「営業とはどういう仕事だと思いますか?」
毎年、新人営業研修でこんな質問をします。
「お客様のニーズを聞いて、エンジニアをつなげる仕事」
「売上を稼いでくる仕事」
「いい提案をして、それを買ってもらう仕事」
こんな答えが返ってきます。
「では、理想の営業とは、どのような営業だと思いますか?」
次にこんな質問をしてみると、
「お客様の課題をきちんと聞き出せる営業」
「自分たちの商品をわかりやすく説明できる営業」
「しっかりお金を稼いでくる営業」
こんな答えが多いようです。そんな彼らに、
「どれも間違ってはいませんが、皆さんの答えは、古い時代の営業についてのイメージですね。これからの営業は、もうすこし先を行かなければなりません。」
ハードウェアやソフトウェアを販売する、開発や運用の工数を提供する。それらが、クラウド・サービスや自動化に置き換えられてゆくことは時代の必然です。その理由は、ビジネス環境の変化のスピードが加速していることと、ビジネスとITの一体化が進んでゆくためです。
国際情勢や為替の変動、M&Aや新たなテクノロジーの登場などによりビジネス環境は大きく変わります。その変化のスピードが加速しているいま、ビジネスもまたその変化に同期して対応していかなければなりません。過去の成功モデルがそのまま引き継がれることはなく、次々に登場する破壊的イノベーションに向き合いながら、ビジネス・モデルを変化させていかなければ生き残ることができない時代です。
また、ビジネスはITとの一体化を着実に進めています。破壊的イノベーションとして紹介されることの多いUberやAirbnbといったITを前提とした「デジタル・ビジネス」だけではなく、企業の様々な業務はもはやIT無しでは機能しません。ならば、加速するビジネス環境の変化にビジネスが対応するためには、ITもまたその変化に同期化できるスピードが求められるのです。
クラウド・サービスや自動化、アジャイル開発やDevOpsが注目されるのは、それらが存在しているからではなく、それを必要とする社会的ニーズがあるからです。
つまり、クラウド・サービスや自動化にどのように対応すればいいのかといった手段の議論ではなく、前提となる「ビジネス環境の変化のスピードにどのように対応すればいいのか」という目的に向き合うことが、お客様の期待でもあり、それに応えることがビジネスに結びつくことを念頭に置かなければなりません。
新たな社会的ニーズへの対応について、お客様は「IoTで何かできないだろうか」や「AIでなにかできないだろうか」と言う言葉に置き換えて、私たちに問いかけてきます。それは、IoTやAIを使うことが目的なのではありません。そのようなテクノロジーを使うことで、既存の業務に新たな付加価値を取り込み、競争優位を拡大させることや、これまでにない新たなビジネス・モデルを生みだすことで、新たな市場に参入するといった「あるべき姿」の実現を期待する言葉です。そこへの協力こそが、お客様の求めている期待と受け取るべきでしょう。
しかし、この期待に応えるためには、これまでのやり方を大きく変えなければなりません。
お客様が自ら「どうしてほしいか」を示し、それを整理し応えるこれまでのやり方は通用しません。それは既存の業務の改善ではないからです。既存の業務の不具合や不効率、その理由と解決策を示すことで、仕様を固め、これに応じてシステムを開発することはできません。ITにできることを前提に新しいビジネス・プロセスやビジネス・モデルを新たに創る取り組みだからです。
お客様にも正解は分かりません。だから、ITの専門家としてお客様と一緒になって答えを創ってゆかなければならないのです。営業はそんな取り組みの先導役として、お客様の良き相談相手にならなくてはなりません。
既存の商品やサービスを「うまく説明する」ことではもはや「稼げるビジネス」にはなりません。自社の製品ばかりではなく「テクノロジーの常識」を持ち、どうすればお客様を成功に導けるのかを共に考えられる能力を持つことです。つまり、お客様にイノベーションを持ち込むことで、お客様のビジネスを変革する、あるいは創出することに役割を果たさなければならないのです。
イノベーション(innovation)の本来の意味をたどれば、ラテン語の「新しいものを内部に取り込む」ということになります。このイノベーションの経済学的な定義を定着させたのはオーストラリアの経済学者シュンペーターです。1912年の著書『経済発展の理論(Theorie der wirtschaftlichen Entwicklung)』の中で、彼はイノベーションを「新結合(neue Kombination)」と表現しています。これは、何か新しいコトやモノを持ち込むという意味ではありません。新規や既存に関わらず、これまでにない組合せを実現し、既存の常識や価値観を変革することを意味しています。
しかし、多くの企業の取り組みを見ると「既にあるもの」同士の組み合わせということより、社外にあるダイヤモンドやその原石を探し、それを取り込むこと重心が置かれているようにも見えます。
「イノベーションのジレンマ」の著者であるクレイトン・クリステンセンもまた、「一見、関係なさそうな事柄を結びつける思考」と説明しています。この視点に立てば、イノベーションは必ずしも外部にあるとは限らず、内部にある「既存」を見直して、新しい組合せを作ることにも当てはまります。
IoTによるイノベーションの事例として注目されている建設機械大手コマツの「スマート・コンストラクション」は、構想からわずか8か月で実現したそうです。その背景には、それまで個々に積み上げてきた社内の技術、例えば遠隔制御技術やGPSによるミリ単位の位置特定技術、それらをつなぐ通信環境などを新たな視点で見直し「新しい組合せ」を実現したことにあります。
もちろん全てを自社内でまかなうことができないこともあります。そこで、「共創」という言葉が、注目されるようになったのです。
この言葉は、2004年、米ミシガン大学ビジネススクール教授、C.K.プラハラードとベンカト・ラマスワミが、共著『The Future of Competition: Co-Creating Unique Value With Customers(邦訳:価値共創の未来へ-顧客と企業のCo-Creation)』で提起した概念と言われています。企業が、様々なステークホルダーと協働して共に新たな価値を創造するという概念「Co-Creation」の日本語訳です。
この言葉が、注目されるようになったのは、冒頭で述べたビジネスのスピードが加速し、「変化へ即応の如何が企業の死命を制する時代になった」という意識が高まったことが背景にあります。
苦労して築き上げた競争優位であっても、ビジネス環境の変化は急激で、ひとつの競合優位を長期継続的に維持することができなくなりました。連続的に競合優位を生みだし続けることができなければ、生き残れない時代となったのです。
「市場の変化に合わせて。戦略を動かし続ける」
米コロンビア大学ビジネススクール教授、リタ・マグレイスの著「The End of Competitive Advantage(邦訳:競争優位の終焉)」にこのように書かれています。また、企業のもつ競争優位性が競争を通じてあっという間に消えてしまう市場の特性を「ハイパーコンペティション」といい、いままさにそんな時代にあることを、事例を示しながら紹介しています。
こういう時代にあっては、一企業だけで連続して競争優位を生みだし続けることは困難です。そこで、「共創」によって競争優位を生みだし続けようという考え方に期待が寄せられているのです。
つまり、お客様の期待は、社内、社外にかかわらず広い知見を持ち、お客様の「あるべき姿」を実現するための「新しい組合せ」を実現することなのです。営業は、この取り組みに貢献できてこそ、その存在意義を持つことができるのです。
- 世間の常識について広く知識を持っていること
- 知見を持つ様々な人たちとの繋がりを絶やさず、いつでも相談できる人間関係を持っていること
- お客様の混沌を整理しわかりやすい言葉やビジュアルに表現できるアウトプット能力を持っていること
こんな要件が求められていると言えるでしょう。
もはや古き良き時代の営業のイメージを捨て、これからの時代にふさわしい営業のイメージを自ら再定義すべきです。それができない営業は、古い時代のビジネスのやり方にしがみつくお客様と共に、存在意義を失ってしまうことを覚悟すべきでしょう。
【受付開始】ITソリューション塾・東京/大阪/福岡
「IoTやAIで何かできないのか?」
「アジャイル開発やDevOpsでどんなビジネスができるのか?」
「うちの新規事業は、なぜなかなか成果を上げられないのか?」
あなたは、この問いかけに応えられるでしょうか。
「生産性向上やコスト削減」から、「差別化の武器としてビジネスの成果に貢献」することへとITは役割の重心を移しつつあります。そうなれば、相手にするお客様は変わり、お客様との関係が変わり、提案の方法も変わります。そんな時代の変化に向き合うためのお手伝いをしたいと思っています。
東京での開催は5月16日(火)からに決まりました。また、大阪では5月22日(月)からとなります。さらに福岡は7月11日(火)からを予定しています。
詳細日程や正式なお申し込みにつきましては、こちらをご覧下さい。
ITソリューション塾では、IoTやAI、クラウドといったテクノロジーの最前線を整理してお伝えすることはもちろんのこと、ビジネスの実践につなげるための方法についても、これまでにも増して充実させてゆきます。
また、アジャイル開発やDevOps、それを支えるテクノロジーは、もはや避けて通れない現実です。その基本をしっかりとお伝えするよていです。また、IoTやモバイルの時代となり、サイバー・セキュリティはこれまでのやり方では対応できません。改めてセキュリティの原理原則に立ち返り、どのような考え方や取り組みが必要なのか、やはりこの分野の第一人者にご講義頂く予定です。
2009年から今年で8年目となる「ITソリューション塾」ですが、
「自社製品のことは説明できても世の中の常識は分からない」
当時、SI事業者やITベンダーの人材育成や事業開発のコンサルティングに関わる中、このような人たちが少なくないことに憂いを感じていました。また、自分たちの製品やサービスの機能や性能を説明できても、お客様の経営や事業のどのような課題を解決してくれるのかを説明できないのままに、成果をあげられない営業の方たちも数多くみてきました。
このようなことでは、SI事業者やITベンダーはいつまで経っても「業者」に留まり、お客様のよき相談相手にはなれません。この状況を少しでも変えてゆきたいと始めたのがきっかけで、既に1500名を超える皆さんが卒業されています。
ITのキーワードを辞書のように知っているだけでは使いもものにはなりません。お客様のビジネスや自社の戦略に結びつけてゆくためには、テクノロジーのトレンドを大きな物語や地図として捉えることです。そういう物語や地図の中に、自分たちのビジネスを位置付けてみることで、自分たちの価値や弱点が見えてきます。そして、お客様に説得力ある言葉を語れるようになるのだと思います。
ITソリューション塾は、その地図や物語をお伝えすることが目的です。
ご参加をご検討頂ければと願っております。
最新版(4月度)をリリースしました!
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
新入社員のための「最新トレンドの教科書」も掲載しています。
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*クラウドについてのプレゼンテーションをインフラ編から独立させました。
*使いやすさを考慮してページ構成を変更しました。
*2017年度新入社員研修のための最新ITトレンドを更新しました。
*新しい講演資料を追加しました。
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クラウド・コンピューティング (111ページ)
*「インフラとプラットフォーム編」より分離独立
【新規】クラウドによるコスト改善例 p101-108
開発と運用(68ページ)
【新規】管理運用の範囲 p.37
【新規】サーバーレスの仕組み p.40
インフラとプラットフォーム(211ページ)
*クラウドに関する記述を分離独立
【新規】多様化するデータベース p.127
【新規】クラウドデータベース p.156-158
IoT(101ページ)
【新規】IoTはテクノロジーではなくビジネス・フレームワーク p.16
【新規】LPWA主要3方式の比較 p.52
人工知能(103ページ)
【新規】自動化と自律化が目指す方向 p.14
【新規】操作の無意識化と利用者の拡大 p.21
【新規】自動化・自律化によってもたらされる進歩・進化 p.22
テクノロジー・トピックス (51ページ)
【新規】RPA(Robotics Process Automation) p.17
サービス&アプリケーション・基本編 (50ページ)
*変更はありません
ビジネス戦略(110ページ)
*変更はありません
ITの歴史と最新のトレンド(14ページ)
*変更はありません
【新入社員研修】最新のITトレンド
*2017年度版に改訂しました
【講演資料】アウトプットし続ける技術〜毎日書くためのマインドセットとスキルセット
女性のための勉強会での講演資料
実施日: 2017年3月14日
実施時間: 60分
対象者:ITに関わる仕事をしている人たち
【講演資料】ITを知らない人にITを伝える技術
拙著「未来を味方にする技術」出版記念イベント
実施日: 2017年3月27日
実施時間: 30分
対象者:ITに関わる仕事をしている人たち
詳しくはこちらから
新刊書籍のご紹介
未来を味方にする技術
これからのビジネスを創るITの基礎の基礎
- ITの専門家ではない経営者や事業部門の皆さんに、ITの役割や価値、ITとの付き合い方を伝えたい!
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斎藤昌義 著
四六判/264ページ
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