「3年後に10億円の売上と10%の営業利益率の新規事業を立ち上げて欲しい。君たちには期待しているよ!」
こんな社長の期待のもとに新規事業開発プロジェクトが立ち上がりました。プロジェクト・メンバーは、本業を抱える「できる人たち」であり、「このままではダメだ」と日頃発言をしている意識の高い人たちでした。
「自由に発想して欲しい。思い切って、我が社の次を担う事業を考えて欲しい。」
そんな社長の言葉に励まされ、彼らは、忙しい本業の合間を割いて集まり、議論しはじめたのです。
3ヶ月後、3つのプランをまとめ、まずは担当役員に報告しました。
「なるほど、なかなか面白いアイデアだが、この事業プランで”3年後10億円”の具体的な裏付けが欲しいなぁ。これでは、稟議は通らないぞ。しかも、顧客情報をクラウド上において、スマホから利用させるというのは、本当に大丈夫なのか。リスクが高くて、社内的には通らないよ。しかも・・・」
そんな役員のコメントをうけて「さあ、どうしようか」と再検討となりました。さらなる議論を重ねる中で、
「それはうちの内規に引っかかって無理だろう」
「確かにアイデアはいいが”3年後10億円”は到底見通しが立たないよ」
「それは、うちがやることか?きっと受け入れてはもらえないよ」
議論を重ねるうちに、制約条件が自由な発想を妨げるようになりました。そして、” 我が社の次を担う事業”はどこかへいってしまい、新規事業を立ち上げることが目的となってしまいました。
それでもそれなりの新規事業のアイデアはできあがったのですが、既存業務の改善程度の内容に留まり、新鮮みはありません。そして、報告はしたもののその担い手は曖昧のままで、予算の裏付けもありません。さらに担当役員や社長からは、計画への注文や確認が繰り返されるばかりです。
年度末も迫り、プロジェクト・メンバーは、本業が忙しいことを言い訳に、徐々に打ち合わせの回数は減ってゆきました。それも当然のことで、彼らの業績は本業でのみ評価されます。新規事業検討プロジェクトは放課後のボランティア活動に過ぎません。それでも当初は、情熱に燃えて取り組んでいましたが、次第に意欲も薄れてゆきました。
- 「自由に発想して欲しい」とは、社内の常識や前提条件の範囲での話し
- 現行業務で使っている評価基準での裏付けがないものは稟議が通らないから対象外
- アイデアは求めるが予算や人事の話しは別
そんな条件付きの自由を与えられたに過ぎず、「君たちには期待しているよ!」のみのモチベーションでのボランティア活動では革新的な「新規事業」など生まれるはずもありません。
こんな話もあります。先日、「クラウドSIerへの脱皮」を模索する大手SI事業者から、切っ掛けとなるような話をして欲しいとの依頼を請けました。そこで、「クラウドSIer」を実践している企業の方に、自分たちの取り組みをご紹介頂き、その心得を披露してもらいました。彼は、次のような話をしました。
- まずは提案するサービスに精通する
- ここは従来型のSIと変わらない。クラウド・サービスについての各種トレーニングを活用し、全ての内容を知っておくこと
- クラウドベンダーによっては認定資格を設けているところもあるので利用すべし
- 「クラウドができます」だけでは仕事は来ない。自分たちならではの得意や魅力の訴求は不可欠
- 短納期に慣れる
- 通常3ヶ月程度で案件クローズ。短い場合は1ヶ月の場合もある
- 日々の状況整理が重要
- 朝会、夕会、チケットシステム、カンバンなどでできるだけメンバーの負荷軽減を行う。
- アジャイル型のプロジェクト運営に慣れる
- 契約としては(定額)準委任契約が一般的
- ただし書籍にあるようなアジャイルでは返って緩すぎてお客様の不審を招く
- 従来のSIのように定例会、成果物を意識しながら柔軟な要件の変化に対応する
では、どうするかを次のように話されました。
- MS Officeを捨ててください
- 瞬時にドキュメントを共有できるGoogle AppsもしくはOffice 365 を使ってください
- 社内のファイルサーバを捨ててください
- Google Drive/BOX/Dropboxを使ってください
- メールを捨ててください
- Slackを使ってください
- Excel/MS Projectのプロジェクト管理を捨ててください
- Redmine/Atllasian Confluenceを使ってください
- 社内のソースコード管理サーバを捨てて下さい
- GitHub/Bitbucketを使ってください
- 社内検証サーバを捨ててください
- パブリッククラウドを使ってください
- 私用のスマートフォンで”どこでも”仕事をさせてください
- これはオフィスで、といった決まり事はなくしてください
会場からはどよめきが上がりました。彼はすかさず、
「ルールを変えて下さい。それができなければクラウドSIerにはなれません!」
- 制約を与えない
- ルールを変える
- 既存業務と同じ基準で評価しない
その上で、経営が予算や人事をコミットしなければ革新的な新規事業は生まれません。しかし、このような取り組みを既存の組織の中で行うことは容易なことではありません。それは、このようなルールばかりでなく、業績の評価基準や稟議制度、給与や人事を新規事業に関わるチームだけ、特別にすることができないからです。ならば「別会社」を起ち上げ、「できる人たち」に任せてみてはどうでしょう。
ガートナーは、情報システムを、その特性応じて「モード1」と「モード2」に分類しています。
- モード1:変化が少なく、確実性、安定性を重視する領域のシステム
- 効率化によるコスト削減を目指す場合が多く、人事や会計、生産管理などの基幹系業務が中心
- モード2:開発・改善のスピードや「使いやすさ」などを重視するシステ
- 差別化による競争力強化と収益の拡大を目指す場合が多く、ITと一体化したデジタル・ビジネスや顧客とのコミュニケーションが必要なサービスが中心
>> バイモーダルITの時代にどのように人材をシフトさせればいいのか
情報サービス産業の規模は、リーマンショックでの落ち込みはあるものの過去10年を振り返れば、売上規模20兆円、従業員数100万人前後を維持しています。しかし、一方で急激な成長も見られません。そして、この数字にはガートナーが言う「モード1」と「モード2」のビジネスが混在していることにも着目すべきです。つまり、産業規模全体は維持されているものの、その構造がモード1からモード2へと変わりつつあると考えるべきでしょう。
例えば、クラウドやハイパー・コンバージド・システムの台頭でインフラ構築需要は工数を生みだしにくくなっています。システム開発においても、PaaSやフレームワーク、ツール類の充実は工数需要を減らす方向にあります。それにもかかわらず、この産業規模が維持されている背景には、モード2のIT需要が拡大していることを意味しているのではないでしょうか。
モード1型企業は「売上は維持できても利益が出ない」という課題を抱えています。一方で、モード2型の企業は売上も利益も伸ばしているのです。さらに、できる人材の「モード1型企業」から「モード2企業」への移動が始まっています。これを裏付ける統計がないので、状況証拠ではありますが、それほど大きな間違えはないでしょう。
特需に支えられているモード1型企業の中には、「まだ何とかなる」と考えているところもあるかもしれませんが、特需の崩壊は目の前にあることを、改めて考えてみるべきです。この現実を考えれば、別会社で「モード2企業」を立ち上げてできる人材の受け皿とし、既存のモード1事業の人材をモード2企業へ徐々に移動させるという取り組みも、ひとつの選択肢になるのではないかと思っています。
「決心を固めてから行動する」では成果をあげることはできません。まずは、別会社を立ち上げて、カタチから入ってみてはどうでしょう。カタチができれば決心は自ずと固まってゆくものです。。
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今回は全資料について、ノートへの解説を追加しています。また、更新履歴が増えすぎたことで、ダウンロードボタンが押しにくいというご指摘をいだき、過去の履歴を別ファイルに集約して、すっきりさせました。
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「ポストSIビジネスのシナリオをどう描けば良いのか」
これまでと同じやり方では、収益を維持・拡大することは難しくなるでしょう。しかし、工夫次第では、SIを魅力的なビジネスに再生させることができます。
その戦略とシナリオを一冊の本にまとめました。
「システムインテグレーション再生の戦略」
- 歴史的事実や数字的裏付けに基づき現状を整理し、その具体的な対策を示すこと。
- 身の丈に合った事例を紹介し、具体的なビジネスのイメージを描きやすくすること。
- 新規事業を立ち上げるための課題や成功させるための実践的なノウハウを解説すること。
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こんな方に読んでいただきたい内容です。
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- 経営者や管理者、事業責任者
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