「商品としてのIT」とは、収益を生みだすITのことです。ITと一体化したビジネスであり、ITそのものが差別化や競争力の源泉となっているビジネスを意味する言葉です。
労働集約的な受託開発の収益力が今後低下することが避けられないことから、新規事業開発に取り組んでいる企業も少なくありませんが、そんな新規事業の選択肢として、「商品としてのIT」は検討すべきテーマではないかと思っています。詳細については、以下のブログに解説していますので、よろしければご覧下さい。
「商品としてのIT」を実現するためには、事業の収益に責任を持つビジネス・オーナーの存在は必須です。そしてそのビジネス・オーナーは、ビジネスとITの両方に精通していなければなりません。もちろんプログラミングやビジュアルの作成などの実務は、それぞれの専門家に任せた方がいいでしょう。しかし、商品として顧客にどのような価値を訴求するのか、そのためにどのような商品を作るのかは、ビジネス・オーナーが決定し、出来上がった商品を評価できなければなりません。そのためにはITのトレンドに精通し、技術的に「できること」と「できないこと」を理解できる知識を持って、専門家と議論できなくてはなりません。
そして、先のブログでも紹介したように、
- 「思想としてのIT」を駆使して戦略を練り「ビジネス・モデル」を描く
- 「仕組みとしてのIT」で作戦を立て「ビジネス・プロセス」を組み立てる
- 「道具としてのIT」で戦術を選び「利便性と見栄え」を作り込む
そうやって、魅力的な「商品としてのIT」を作り上げてゆきます。
「商品としてのIT」の狙い目
大前提は「お客様の課題」であり、「その課題が解決できるのであれば、是非ともお金を払いたい」と思ってくれる分野です。しかし、それがビジネスとして将来成り立つボリュームを持ちうるかは別の視点です。では、どのようなところに注目すればいいのでしょうか。
市場拡大の加速度に注目する
2009年、インターネットにつながっていたモノは25億個あったとされていますが、2015年には180億個に、そして2020年には500億個に達するであろうという予測があります。IoTはそんな勢いで市場を急速に拡大しつつあります。加速度を増して拡大するIoT市場は参入を検討するに値する市場であると考えます。
急速に拡大する市場への参入は技術も未成熟で変化も早く、その動きに追従し、さらには先取りして取り組むことは容易なことではありません。また、そこで使われている様々な技術が将来生き残るかどうかも市場の評価が固まっていない段階ですから、リスクがあります。一方で、市場に加速度がありますから、ちょっとしたアドバンテージが短期間で大きな差を生みだす市場でもあるのです。
新しい事業は、このような市場の加速度があるところに着目すべきです。既に確立された大きな市場は強豪がひしめいています。そのような市場で闘うことは容易なことではなく、先行企業の圧倒的な競争力で潰されるか価格競争を強いられるかのいずれかであり、ビジネスとしてのうまみはなかなか得られません。
いまは規模が小さくても加速度のある市場にいち早く参入することです。自分たちが未熟であってもお客様も競合他社も未熟です。だからこそ、ITの動向を見据えて、自分たちだけでやろうとはせず、オープンにできる人たちを巻き込むことです。そうやって一歩先んじることで市場でのイニシアティブを確保することができるのです。
「きっと誰かがやる」ことに注目する
建設工事自動化サービス「スマートコンストラクション」を提供しているコマツは、ブルドーザーやパワーショベルなどの建設機械を作り販売している会社でもあります。そのコマツが自社の製品を販売せずサービスとしてお客様に提供することは自分たちの本業の足を引っ張ることになるのではないかと、コマツの事業責任者に尋ねたことがあります。すると彼は次のように話してくださいました。
「いずれ同じようなことを他の会社もやり始めるでしょう。ならば、他社がはじめる前に自分たちがはじめて、いち早くノウハウを蓄積し他社に先行することが得策だと考えたのです。」
コマツはいま現在この分野では他社の追従を許さない圧倒的な競争優位を築いています。また、少子高齢化が進み建設労働者が確保できない時代を迎えつつある一方で、建設需要は拡大しており、そんな需要に対応するためにもこのような取り組みが必要だともおっしゃっていました。まさにそんな市場の課題を先取りすることで需要は拡大し、確実に実績とノウハウを積み重ねられているようです。
誰かがやるならまずは自分たちが一歩先んじてイニシアティブを確保することはビジネスを成功に導く基本と言えるでしょう。
汎用目的技術に注目する
歴史を振り返れば、経済発展の原動力となり社会構造の変化に新しい技術の登場は大きな役割を果たしてきました。しかし、全ての技術が等しく同様の役割を果たしたわけではありません。様々な分野で広く適用可能な技術が、その役割を果たしてきました。このような技術は「汎用目的技術(GPT:General Purpose Technology)」と呼ばれています。
例えば、18世紀後半~19世紀中期の第1次産業革命を支えた蒸気機関は、ものづくりばかりでなく鉄道や船舶にも用途が拡がり、経済や社会の仕組みを大きく変えてゆきました。また19世紀後半~20世紀初頭における第2次産業革命を支えた内燃機関(エンジン)や電力もまた社会の隅々に行き渡り、いまでも私たちの社会や生活を支える主要な技術として広く使われています。このような技術がGPTです。
これら以外にも、1940年代に登場するコンピューター、1990年代に普及が始まるインターネットなども私たちの生活や社会に浸透し、その活動に様々な影響や変化を与えてきたGPTと考えることができます。
次に来るGPTは「人工知能(AI:Artificial Intelligence)」かもしれません。AIは既に特別な存在ではなく、様々なところに使われはじめています。例えば、機械翻訳や音声による検索、ショッピング・サイトでの商品の紹介やコールセンターでのお問い合わせに最適な回答を推奨する機能など、私たちの日常には既に多くのAIが使われています。また、医療現場での診断支援や自動運転自動車の登場は、AIのさらなる可能性を実感させてくれます。
このようにAIは私たちの日常の様々な分野へ広く適用可能な技術として普及しつつあり、GPTとしての要件を満たしているものと考えることができます。
ITの分野で次のGPTと期待されているのが「ブロック・チェーン」です。デジタル通貨「ビットコイン」の信頼性を保証する仕組みとして登場したこの技術は、通貨や金融取引以外にも契約や取引、認証などに必要とされる「信頼性を保証する安価で汎用的な基礎的技術」として広く使われてゆく可能性があります。
これまで通貨や取引は、国家機関や中央銀行、そのお墨付きを与えられた銀行や証券会社のような「権威」が保証することで、信頼を担保してきました。そのために多くの人材や巨大な組織を抱え、情報システムにも膨大な投資を行い、信頼を保証する仕組みを築いてきたのです。その歴史もまた信頼を保証する重要な要素となっています。
しかし、「ブロック・チェーン」はそのような権威や歴史に支えられた信頼ではなく、暗号と分散処理の技術を駆使し信頼性を保証できる仕組みを安価に築こうというのです。もしこの技術が確立され普及するようになれば、国家や銀行などの役割も大きく変わり、社会や経済のしくみも変わってしまうかもしれません。そんなインパクトのあるGPTとして期待されているのです。
残念ながら、この技術はまだまだ黎明期にあり、可能性は期待されつつも実用には時期尚早といえる段階です。しかし、1990年代の半ば、インターネットは「掲示板や電子メール、ホームページという電子ポスター」程度にしか使えないと思われていた訳ですから、この技術が社会を大きく変えてしまう可能性も否定できません。
ところで、クラウド・コンピューティングやIoTはGPTと言えるのでしょうか。これにはいろいろな考え方があるようですが、個人的な意見としては「GPT」ではないと考えています。
両者は共にGPTのような汎用技術やその応用技術を組み合わせた仕組みです。IoTを例にとれば、データを収拾するセンサー技術、コンピューターや電子機器を小型化する半導体技術、集めたデータをインターネットに送り出す通信技術、そのデータを解析し規則性やルールを見つけ出す人工知能技術などの組合せであり、それらを駆使して様々な価値を生みだそうという取り組みです。その実用性は高く、市場の成長性も大いに期待されている分野であることは間違えありません。しかし、それをひとつの技術領域としてGPTに括ってしまうのは少し乱暴なような気がしています。
いずれにせよ社会や経済の変革をGPTとその応用技術が生みだすとすれば、その動向に着目することで、この先にどのような未来が拡がっているかを予測することができます。そして、そんなGPTにビジネスの軸足をのせておけば、様々なビジネス分野への応用が利くこともまた事実です。そんな視点から「商品としてのIT」の事業領域を考えてみるのもひとつの方法かもしれません。
【募集開始】ITソリューション塾・第23期
10月5日(水)より、次期「ITソリューション塾・第23期」が開講します。
「知ってるつもりの知識から実戦で使える知識へ」
をモットーに、テクノロジーやビジネスのトレンド、さらにはこれからのビジネス戦略に踏み込んで考えてゆこうと思います。
基本の講義以外にも特別な講義を用意しています。
【特別講師】
情報セキュリティとDevOpsについては、その分野の実践者を講師に迎え「実践ノウハウ」を伺います。
【特別補講】
参加された皆様のご要望にお応えするかたちで行う特別補講では、特にホットなテーマに関わる当事者をお招きし貴重なお話を伺います。これまでは、「クラウド4社・エバンジェリストによる各社の戦略紹介」、「IoT時代のセキュリティ対策」、「最新・SAPまるわかり」などをテーマに取り上げ、オープンな講演では先ず訊くことのできない生々しいお話を聞く機会を設けるなど、「実践」につながる講義を行いました。
【その他】
「実践でそのまま使えるロイヤリティ・フリーのプレゼン500枚」の提供も皆さんの実践をサポートするための一環です。
直近の参加実績は、以下の通りです。
- 第20期 88名
- 第21期 81名
- 第22期 84名
【事前連絡のお願い】
募集開始後、比較的早い段階で定員に達することが予想されます。まだ正式に決定できない場合は、まずはメールで構いませんの参加のご意向をお知らせください。参加枠を確保させて頂きます。
詳しくはこちらをご覧下さい。
【最新版】最新のITトレンドとビジネス戦略【2016年8月版】
*** 全て無償にて閲覧頂けます ***
最新版【2016年8月】をリリースいたしました。
【インフラ&プラットフォーム編】(295ページ)
フラッシュストレージの記述を新たに追加いたしました。
【新規】ストレージアレイの違い p.275
【新規】フラッシュストレージが注目される理由 p.277
【アプリケーション&サービス編】(250ページ)
解説(文章)付きスライドを増やしています。また、全体のストーリーを一部見直し、内容の古いチャートは削除しました。
【新規】なぜ今人工知能なのか p.147
【新規】人工知能と機械学習 p.148
【新規】人工知能と機械学習/全体の位置付け p.149
【新規】技術的失業と労働人口の移動 p.180
【更新】ウォーターフォール開発とアジャイル開発 p.220
【更新】DevOpsの目的 p.223
【新規】不確実性のコーン p.227
【新規】システム開発の理想と現実 p.228
【新規】ARとVRの違い p.248
【ビジネス戦略編】(92ページ)
記載内容が古いチャートを削除し、解説文付きのチャートを増やしました。
【新規】UberとTaxi p.4
【更新】ハブ型社会からメッシュ型社会へ p.5
【更新】これからのITビジネスの方程式 p.57
【補足】解説文を追加したチャートを増やしました。
新入社員研修教材「最新のITトレンド」 (119ページ)
【更新】原本の改訂に合わせ、内容を刷新いたしました。
閲覧は無料です。ダウンロード頂く場合は会員登録(500円/
http://libra.netcommerce.co.
まずは、どのような内容かご覧頂ければ幸いです。
ITソリューション塾・福岡を開催します
既に東京・大阪で多くの皆さんにご参加頂いております「ITソリューション塾」をいよいよ福岡で開催させて頂くこととなりました。
「知っているつもりの知識から、実戦で使える知識へ」
ITビジネスに関わる皆さんや情報システム部門の皆さんが、知っておくべき「ITのいまと未来の常識」をできるだけわかりやすく体系的にお伝え仕様という取り組みで。詳しい資料はこちらからダウンロード頂けます。是非、ご検討下さい。
「ポストSIビジネスのシナリオをどう描けば良いのか」
これまでと同じやり方では、収益を維持・拡大することは難しくなるでしょう。しかし、工夫次第では、SIを魅力的なビジネスに再生させることができます。
その戦略とシナリオを一冊の本にまとめました。
「システムインテグレーション再生の戦略」
- 歴史的事実や数字的裏付けに基づき現状を整理し、その具体的な対策を示すこと。
- 身の丈に合った事例を紹介し、具体的なビジネスのイメージを描きやすくすること。
- 新規事業を立ち上げるための課題や成功させるための実践的なノウハウを解説すること。
また、本書に掲載している全60枚の図表は、ロイヤリティ・フリーのパワーポイントでダウンロードできます。経営会議や企画書の資料として、ご使用下さい。
こんな方に読んでいただきたい内容です。
SIビジネスに関わる方々で、
- 経営者や管理者、事業責任者
- 新規事業開発の責任者や担当者
- お客様に新たな提案を仕掛けようとしている営業
- 人材育成の責任者や担当者
- 新しいビジネスのマーケティングやプロモーション関係者
- プロジェクトのリーダーやマネージャー