「OSをコンパクトにする「ユニカーネル」とは、特定のOS機能をアプリケーションの中に直接コンパイルする手法だ。コンピューティングリソースの節約、パフォーマンスの向上、セキュリティの改善といったメリットを提供する。(Tech Target,2016/12/17)」
Dockerが注目されるようになり、これからはコンテナの時代が来そうだと思っていたら、こんどは「ユニカーネル」などという言葉が聞こえてきました。なんとも追いかけるのが大変です。他にもこの周辺には、Microsoftから「Nano Server」や「Hyper-V Container」、VMwareからは「vSphere Integrated Container」といった製品機能や「マイクロサービス」といった概念も登場しています。
なんとも賑やかなことではあるのですが、なぜこのような言葉が登場するようになったのかを考えてゆくと、これからのポストSIビジネスの方向が見えてきます。
これまでのシステム構築は、開発の後に運用するという前後関係や役割分担が存在していました。そんな当たり前と思われていた両者の関係を見直し、業務現場の要求や顧客のニーズに即応するために、開発しては即座に本番に移行し、そして1日に何度も仕様変更を行うことができる仕組みを作ってゆこうという取り組み、いわゆる「DevOps」が注目されるようになってきました。それを実現するには仕事のやり方だけではなく、上記に紹介したようなテクノロジーが欠かせないと見られているのです。
アジャイル開発やPaaS/APIエコノミー、サーバーレスといった言葉も全て同じ方向を向いています。
- ビジネスのスピードに即応できるIT
- 競争の土俵を変えるIT
- デジタルな経営基盤(デジタル・トランスフォーメーション)を実現するIT
そんな新たな価値に世の中が注目するようになってきたことが背景にあります。
かつて、ITは期間短縮、効率向上、コスト削減といった経営体質を支える手段として使われてきました。その意味でITの存在感は揺るぎないものです。経営者も、業務の現場にいる人たちもその価値に疑問を持つ人はいないでしょう。しかし、「新たな価値」、すなわち企業体力を強化するITは、我が国においてはまだ十分に理解されているとは言えません。IBMが世界の経営者の意識調査を行った「CEO Study 2015」にも、ITを競争力の源泉と捉えている経営者は我が国では相対的に少なく、いまだ効率化の手段としての認識を越えていないのが現実です。ただ、世界の潮流は間違えなく、その方向に向かっています。そして、新たな取り組みを模索する我が国企業も拡大しつつあるようです。
しかし、その受け皿となる情報システム部門が、この時代の要請を受けとめられていないばかりか、この変化を積極的に後押ししようというシステム事業者も多いとは言えません。広告や宣伝では自らの先進的な取り組みは謳いつつも、実態は従来価値を支える既存システムの受託開発や保守がほとんどであり、人月ビジネスに大きく依存しています。
既存のニーズを無視せよとか、捨ててしまえとか言いたいわけではありません。それもまたお客様に取っては大切な経営基盤です。その安全と安心を支えることに価値がないなどと言うつもりはありません。しかし、お客様のシステムを任され、信頼を託されているシステム事業者であればこそ、未来を見据えたITの新たな価値を訴求し、お客様を導いてゆく役割と責任があることを自覚すべきではないかと思うのです。
先日、ある大手のSI事業者の事業戦略について話を伺う機会がありました。その中で、第三者の調査期間を使った自社への評価について紹介されていました。その中で、「言われたことは確実にこなしてくれるので信頼している」と評価されている一方で、「新しいことへの積極的な提案がない」といった評価もあったそうです。これはとても意外なことでした。というのは、この会社は、とても先進的なことでも有名で、業界をリードしていると思っていたからです。しかし、そんな企業でさえもお客様から見れば、もっと積極的であって欲しいと思われているのでしょう。
営業の現場に立てば、売上と利益がいつも求められます。そのためには、数字に直接結びつきにくい「新しいこと」に取り組むよりも既存の受託開発や保守と行った業務ニーズを取りこぼさないようにすることが堅実であり、社内評価にもむつびつきます。それは、しかたのないことかもしれません。そういう現場を叱咤激励し、「もっと新しい提案をすべきである」と訓話を述べても現場のモチベーションが上がるわけはありません。もっと戦略的に、つまりは、既存の事業を支えるチームと新しいことを仕掛けるチームに組織を分割し、業績評価基準もそれぞれに最適なものに作り替えて、対応すなどの現実的なアプローチが必要です。
いずれにしろ、新しい方向へ向かおうという慣性が、お客様のなかに生まれてきていることだけは確かです。そこに率先して関わることが、やがて訪れる「人月積算ビジネス=工数は稼げるが利益はゼロ」の時代を乗り切る手段となるはずです。
冒頭に紹介したキーワードもそうですが、ITのトレンドを手段の移り変わりとして捉え、それにどう対応しようか考えているだけでは不十分です。その背景にある意味やお客様のビジネス価値を考えることで、はじめて自分たちの向かうべき筋道が見えてくるのです。先般上梓させて頂いた「システムインテグレーション崩壊の戦略」もまさにそんな視点に支えられています。
これまでも変化のない時代などありませんでした。私たちは、そんな時代の変革にこれまではうまく対応してきました。しかし、いま起こりつつある変化は、これまでの変化とは質的に大きく違っています。それは、「デジタル・トランスフォーメーション」という言葉に集約されるでしょう。そのもたらす結果は、「工数の喪失」と「ITに求められる役割の変化」です。これはかつて経験してこなかったことであり、これまでの経験の延長線上には解決策はありません。
そんな時代をどう生き抜くのか。
そろそろ来年度の事業計画をまとめられている方も多いのではないかと思いますが、「自分たちの抱えるエンジニアの人数×稼働率」からだけで事業目標値を設定するといった愚行はそろそろ辞めにして、あらたな付加価値をどう創出し、新たな数式での事業目標を考えみてはいかがでしょうか。
「ポストSIビジネスのシナリオをどう描けば良いのか」
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これまでと同じやり方では、収益を維持・拡大することは難しくなるでしょう。しかし、工夫次第では、SIを魅力的なビジネスに再生させることができます。
その戦略とシナリオを一冊の本にまとめました。
「システムインテグレーション再生の戦略」
- 歴史的事実や数字的裏付けに基づき現状を整理し、その具体的な対策を示すこと。
- 身の丈に合った事例を紹介し、具体的なビジネスのイメージを描きやすくすること。
- 新規事業を立ち上げるための課題や成功させるための実践的なノウハウを解説すること。
また、本書に掲載している全60枚の図表は、ロイヤリティ・フリーのパワーポイントでダウンロードできます。経営会議や企画書の資料として、ご使用下さい。
こんな方に読んでいただきたい内容です。
SIビジネスに関わる方々で、
- 経営者や管理者、事業責任者
- 新規事業開発の責任者や担当者
- お客様に新たな提案を仕掛けようとしている営業
- 人材育成の責任者や担当者
- 新しいビジネスのマーケティングやプロモーション関係者
- プロジェクトのリーダーやマネージャー
【最新版】最新のITトレンドとビジネス戦略【2016年2月版】
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【新規登録】新入社員研修のための2つの教材を登録しました。
新入社員研修のための教材を公開しました。基礎的なことですが、これだけは知って欲しいという内容をできるだけ平易な文章と図解で紹介しています。プレゼンテーションだけではなく、教科書としてMS Wordの解説資料も合わせて掲載しています。
まもなく始まる新入社員研修や基礎的なことが不安という方の復習用にもご活用下さい。
【ITの基礎】
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【情報システムの基礎】
- プレゼンテーション(pptx形式:10ページ)
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【更新】最新のITトレンドとビジネス戦略
人工知能に関連した記述を増やしたこと、および、ITや情報システムの基礎的な知識については、「新入社員のための研修教材」として切り出し、そちらでより詳しく解説しています。
【サービス&アプリケーション編】(204ページ)
*スマートマシンと人工知能について、資料を刷新致しました。
- 2045年までのスマートマシンのロードマップを追加しました。P.119
- スマートマシンが労働にもたらす影響について追加しました。p.126-128
- 自動運転車の動向について追加しました。p.129-130
- 人工知能についてのページ順序を変更しました。
- 従来の機械学習とディープラーニングの違いを図表に組み込みました。p.149-150
【ビジネス戦略編】(86ページ)
- 営業人材の育成について、「営業の能力モデル」についての解説を追加しました。( p.72-75)
【インフラ編】(246ページ)
- 変更はありません。