「クラウドを売れる営業を育てたいと考えています。クラウドの知識や提案の仕方などについて、研修をして頂けないでしょうか。」
SI事業者の方から、こんなご相談を頂く機会が増えています。そういうときは、次のような質問をさせて頂きます。
「クラウド案件の受注を増やすことが目的ですか?それとも、これからの御社のビジネスを考えるための知識を身につけさせたいのでしょうか?」
すると、ほぼ全ての人が前者だと答えられます。そういう場合には、仕事とは言え、安易に引き受けないようにしています。
このようなご相談を頂く裏には、人月や物販に関わるビジネスの利益率低下やクラウドへのシフトの動きが現実のものとなり、このままでは大変なことになるから、クラウドを売れる人材を育てておきたいという思惑があります。しかし、仮にそのようなスキルを身につけさせることができたとしても、そのスキルを発揮すればするほどに、研修をうけた当事者の評価が下がるとすれば、誰が「クラウドを売る」ことにがんばれるでしょうか。
多くのSI事業者の業績評価基準は、売上と利益の金額です。それを、工数をできるだけ増やしエンジニアの稼働率を上げること、あるいは製品を安く仕入れて高く売ることで達成しようとしてきました。
しかし、「クラウドを売る」とは、この業績評価基準を無視せよと言うことです。クラウドを売れば売るほどに自分の業績が下がってゆくことを求めるようなことなのです。
SI事業者がクラウド・ビジネスに期待することは、おおよそ次のようなことでしょう。
- 物理システムを仮想化しIaaSへ移行し、その作業工数を稼ぐ。
- IaaSへ移行後の運用管理で工数を稼ぐ。
- クラウド・ベースでアプリケーションを開発し、その工数と運用管理を受託する。
しかし、これはクラウド・ビジネスについての大いなる誤解であり、幻想です。
- 既存のアプリケーションやシステムのアーキテクチャをそのままに、物理マシンを仮想化してIaaSに移行しても、ユーザー企業にあらたな価値が生まれない。むしろ、コンプラインスやセキュリティ、スループットなどの非機能要件が満たされない可能性があり、そんなリスクを増やすようなことを情報システム部門は取り組みたくはないと考える。
- 運用管理の多くが自動化されるので、物理マシンの運用管理に比べると、大幅に工数が減少する。
- SaaSやPaaS、FaaS(Function as a Service)を利用することで、アプリケーション開発や運用管理の工数は大幅に減少する。
工数を増やし稼働率を上げ、売上と利益の目標を達成する業績評価基準をそのままに、「クラウドを売る」とは、自分の評価を下げることに他なりません。仮にスキルを身につけたとしても、そんな無駄なことに時間を費やすよりも、例えじり貧であってもいままでのやり方で短期的な売上と利益を稼ぐことに傾注することは当然のことなのです。
この本質的な矛盾を解消しないままに、「クラウドを売る」ことを求めれば、それは営業の現場にダブル・スタンダードを強いることになります。これは、先週のブログでも指摘したことですが、「思考停止」した指示待ち人間を増やすことになりかねません。思考停止に陥った人たちは、求められていることと現実の乖離を身体で感じていますから、それがストレスとなり不安となって、メンタルな問題を抱え込んでしまうことになるのです。これはまずいと感じた「優秀な人材」は、やはり自分の身を守るために、もっと「まともな会社」に転職しようとするかもしれません。
>自分を守るための「思考停止」、それを助長する経営、何とかしたいという経営者の自己矛盾
こんな状況を生みだしかねない「クラウドを売る」ための研修が、はたして意味があるのでしょうか。
もうひとつ、「クラウドを売る」研修を依頼される背景には、自分たちで何をすればいいかが分からないから、研修でその答えを教えてもらおうということもあるようです。これは調子の良い話しです。本来、新しいビジネスを作るのは経営者や事業責任者の責任です。それを棚上げしたままに、営業力で何とかしろというようなものですから、これはなんとも調子の良い話しです。自分たちだけでできないのであれば、しかるべくコンサルタントを雇い、そのために取り組むべきなのです。
研修で新たな知識や気付きを与えることはできるでしょう。しかし、新しいビジネスを作るというのはそんなに生やさしいことではありません。ならば、「クラウド・ビジネスに参入するための基礎知識を習得する研修」というように目的をはっきりさせ、次につなげるための取り組みにすべきなのです。そういう研修をきっかけに、新たな取り組みに向けたスタートを切るとすれば、それは大いに意味のあることです。
しかし、営業に「これなら売れる!」や「頑張れば何とかできそうだ!」といった売り物を与えずに「クラウドを売る」研修で営業にその責任を転嫁するというのは、経営者や事業責任者の職務怠慢と言わざるを得ません。
「クラウドを売る」研修がダメなのではなく、売り物を作り、業績評価の基準もそれに合わせて作り替えてゆく取り組みの一環として行うのであれば、それは効果的だと思います。しかし、前提となる取り組みを行わないままに、営業に責任を転嫁するようなことをしても、営業のストレスは増すばかりです。だから、「クラウドを売る」研修は、「安易に引き受けない」ようにしているのです。
「クラウドを売る」とは、SI事業者にとって、事業構造や収益構造の見直しを迫るものです。だから、会社全体の事業を一気に置き換えることは容易なことではありません。ならば、優秀な人材をかき集め、自分たちの未来を託す組織を作ることです。それが自社内で作れないのであれば、別会社にしてもいいでしょう。そこでは、ビジネス・モデルや収益構造、商品、業績評価基準を「クラウドを売る」ことを前提としたものにしなければなりません。そういうお膳立てがあってこそ、「クラウドを売る」研修は価値を生みだすのです。
最新版(10月度)をリリースしました!
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
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・人工知能についての新規チャートと解説を大幅に増やしました。
・トレンドにコンピュータの歴史について新たなチャートを追加しました。
・講演資料として「未来を味方にする学び方」を追加しました。
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ITの歴史と最新のトレンド
【新規】コンピュータとは何か p.3
【新規】コンピュータ誕生の歴史 p.4
【改訂】歴史から見たITトレンド p.5
クラウド・コンピューティング
【改訂】クラウドの定義/サービス・モデル (Service Model)・詳細 p.35
【新規】マルチテナント方式の課題を解決する選択肢 p.40
インフラ&プラットフォーム
*変更はありません
サービス&アプリケーション・先進技術/人工知能とロボット
【改訂】コレ1枚でわかる人工知能とロボット・解説改訂 p.11
【改訂】人工知能の3つの役割と人間の進化・解説追加 p.11
【新規】自動化と自律化の領域 p.15
【改訂】自動化から自律化への進化 p.16
【改訂】人工知能やロボットの必要性・解説追加 p.22
【改訂】「人に寄り添うIT」を目指す音声認識・解説追加 p.35
【新規】機械学習と推論(1)〜(3) p.47-49
【新規】ディープラーニングの音声認識能力 p.55
【改訂】人工知能・機械学習・ディープラーニングの関係・解説改訂 p.56
【改訂】第3次AIブームの背景とこれから・解説改訂 p.57
【改訂】「記号処理」から「パターン認識」へ・解説改訂 p.63
【改訂】人間の知性の発達と人工知能研究の発展・解説改訂 p.64
【新規】人間の知性と機械の知性 p.85
サービス&アプリケーション・先進技術/IoT
【新規】IoTの三層構造 p.41
ビジネス戦略
【新規】デジタル・トランスフォーメーション p.4
サービス&アプリケーション・基本
*変更はありません
サービス&アプリケーション・開発と運用
*変更はありません
トピックス
*変更はありません
講演資料
未来を味方にする学び方
実施日: 2017年9月26日
実施時間: 50分
対象者:ITベンダー・情報システム部門
最新トレンドの勉強方法について、自ら体験を交えて解説。