なぜ、新規事業が失敗に終わるのか
これまで、SI事業者は数多くの新規事業を立ち上げてきましたが、これからの新規事業は種類が違います。
これまでのSI事業者の新規事業は、基本的に需要が右肩上がりの時代に、ハードウェアとの組み合わせやパッケージ開発とその周りのインテグレーションというセットを中心に生みだしてきました。このやり方は従来からのSIビジネスのノウハウを前提としたもので、非常にシンプルでローリスク・ローリターンな取り組みでした。
しかし、そのやり方では、現在の新しい市場のニーズに応えることは難しいでしょう。残念ながら、現在のSI事業者は新規事業をするのに必要な仕組みと能力が欠いているといわざるをえません。何が問題なのか、1つずつ見ていきましょう。
優秀な人材をアサインせず、失敗を許さない企業文化
SI事業者の新規事業への取り組みでよく見られるのは、能力のある人材を1人アサインするだけでほかには人材がアサインされない、あるいは能力があるとはいえない人材をアサインするケースです。ただでさえハードルが高い新規事業に、そのような状況では成果をあげることなどできません。
その背景には、SI事業者はそもそも、エンジニアを中心とした人材の稼働率を高め、それを維持することでビジネスを成り立たせていることがあります。そのため、稼働率に貢献しない企画やマーケティングといった人材は評価されず、優秀な人材がなかなか配置されませんし、そのような人材を持とうというモチベーションも生まれてこないのです。
また、それなりに事業計画が仕上がったとしても、ビジネスに投資するタイミングで、既存ビジネスから新規ビジネスにヒト・モノ・カネをシフトできず、事業の柱にならないことがしばしばおこります。これは、SI事業が基本的には「原価+マージン」を前提とした堅実なビジネスモデルであるためで、前例のない市場に先行投資を必要とする新規事業の現実を受け入れることに大きな抵抗が働くからです。
そのような「堅実なビジネス」は、安定した収益をもたらす一方で、大きな利益は期待できません。そのため、失敗による原価の上昇を極端に嫌う傾向があり、「失敗を許さない企業文化」を生みだします。
本来、新規事業はなかなか成功しないものであり、リスクを覚悟しなければなりません。それを許容しないやり方では、とても成功は覚束ないのです。
新規事業開発に必要なスキルがない
新規事業開発の手法がわかっている人がいないため、「そもそも、どうやって新規事業を作っていけばいいかわからない」という問題もあります。詳細は追って紹介しますが、新規事業開発はおおよそ以下のような手順をとります。
- 市場調査し、アイデアをまとめ、事業プランを作る。
- プロトタイプでテストして、ユーザーが受け入れてくれるか評価し、ローンチの方法を検討する。
- 事業を開始し、状況の変化に機敏に対応しながら、常に改善を怠らずに成長させてゆく。
また、段階に応じて適切な目標やKPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)を設定し、モニタリンングしながらPDCAを回し、状況の変化に応じてピボット(戦略の変更)することも検討しなければなりません。
上記のような方法をとるとなると、そもそも市場調査の方法やマーケティングを知っておかなければなりませんし、事業プランをしっかり練るにはファイナンスも知っておかなければなりません。プランニングして承認されたとしても、市場に合わせてピボットする判断基準やKPIモニタリングの基準などをそろえる必要がありますが、その方法を知っている人間がいるSI事業者は多くはありません。
元々、SIビジネスにそのようなスキルは必要とされませんでした。なぜなら、「お客様のご要望に応える」ことでビジネスが成り立っていたからです。しかし、いま求められている新規事業は、「お客様のニーズを新たに生みだす」あるいは「お客様の潜在的ニーズを引きだす」といった取り組みになります。また、長年の付き合いで仕事の勝手がわかっている情報システム部門から、これまであまり付き合いのなかったエンドユーザーに直接アプローチすることも視野に入れなければなりません。そのために何をすればいいのかを知らないままでは、新規事業を成功に導くことは難しいでしょう。
既存事業と同じ基準で業績を評価してしまう
新規事業の業績評価に、既存事業の評価基準を当てはめようとするために、極めて高い目標値を与えてしまったり、投資対効果に厳密な裏付けを求めたりしようとするのも、新規事業がうまくいかない原因となります。
新規事業は現状の改善や拡張ではないため、既存のビジネスを基準に考えることはできません。また、新たな市場ですから、その規模や動きを予測できません。それでも、「裏付けのある事業計画がなければ承認しない」という意志決定のメカニズムがあるために、良いアイデアをもった事業プランでも、評価されることはなく、実行に至らないままに潰されてしまうのです。経営者が、既存の評価基準とは相容れないことを承知のうえで、テクノロジーやビジネスのトレンドを正しく理解し、リスクを覚悟で良いアイデアに投資する覚悟がなければ、可能性の芽を潰してしまうだけです。
この問題を解決するために必要なこと
このような問題に、どのように対処すればいいのでしょうか?
少なくとも、次の3つの点は押さえておく必要があります。
新規事業開発の経験やその意欲、知識のある人をアサインする
研修を長期的に受講させる、あるいは新規事業開発のコンサルタントを雇うなど、知識のある人材を新規事業開発にかかわらせることです。何も知らないで新規事業を考えろというのは、「気合いでなんとかしろ」と言っているようなもので、合理的ではありません。結局は検討に手間がかかり、タイミングを逸することになって、費用対効果が得ることができません。
トップが強い意志で新規事業チームを守る
新規事業や新規サービスをやると、さまざまな横やりや邪魔が社内から出てきます。そのような攻撃から新規事業チームを守る必要があります。
そのためには、彼らが説明責任を果たしている限りにおいて、トップ自らそのチームを弁護することが大切です。
失敗から学ぶ仕組みを構築する
良いアイデアでもリスクばかりが目に入ってGOを出せない経営陣、そして「失敗すると後がない」という雰囲気を醸し出す社内を変える必要があります。新規事業は失敗する確率が高くて当然です。そして失敗を経験するからこそ、ノウハウがたまり、次は失敗の確率が下がっていきます。
社長や役員が声高らかにチャレンジを推奨したり、失敗を評価したりしても、評価制度や組織・体制がそうなってない限りにおいては、社員はチャレンジしません。チャレンジすることへの加点評価や、リスクでなくリターンに着目する評価方法を仕組みとして先に構築すべきです。先にセーフティネットを作らないと、結局「やったものが損をする」形となってしまうからです。そういう取り組みが、結果として、新規事業を生みだす企業文化を育ててゆくのです。
既存事業を抱える企業が新たな事業を始めることは容易なことではありません。顧客開発モデルやイノベーションについてスタンフォード大学などで教鞭を執るスティーブ・ブランク氏は、次の4つの取り組みが必要だと述べています。
- 既存事業部門の外部に新しい組織を作る
- 10件のうち1件しか成功しないことを覚悟する
- 新しい組織に対し、ヒト・モノ・カネを安定的に提供し続ける
- 新しい組織に「創業者」タイプの人間を集める
覚悟のいる話です。しかし、そういう覚悟なくして新しい事業が生まれないことも覚悟しなければなりません。
いまSI事業は、仕事はあっても利益が出ない、低付加価値な事業になりつつあります。いや、すでにそうなってしまっている企業も少なくありません。もはや躊躇している余裕などないのです。この現実に対処するためには、既存のしがらみから脱却し、新規事業を生みだし、そちらへシフトしてゆくことが、唯一の選択肢といえるでしょう。
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10月5日(水)より、次期「ITソリューション塾・第23期」が開講します。
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基本の講義以外にも特別な講義を用意しています。
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【新規】なぜ今人工知能なのか p.147
【新規】人工知能と機械学習 p.148
【新規】人工知能と機械学習/全体の位置付け p.149
【新規】技術的失業と労働人口の移動 p.180
【更新】ウォーターフォール開発とアジャイル開発 p.220
【更新】DevOpsの目的 p.223
【新規】不確実性のコーン p.227
【新規】システム開発の理想と現実 p.228
【新規】ARとVRの違い p.248
【ビジネス戦略編】(92ページ)
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【新規】UberとTaxi p.4
【更新】ハブ型社会からメッシュ型社会へ p.5
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【補足】解説文を追加したチャートを増やしました。
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こんな方に読んでいただきたい内容です。
SIビジネスに関わる方々で、
- 経営者や管理者、事業責任者
- 新規事業開発の責任者や担当者
- お客様に新たな提案を仕掛けようとしている営業
- 人材育成の責任者や担当者
- 新しいビジネスのマーケティングやプロモーション関係者
- プロジェクトのリーダーやマネージャー