「是非、社員に危機感を持たせていただきたい。もっとも社員ひとり一人が当事者意識を持って欲しいんです。そして、自ら変革をすすめて欲しいと思っています。」
そんな講演のご依頼を頂きました。「危機感」を煽る話しは、いくらでもできます(笑)。しかし、「自らの変革」を促すとなると、これは簡単なことではありません。
「新規事業の開発を担当しています。私たちは、十分に顧客ニーズのあるサービスを作ったつもりなんですが、現場の営業が売ってくれません。どうすればいいでしょうか。」
講演の席で、こんな質問を頂きました。これもまた、講演依頼の話しと同様、「正しいことを伝えているのに、現場が動いてくれない」という話しです。
クラウドの普及と共に、インフラ機器の販売や構築の需要は減少の一途です。アプリケーションの開発や運用も、スピードが求められる時代となり、これまで同様の工数需要は減少に転じつつあります。たとえ工数需要があっても、利益を出しにくくなっています。そういう中で、フローからストックへとビジネスの転換を図りたいと様々な取り組みがすすめられています。しかし、なかなか思うように結果が出せないという話しを伺います。
しかし、現場に聞けば、危機感を感じているし、新しいサービスの魅力も分かっています。それなのに変革が進まない、新規のサービス・ビジネスがうまくいかないのはなぜなのでしょうか。
答えは明確です。「当事者にモチベーションがない」からです。
経営者が、ストック・ビジネスがどれほど大切かを言葉で促しても、あるいは経営方針で明記しても、業績評価が「売上と利益」のままでは、モチベーションはうまれません。ストック・ビジネスの多くは、短期的には売上と利益の減少を伴います。それを許容し、それに合わせて業績評価の基準を変えなければ、自分たちに与えられた事業目標、営業目標の達成を優先するでしょう。
「改革を言葉で促しても、カタチが伴わない改革はうまくいきません。」
「すばらしい新規のサービスを開発しても、営業が売りたいと思える評価制度もあわせて開発しなければ、その新規サービスは売れません。」
戦略や事業方針がどれほど優れたものであったとしても、業績評価の仕組みがそれと不一致であれば、現場は動かず、目的を達成することはできないのです。
かつて、私が営業として日本IBMで現役の時代、事業方針と営業の成績評価は見事に一致していました。
毎年の事業戦略や自分が担当する顧客に何を売るかによって、きめ細かくポイントが設定され、年初設定した目標ポイントを達成すれば、給与は満額支払われる制度です。年度の途中で新製品が出る、あるいは、事業方針が変わり戦略的にこちらを売らせたいとなると、ポイント設定を変更します。もし、自分の担当する顧客や商材が変われば、ポイントの組合せが変わります。
事業戦略と業績評価を一致させることで、現場にモチベーションを与えようというわけです。現場は自分の評価を高めようとその制度に忠実に従おうとします。また、その評価基準から、会社はどのような戦略をすすめようとしているのかを理解します。
理屈や精神論で納得させて人を動かす。これは容易なことではありません。仮に当初はうまくいっても、努力が報われないことがわかれば、やがてはやる気を無くし元に戻ってしまうでしょう。しかし、カタチを整えれば、現場は動きます。そして、その理由を自ら考えますから、危機感やモチベーションは結果として、醸成されます。
この理屈を理解して、取り組んだ企業があります。
ある大手のSI事業者はクラウドやデータ・センターの売上を伸ばすために、営業の評価基準を変えることで、営業のモチベーションを上げることに成功しています。
この会社は、業績の評価基準として経常利益を重視しています。しかし、初期投資が大きく短期的な売上が小さいこれらのビジネスは、手間の割りには経常利益が得られません。そのため現場にこれらを売ろうというモチベーションが生まれなかったのです。そこで、原価としていた初期投資分を、本社に移すことで、営業の評価は「売上=経常利益」としました。その結果、現場のモチベーションは大きく変わり、事業目標も達成できたというわけです。
また、別の会社は「クラウド・ベースのSI案件」について、初回の売上計上時に、3年分の見込み「売上と利益」を営業の業績として評価することにしました。営業のモチベーションは大いに上がり、いまでは安定的なキャッシュフローを生みだす稼ぎ頭となったそうです。
「口を酸っぱくして、危機感を伝えているのに、現場はいっこうに動いてくれません。」
そんなことで悩むより、まずはカタチから入ってみては如何でしょう。モチベーションが高まる評価基準を作ることです。カタチが現場に徹底すれば、結果として危機感は伝わり、意識は高まり、何をすべきかを現場は共有できるようになります。
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12月改訂版をリリースしました!
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA
- 先進技術編のドキュメントが大幅に追加されたため、「IoT」と「人工知能とロボット」の2つのファイルに分割しました。
- アジャイル開発とDevOpsについてドキュメントを追加しました。
- 解説文を増やしました、
【講演資料とトピックス】
【改訂】ITソリューション塾・特別講義・Security Fundamentals / 情報セキュリティのジアタマを作る
【先進技術編】
「IoT」と「人工知能とロボット」のプレゼンテーションを分割しました。
IoT(92ページ)
【更新】モノのサービス化 p.29-30
【新規】コンテンツ・ビジネスの覇権 p.31
【新規】ガソリン自動車と電気自動車 p.32
【更新】ITビジネス・レイヤ p.49
【新規】インダストリアル・インターネットとインダストリー4.0 p83-84
人工知能(92ページ)
【新規】統計確率的機械学習とディープラーニング p.25
【新規】人工知能とは p.31
【新規】人工知能の得意分野と不得意分野 p.47
【新規】自動運転の定義 p.69
【基本編】(104ページ)
【新規】アジャイル・ソフトウエア宣言 p.59
【新規】アジャイル・ソフトウエア宣言の背後にある原則 p.60
【新規+改訂】DevOpsとは何か? p.66-69
【新規】DevOpsとコンテナ管理ソフトウエア p.74-77
【新規】マイクロサービス p.78
【新規】オーケストレーションとコレグラフィ p.79
【新規】AWS Lambda p.80
【新規】サーバーレスとサーバーレス・アーキテクチャ p.81
【ビジネス戦略編】(98ページ)
【新規】デジタルトランスフォーメーションの進化 p.7
新刊書籍「未来を味方にする技術」紹介 p.91
【テクノロジー・トピックス編】(49ページ)
【新設】FPGAについて新しい章を作り、解説を追加しました。 p.39-48
【ITの歴史と最新のトレンド編】(13ページ)
変更はありません。