「うちも新規事業開発に取り組んでいます。でも、なかなか結果がだせなくて」
3年前も同じことをおっしゃっていたような気がします。
このように「新規事業に取り組んでも成果を挙げられない」企業を「業績評価」という観点で見てゆくと、次のような3つの特徴があるようです。
特徴1:放課後のクラブ活動
自分が業績評価される本業の傍ら、「おまえは優秀で将来を期待しているから」という理由で集められたメンバーで、放課後のクラブ活動のように「新規事業開発プロジェクト」を行っている場合がよくあります。
新しいことに取り組むこと、上司からも期待されているという想い、なによりも、これまでも自分が声を上げてきたことに取り組めるチャンスだということで、気持ちも入ります。しかし、そんな気持ちは最初だけで、時間と共に意欲はなくなり、クラブ活動の回数も減って、やがては消滅してしまうことが多いようです。
それも当然のことで、自分の業績評価に関わる本業が忙しくなったり、火を噴いたりすればそちらに時間を割かなければなりません。期末になれば、本業の数字を作らなくてはなりません。ただでさえ厳しい本業の予算を達成するのは容易なことではありません。そんな中で、業績も評価されず、予算も与えられないボランティアのクラブ活動にうつつを抜かしている余裕などありません。
もちろん「ボランティアのクラブ活動」がダメなわけではありません。むしろ、新しい発想や使えるアイデアは自発的な取り組みから生まれやすいものです。ならば、Googleの「20%ルール」のように、自分の好きに使える時間を認めるというのも1つの方法です。しかし、そのような環境を与えず、本業の稼働率を厳しく求められ、時間的にも心にも余裕がない状態では、負担感を与えるだけのボランティア活動になってしまいます。
1つの解決策は、ボランティアではなく、新規事業開発の専任者を置くことです。「新規事業の立ち上げ」を業績として評価される専任者を置いてはどうでしょう。もちろんその専任者だけで事を進めるのは容易なことではありません。各事業部門にスポンサーを担ってもらい、予算を持ってもらうのです。双方の利害は一致しますから、本業として取り組むことができるようになります。
また、Googleの「20%ルール」のような取り組みをするのであれば、そこから出たアイデアを事業にした場合、本人の業績として評価される仕組みを作ることも必要になります。
責任の所在を明確にし、予算も与え、業績も適正に評価する。そんなビジネスの基本的枠組みを与えることを前提にすべきなのです。
特徴2:「3年後には10億円」というプレッシャー
新規事業の業績評価に、既存事業の評価基準を当てはめようとするために、極めて高い目標値を与えてしまったり、投資対効果に厳密な裏付けを求めたりするのも、新規事業がうまくいかない原因です。たとえば、「3年後に10億円の事業を実現して欲しい」といった根拠のない思いつきの目標が与えられ、それがプレッシャーとなって新規事業開発に取り組む人たちの士気を下げてしまっているといった現状も目にします。
新規事業は現状の改善や拡張ではないため、既存のビジネスを基準に考えることはできません。また、新たな市場ですから、その規模や動きを予測できません。それでも、「データとしての裏付けのある事業計画がなければ承認しない」という意志決定のメカニズムがあるために、良いアイデアをもった事業プランでも、評価されることはなく、実行に至らないままに潰されてしまうのです。
「3年後には10億円」や「裏付けが曖昧」というフィルターにかけられてしまえば、例えいいアイデアが浮かんでも「これはだめだなぁ」と却下してしまうことになります。それでも、なんとかカタチにしなければとのプレッシャーから、「新規事業を実現し成功させる」ことではなく、「新規事業計画を作成し報告すること」ことが目的となってしまい、実効性のない取り組みに終わってしまいます。
もちろん事業にKPIや裏付けは必要です。しかし、最初から「3年後には10億円」ではなく、まずは「半年後に100万円」といった実現可能なKPIでもいいでしょうし、「将来の会社を支える事業の柱にして欲しい」といった夢でもいいでしょう。そうやって、アイデアの芽を摘むことなく、トライ・アンド・エラーを繰り返させることです。そして、その事業の巡航速度が見えてきたら「来年度は1億円、3年後は5億円」といったKPIを与えてはどうでしょう。
特徴3:現場のやる気を失わせる業績評価基準
経営者が、ストック・ビジネスがどれほど大切かを言葉で促しても、あるいは経営方針で明記しても、業績評価が「売上と利益」のままでは、モチベーションは生まれません。ストック・ビジネスの多くは、短期的には売上と利益の減少を伴います。それを許容し、それに合わせて業績評価の基準を変えなければ、自分たちに与えられた事業目標、営業目標の達成を優先するでしょう。
その新規事業がどれほど優れたものであったとしても、業績評価の仕組みがそれと不一致であれば、現場は動かず、目的を達成することはできないのです。
理屈や精神論で納得させて人を動かすことは容易なことではありません。仮に当初はうまくいっても、努力が報われないことがわかれば、やがてはやる気を無くし元に戻ってしまうでしょう。しかし、カタチを整えれば、現場は動きます。その結果として、理屈は理解され、精神も醸成されてゆきます。
業績評価の基本的枠組みを変えることは難しいとか、それは経営者の責任だと、最初から諦める必要はありません。ちょっとした工夫できることはいろいろあります。
例えば、ある大手のSI事業者はクラウド事業やデータ・センター事業の売上を伸ばすために、営業の評価基準を変えることで、営業のモチベーションを上げることに成功しています。
この会社は、業績の評価基準として経常利益を重視しています。しかし、初期投資が大きく短期的な売上が小さいこれらのビジネスは、手間がかかるわりには経常利益が得られません。そのため現場にこれらを売ろうというモチベーションが生まれなかったのです。そこで、原価としていた初期投資分を、本社に移すことで、営業の評価は「売上=経常利益」としました。その結果、現場のモチベーションは大きく変わり、事業目標も達成できたというわけです。このように業績評価の基本的枠組みを変えなくても、ちょっとした工夫で現場の士気は大きく変わります。
また、別の会社は「クラウド・ベースのSI案件」について、初回の売上計上時に、3年分の見込みの「売上と利益」を営業の業績として評価することにしました。営業のモチベーションは大いに上がり、いまでは安定的なキャッシュフローを生みだす稼ぎ頭となっているそうです。
その背景には、物販とは異なりリース更改がなく継続して使ってもらえるようになること、そのために売上利益が確実に積み上がってゆくといった事実があったのです。
事業部門は、これまで同様に「実際」の売上と利益で業績が評価されますが、営業現場の業績は「見込み」の売上と利益で評価します。もちろん他の案件もありますので、それを考慮して、現場と部門の業績評価方法を変えたわけです。これであれば、部門だけでもできるのではないでしょうか。
「新規事業に取り組んでも成果を挙げられない」
そんな現実に直面されているのなら、自分たちの取り組みを上記の3つの特徴に照らし合わせてみてはどうでしょう。もしかしたら、解決策が見えてくるかもしれません。
最新版(2月度)をリリースしました!
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
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ビジネス戦略編 106ページ
新規チャートの追加と解説の追加
【新規】ビジネス・プロセスのデジタル化による変化 p.6
【新規】ビジネスのデジタル化 p.17
【新規】ビジネス価値と文化の違い(+解説) p.19
【新規】モード1とモード2の特性(+解説) p.21
【新規】モード1とモード2を取り持つガーディアン(+解説) p.22
人工知能編 98ページ
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【新規】動画での事例紹介 Amazon Go p.94
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【新規】動画での事例紹介 Nextage p.97
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LPWAについての記載を追加、また日米独の産業システムへの取り組みについて追加しました。
【新規】LPWA(Low Power Wide Area)ネットワークの位置付け p.47
【新規】ドイツでインダストリー4.0の取り組みが始まった背景 p.82
【新規】アメリカとドイツの取り組みの違い p.88
【新規】インダストリー・インターネットのモデルベース開発 p.90
【新規】日本産業システムが抱える課題 p.91
インフラ編 294ページ
【新規】Googleのクラウド・セキュリティ対策 p.72
基礎編 50ページ
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