「私たちの仕事はなくなってしまうのでしょうか?」
「いまの仕事はいつまでつづけられるでしょうか?」
「どのようなところにビジネス・チャンスがあるでしょうか?」
SI事業者の皆さんにポストSIビジネスをテーマとした講演をさせて頂くと、このような質問を頂くことがあります。これについて、私なりの考えをお伝えする前に、前提となるビジネス環境がどうなろうとしているかに触れておきたいと思います。
工数ビジネスはそう簡単には消滅しない
これからも工数ビジネスが一定の需要を生みだし続けることは間違えないと思っています。需要の変動はあるものの消滅してしまうことはありません。ただ、プログラミングや運用など、代替可能な単純業務はオフショアや自動化の拡大に単金の頭を抑えられ利益の確保はますます難しくなります。また、開発生産性の高いAPIやPaaSを活かしたクラウド・ネイティブなシステム開発の普及は、案件ごとの工数規模を縮小します。
インフラ構築もクラウドを使えば工数は減るでしょうが、それ以上に大きなインパクトは、SaaS、API、PaaSなどインフラの構築を必要としないアプリケーションの利用や開発の環境が拡大してゆくことです。「オンプレミスをIaaSへ」という単純移行のシナリオは、より上位のレイヤーを使うことと比べれば、コスト的にも、ビジネス・スピードへの対応という観点からも魅力は少なく、メリットを見出しにくくなりつつあります。そうなれば、「クラウドでのインフラ構築」という需要の拡大には限界があることも覚悟しなければなりません。
工数需要はなくならないが、その規模は小さくなり、売上と利益の減少は避けられない現実に向き合うことが必要です。
自動化や自律化が急速に進展する
ソフトウェアの開発において、「人工知能を使った自動化」はまだすこし先の話かもしれません。特に業務や経営近い上流工程は、容易に代替できるものではありません。しかし、システム運用においては、人工知能や機械学習駆使した自動化はここ数年で急速に普及するのではないかと考えています。その理由は「パターンを見つけやすい」からです。もちろん、個々の個別の事象に向き合わなければならないこともありますから、完全なパターン化は難しいという考えもあります。しかし、ビジネスや業務のプロセスに深く関与し、クリエイティブなコードを書くことが求められるプログラミングよりは遥かにパターンを作りやすい領域です。それが証拠に、これまでも標準化された運用ルールや手順に基づき、それを確実こなすための「自動化」は広く使われてきました。それに加え、運用の実績やインシデントを機械学習させ、状況を判断して自ら実行する「自律化」へと機能を拡張させてゆくことになれば、運用業務での工数需要は少なくなって行きます。
クラウドへの移行が進めば、システムのインフラは全てソフトウエア化され、より上位のPaaSやSaaSレイヤーを使うサーバーレス環境が普及してゆくでしょう。そうなれば、ますます運用の自動化や自律化はやりやすくなり、工数需要は減少します。
需要と供給が直接結びつく
クラウドの本質は、「共同利用を前提とした大量購買・一括運用による、設備調達・運用コストの低減と高度技術の集約」にあります。これによりユーザーは初期投資リスクを背負うことなく、高度なテクノロジーとシステム資源をサービスとして利用できることになりました。
システム利用者が求めているのはテクノロジーとリソースであり、それを使って生みだされる利用価値です。しかし、これまではハードウェアやソフトウエアを購入しなければそれを手に入れることはできませんでした。しかし、クラウドの登場は「購入」することなしに直接テクノロジーやシステム資源を手に入れられるようにしたのです。また、PaaSやAPI、SaaSを使えば、開発やインフラ運用という中間的負担さえも大幅に減らしてしまいます。まさに需要と供給を直接結びつける仕組みが出来上がりつつあるのです。
すこし観点は異なりますが、ビジネスの現場においても同様の変化が起きています。
インターネット以前は、企業や組織が高額の費用をかけて個別にネットワークを持ち、自分たちの支店や工場をつないでいました。また必要があれば、企業や組織が個別に通信回線をつないでデータのやり取りをするのが一般的でした。これにも多大な費用がかかったのです。
しかし、企業や組織、地域を越えてオープンにつなげることができるインターネットの登場により、低コストでネットワークをつなげることが可能になりました。様々な業務システムはインターネットにつながり、パソコンやスマートフォンの普及で、個人もこのネットワークに参加できるようになったのです。
このインターネットの普及により、容易に様々なデータを連係させることが可能になり、かつてはなかったようなサービスが登場しています。
自動車配車サービスのUberや民泊仲介サービスのAirbnb、手作りクラフトを仲介販売するサービスのEtsyなど、インターネットを介して需要者と供給者を直接結びつけるサービスが広く受け入れられている。また、昨今、話題に事欠かないFinTechの様々なサービスも閉鎖的な金融機関のネットワークとインターネットをつなぎ、需給の関係を低コストでまたリアルタイムで結びつけることで新たな価値を生みだそうとしています。
このようにクラウドやインターネットは、受容者と供給者を直接結びつけ、新しい組合せを創出し、さらにそのためのコストを劇的に引き下げつつあるのです。このような新たな経済のメカニズムが生まれつつあることで、ビジネスとしての収益確保の筋道も変わりつつあるのです。
このような環境を踏まえ、冒頭の質問の答えを考えてゆくとどうなるでしょうか。
「私たちの仕事はなくなってしまうのでしょうか?」
単純労働の工数仕事はなくなりはしませんが、利益の出ない仕事へと向かってゆくでしょう。やがては「限界コスト=売値=利益ゼロ」に向かってゆきます。この状態になけば、利益を上げるためには稼働率を100%以上にしなりません。これでもよけそれば、仕事はなくなることはありませんが、そうでないとすれば別の道を探らなければなりません。
「いまの仕事はいつまでつづけられるでしょうか?」
「工数は増えているのですが、利益率は下がっています」といった話をよく聞きます。これは、前提となるビジネス環境を考えれば、当然の成り行きです。では、それがいつまで続けられるかという問題ですが、今でも厳しい利益がさらに厳しくなれば、稼働率へのプレッシャーはますます高まり、新しいことへチャレンジできる余裕はなくなってしまいます。この現実を考えれば、「いつまで続けられるか」を「いつまで息をしていられるか」と同じ意味として捉えるなら、もう限界というところもあるかもしれません。いずれにしろ、死んでしまってからでは遅いのです。
「次の手を打つ余裕があるうち」というのことがこの疑問への回答と言えるでしょう。その余裕をどうみるかは、経営者が判断するしかありません。
「どのようなところにビジネス・チャンスがあるでしょうか?」
新規事業に取り組んでいるという企業は少なくありません。しかし、なかなか芽が出ないといったところもまた少なくありません。その理由は、いくつかありますが、次のようなケースをよく目にします。
ボランティア活動で新規事業開発に取り組んでいるケース
自分が業績評価される本業の傍ら、「おまえは優秀で将来を期待しているから」という理由で集められたメンバーで、放課後のクラブ活動のように「新規事業開発プロジェクト」を行っている場合です。
当初は、使命感に燃え取り組んでも、本業が忙しくなったり、火を噴いたりすればそちらに時間を割かなければなりません。そのために新規事業に専心できません。また、そんなボランティア活動には決定権や予算もなく、「3年後に10億円の事業を実現して欲しい」といった根拠のない思いつきの目標が与えられ、それがプレッシャーとなってメンバーの士気を下げてしまっているといった現状も目にします。
また、「大胆で思い切った提案を期待している」ということで提案をしても、前例もなくリスクのある取り組みは難しいと一蹴されるので、何も提案できないと言った話も聞きます。このような状況では、実効性のあるプロジェクトなど生まれることなどありません。
専任を配置することです。当初は大人数である必要はありませんが、新規事業の成功が本人の業績評価になるという状況を作ることからはじめるべきでしょう。
社内だけでやろうとしているケース
どんなに優秀な社員を抱えていたとしても、その企業文化で育ち、その企業ならでは行動パターンや価値基準をすり込まれた人たちが、大きく変わる世の中の常識を肌で感じ、新しい事業モデルを組み立てることは容易ではありません。
オープンに国内外のベンチャーや外部の人材とコラボレーションすることです。そこに新しい発想を見出し、彼らを自分たちに取り込むのではなく、エコシステムとして自律的な協業関係を築いてゆくことで、お互いの強みを発揮させることが大切です。
業績評価基準を変えないケース
業績評価の基準もその会社のそれまでのビジネス・モデルに最適化されています。例えば、一般のSI事業者であれば、年度内での売上と利益が業績評価の基準になります。しかし、サービス・ビジネスの拡充とストックの拡大を目指せば、この基準の達成は難しくなってしまいます。しかし、評価基準を人によって変えることは不公平だとの伝統的刷り込みは強く、事業戦略に合わせ業績評価基準をダイナミックに変えようとしません。これでは、現場のモチベーションを上げることはできません。同じ会社だからできないのであれば、別会社にするしかありせん。
新規事業は短期に業績に貢献しないのは仕方の無いことです。また、収益構造も従来の自分たちのものとは大きく変わってしまうです。そのことをまずは受け入れ、業績評価の基準を柔軟にすることです。
「どのようなところにビジネス・チャンスがあるか」は自分たちで見つけるしかありませんが、ここに上げたような「うまくすすめられない状況」をとり除くことが、自分たちにふさわしいビジネス・チャンスを見つけることにつながります。
「SIビジネスはなくなってしまうのでしょうか?」
これまでと同じやり方では、収益を維持・拡大することは難しくなるでしょう。しかし、工夫次第では、SIを魅力的なビジネスに再生させることができます。
その戦略とシナリオを一冊の本にまとめました。
「システムインテグレーション再生の戦略」
- 歴史的事実や数字的裏付けに基づき現状を整理し、その具体的な対策を示すこと。
- 身の丈に合った事例を紹介し、具体的なビジネスのイメージを描きやすくすること。
- 新規事業を立ち上げるための課題や成功させるための実践的なノウハウを解説すること。
また、本書に掲載している全60枚の図表は、ロイヤリティ・フリーのパワーポイントでダウンロードできます。経営会議や企画書の資料として、ご使用下さい。
こんな方に読んでいただきたい内容です。
SIビジネスに関わる方々で、
- 経営者や管理者、事業責任者
- 新規事業開発の責任者や担当者
- お客様に新たな提案を仕掛けようとしている営業
- 人材育成の責任者や担当者
- 新しいビジネスのマーケティングやプロモーション関係者
- プロジェクトのリーダーやマネージャー
【最新版】最新のITトレンドとビジネス戦略【2016年1月版】
*** 全て無償にて閲覧頂けます ***
最新版【2016年1月】をリリースいたしました。
今月の目玉は、IoTと人工知能についての記述を大幅に刷新したことと、これからのビジネス戦略について、新たなチャート&解説を追加したことです。是非、ご確認下さい。
*全ての資料(529ページ)は全て無料で閲覧頂けます。
【インフラ&プラットフォーム編】(246ページ)
・見栄えや誤字の修正を行いました。内容の変更はありません。
【アプリケーション&サービス編】(199ページ)
*IoTと人工知能について、大幅に資料を刷新致しました。
IoT
・「IoTとは何か」を新規に追加しました。P.14
・CPS(Cyber Physical System)についての記述を追加、修正致しました。p.17-20
・自動運転車について新たなチャートを追加しました。p.23
・モノのサービス化について新たなチャートを追加しました。p.28
・IoTに関する事例動画を刷新しました。p.49-52
人工知能
・8ページの新規プレゼンテーションを追加し、全体のストーリーを変更しました。p.139-153
【ビジネス戦略編】(84ページ)
・「テクノロジードリブンの時代」を追加致しました。 p.3
・「ビジネスの変革を牽引するテクノロジートレンド」を2016年版に差し替えました。p.4
・「ポストSI時代に求められるスキル」を追加しました。p.5
・社会構造の変革に関する記述を追加しました。p.6-8
・「顧客価値と共創優位」を追加しました。p.9-10