でAIが話題になっているので、うちも乗り遅れてはいけない」ということなのでしょう。「AIを使うこと」が目的ではないはずです。目の前の課題を解決したい、もっといいやり方で効率を上げたい。それが目的のはずです。その目的に向き合うことなく、手段を使うことを目的にビジネスを考えるという本末転倒な話しは後を絶ちません。
人々に受け入れられるビジネスは、直面する課題やニーズに気付き、真摯に向き合うことからはじまります。その解決策として「ITがもたらす新しい常識」にも目を向け、その可能性を最大限に活かそうという考え方が、これまでにない革新的なビジネスを生みだしているのです。
AIやIoTといったITの新しい常識をビジネスに活かすとは、こういう態度が必要なのです。
ITビジネスは、いま大きな節目に立たされています。機器の販売はクラウド・サービスに置き換わり、開発や運用も自動化も当たり前になりつつあります。モノ売りや工数のビジネスが縮小することはもちろんのこと、求められるスキルも変わりつつあります。ITの需要はこれまでにも増して高まる一方ですが、収益のあげ方が変わろうとしているのです。
お客様がITに求めていることは、お客様自身のビジネス価値を高めることです。売上や利益の拡大、魅力的な製品やサービスを提供し顧客満足度の向上、働き方改革による従業員満足度の向上を実現したいのです。ITはそんなお客様の期待に応える手段ですが、これまでは手段を手に入れるために多大な手間とコストを必要としました。機器の購入、それらを設置するための設備やデータセンター、アプリケーションの開発、運用管理や保守といった手段に多大な負担を強いられてきたのです。しかし、クラウドの普及や自動化の適用範囲の拡大は、これら負担を無くす方法に動いています。いくら抵抗しようとも、見ない振りをしようとも、この流れに棹を立てることはできません。ならば、その流れに乗るしかありません。
お客様が求めるのは今も昔も「ビジネスの成果」です。ただ従来は事業課題の明確化はお客様の役割で、それをうけて手段を提供するのがSI事業者の役割でした。しかし、手段の提供はこれから縮小してゆきます。一方で、テクノロジーの進化と適用範囲の広がり、ITとビジネスの一体化が進んでゆきます。ITを前提に新しいビジネス・モデルやビジネス・プロセスを創出しなければなりません。
SI事業者はITの専門家として、業務に責任を持つお客様と一緒になって、何をすればいいのかを探索し、最適なやり方を見つけ出してゆくことが求められるようになります。従来のようにお客様が何をして欲しいのかを教えてはくれません。それは前提となる既存のビジネス・プロセスがなく、まったく新しい仕組みを作らなければならないからです。「共創」という言葉が叫ばれているのは、そんな背景があるからです。AIやIoTは、そんな取り組みなくして、ビジネスにすることはできないでしょう。
しかし、「共創」はワイガヤだけでは難しいでしょう。カタチにするためのメソドロジーが必要です。それが、「デザイン思考」です。
それを具体的なシステムへ実装するには、ビジネスの成果に直結するプロセスだけを作り、変更に柔軟な「アジャイル開発」が前提となります。
変更に柔軟であるとすれば、システム資産を所有することは足かせ以外の何者でもありません。だから「クラウド」もまた前提となるのです。
デザイン思考、アジャイル、クラウドはひとつの物語です。それを実践できるスキルがこれからのSI事業者には求められることになります。
「そんなことができる人材はいないよ。」
それは、何処でも同じことです。だから、そういう人材を育ててゆくしかありません。どう教えればいいか分からないというのも言い訳です。自分で新しいことにチャレンジし、学びを楽しめる人材は、少数ながらどんな企業でも必ずいます。そういう人に任せてみてはどうでしょう。
もしかしたら、そんな人材を火事の火消し役に回してはいないでしょうか。旧態依然としたプロジェクトのプロマネにアサインしてはいないでしょうか。そんなことをしている限り、彼らは力を発揮できません。
てきることから一歩を踏み出してみてはどうでしょう。自分たちの未来を手に入れるために、できることはいろいろとあるはずです。
最新版(10月度)をリリースしました!
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
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・人工知能についての新規チャートと解説を大幅に増やしました。
・トレンドにコンピュータの歴史について新たなチャートを追加しました。
・講演資料として「未来を味方にする学び方」を追加しました。
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ITの歴史と最新のトレンド
【新規】コンピュータとは何か p.3
【新規】コンピュータ誕生の歴史 p.4
【改訂】歴史から見たITトレンド p.5
クラウド・コンピューティング
【改訂】クラウドの定義/サービス・モデル (Service Model)・詳細 p.35
【新規】マルチテナント方式の課題を解決する選択肢 p.40
インフラ&プラットフォーム
*変更はありません
サービス&アプリケーション・先進技術/人工知能とロボット
【改訂】コレ1枚でわかる人工知能とロボット・解説改訂 p.11
【改訂】人工知能の3つの役割と人間の進化・解説追加 p.11
【新規】自動化と自律化の領域 p.15
【改訂】自動化から自律化への進化 p.16
【改訂】人工知能やロボットの必要性・解説追加 p.22
【改訂】「人に寄り添うIT」を目指す音声認識・解説追加 p.35
【新規】機械学習と推論(1)〜(3) p.47-49
【新規】ディープラーニングの音声認識能力 p.55
【改訂】人工知能・機械学習・ディープラーニングの関係・解説改訂 p.56
【改訂】第3次AIブームの背景とこれから・解説改訂 p.57
【改訂】「記号処理」から「パターン認識」へ・解説改訂 p.63
【改訂】人間の知性の発達と人工知能研究の発展・解説改訂 p.64
【新規】人間の知性と機械の知性 p.85
サービス&アプリケーション・先進技術/IoT
【新規】IoTの三層構造 p.41
ビジネス戦略
【新規】デジタル・トランスフォーメーション p.4
サービス&アプリケーション・基本
*変更はありません
サービス&アプリケーション・開発と運用
*変更はありません
トピックス
*変更はありません
講演資料
未来を味方にする学び方
実施日: 2017年9月26日
実施時間: 50分
対象者:ITベンダー・情報システム部門
最新トレンドの勉強方法について、自ら体験を交えて解説。