年初より、ポストSIビジネスに向けた展望やビジネス構造について書いてきましたが、それでもなお踏み出せないという企業もあるのではないでしょうか。
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そこには容易に乗り越えることのできない3つの壁があるようです。
売上減少の壁
ポストSIビジネスに踏み出すためには収益構造の転換を覚悟しなければなりません。これが大きな壁になると考えられます。具体的には次の3点について覚悟しなければなりません。
工数積算型の仕事を減らすことを覚悟する
工数需要がなくなることはありませんが、その収益率は今後とも下がり続け、やがては「限界コストと一致する」、つまり「利益ゼロ」に近づくことを覚悟しなければなりません。極端な仮説かもしれませんが、少なくとも「他社と比較して付加価値が出せない=何処を選択しても同じ」となると、オフショアを含め労働単価の安いところを基準とした価格競争となり、それに対応しようとすれば自ずと利益を削らなければならなくなるからです。また、PaaSやAPIエコノミー、人工知能や超高速開発ツールの普及は開発や運用の生産性を“劇的”に高めてゆくことはもはや避けられず、「需要はあっても工数は稼げない」現実が待ち構えています。
従来型のSIビジネスは工数を増やすことで売上を拡大し、それに利益もついてくることを前提とした収益構造でした。この前提がいま崩壊しつつあるのです。この「工数で稼ぐ」という常識は企業経営のDNAのようにすり込まれており、経営や事業のKPIを「人数×稼働率×単金」から変えることができません。このKPIをそのままに新規事業を考えている限りにおいては、ポストSIビジネスに踏み出すことは難しいと言えるでしょう。
もちろん、高度な専門的スキルを持っている場合やアジャイル開発を駆使して高い生産性と品質を約束できる請負開発などの場合は、この限りではありません。
一時的な売上金額の減少を覚悟する
ポストSIビジネスのにおける顧客価値は、スピードと柔軟性です。そのためにはアジャイル開発やDevOps、クラウドの活用を積極的にすすめ、運用や開発に関わる生産性を大幅や高めることが欠かせません。従来型のSIビジネスにおいては、生産性を上げることは工数を下げることですから利益相反となり、どうしてもそれに取り組むことへのモチベーションは上がりませんでした。それでも生産性を上げることに取り組んできたのは、ユーザー企業の値下げ要求に応えるためであって、決して積極的な理由ではなかったのです。しかし、ポストSIビジネスではこの生産性の高さを決定的な武器として、ユーザー企業のニーズに対応することが求められるのです。
利益率重視の経営に舵を切ることを覚悟する
生産性が上がれば、工数は減少します。それはとりもなおさず売上の減少に直結します。これを先ず受け入れることが必要です。工数が減少する以上に生産性を上げることができれば利益率の拡大が期待できるわけで、これをKPIに据えることが大切になります。
また、生産性が上がればスピードも速くなります。これにより案件数を増やしビジネス規模の拡大を目指すことが可能となります。つまり、案件単価は下がっても利益率が上がり、案件数が増えれば売上規模を維持し、利益の拡大につなげることができるのです。
しかし、ビジネスの転換期においては利益を重視する必要があり、売上が一時的に減収することを覚悟しなければなりません。そのことを株主や借入先の金融機関が受け入れてくれるかどうかが、大きな壁となるでしょう。
スキルアンマッチの壁
ポストSIビジネスにおいては、新しいテクノロジーを積極的に受け入れていかなければなりません。また、開発や運用はアジャイルなスタイルへと変えてゆかなければなりませんが、そうなると開発や運用、業務が分かり、お客様と交渉できる「フルスタック・エンジニア」であることが求められるようになります。
特に開発について言えば、「分割されたシステム機能を手分けして開発し、全体を完成させ本番に移行する」という考え方から、「ビジネス上の価値が高い業務プロセスをその優先順位に沿って順次本番稼働させ、それを繰り返すことでビジネスに貢献する」という考え方へと変わってゆくことが必要になるのです。これは、従来のPMの考え方とは大きく異なっています。
まもなく終焉を迎えようとしている「特需」においては、このような考え方は採用されておらず従来のテクノロジーや開発、運用の考え方が使われています。そのようなプロジェクトから多くのエンジニアたちが解放されれば、その稼働率をどう維持するかが大きな経営課題となるはずです。しかし、新しい需要に応えられるスキルを持っていないままでは、付加価値が低く利益が出ない雇用を維持するためだけの工数需要を受け入れなくてはなりません。
長期的に見れば、スキルのキャッチアップも期待できるかもしれませんが、短期的にこれが大きな壁となり、新しいことをやりたくても何できないといったジレンマに陥ってしまう可能性があります。
新規顧客開拓の壁
ポストSIビジネスのチャレンジは、ユーザー企業、特にエンド・ユーザー自身である事業部門とダイレクトに関わることです。これまでのように大手システム事業者の下請けや情報システム部門だけに頼っていては、自らの将来を自分で描くことは難しいと言えるでしょう。
もちろん、新しいことへのチャレンジをすすめる大手システム事業者や情報システム部門もあるわけですから、そういうカウンターパートと対等にパートナーシップを持てるのであれば、その限りではありません。しかし、現実はそう簡単な話ではありません。特に、大手システム業者の「自分たちの単金では割が合わないが売上は欲しいので安いSI事業者に仕事を依頼する」という考え方がそう簡単に変わるとも思えませんから、いずれにしてもそこで収益を拡大することは容易なことではないでしょう。
従って、「自分たちの事業収益に見合うのであれば、相応の対価を支払う」というエンドユーザー部門との直接的なビジネスを模索する必要があるでしょう。
しかし、これまでにチャネルのなかった顧客にどのようにしてつながるかといったマーケティング力、また、そういう顧客を説得できる営業力が必要となることは言うまでもありません。
しかし、これまでマーケティングなどという発想もなく、顧客の要求に応えることにのみ腐心してきた企業が、新しい顧客に自ら創った新しい価値を提供し、説得しなくてはなりません。これは、スキル以前の問題として、その意味や価値を理解できないといった壁が立ちはだかっているように思います。これは高度に専門的なスキルであり、歳を重ねればできるようになるとか、本業の片手間で対応できるといった類のものではないのです。
売上減少の壁、スキルアンマッチの壁、新規顧客開拓の壁といった3つの壁の存在を先ず受け入れることです。その上で、覚悟を決めてポストSIビジネスに向けた施策を進めて行く必要があるように思います。
【残り若干名】ITソリューション塾・第21期 2月9日 開講
次期・ITソリューション塾が、以下の日程で行われます。おかげさまで、既に70名を越えるご応募となりました。ありがとうございました。会場のキャパシティの制約もあり、そろそろ締め切りとさせていただくなくてはなりませんが、若干名の残席はございます。ぜひ、ご検討下さい。
なお、次期講義では、企業システムとしてクラウドを活用するための実践的ノウハウ、IoT時代のセキュリティ対策、ビジネス・スピードに対応するためのアジャイル開発やDevOpsなど、皆さんのビジネスに直接関わる実践的な知識をしっかりと盛り込む予定です。
- 期間 初回2016年2月9日(火)〜最終回4月26日(木) *3月最終週はお休みです*
- 時間 18:30〜20:30
- 回数 全11回(特別補講を含む)
- 定員 80名
- 場所 アシスト本社/東京・市ヶ谷
- 参加費用 9万円(+消費税)
- 全期間の参加費と資料・教材を含む
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また、本書に掲載している全60枚の図表は、ロイヤリティ・フリーのパワーポイントでダウンロードできます。経営会議や企画書の資料として、ご使用下さい。
こんな方に読んでいただきたい内容です。
SIビジネスに関わる方々で、
- 経営者や管理者、事業責任者
- 新規事業開発の責任者や担当者
- お客様に新たな提案を仕掛けようとしている営業
- 人材育成の責任者や担当者
- 新しいビジネスのマーケティングやプロモーション関係者
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最新版【2016年1月】をリリースいたしました。
今月の目玉は、IoTと人工知能についての記述を大幅に刷新したことと、これからのビジネス戦略について、新たなチャート&解説を追加したことです。是非、ご確認下さい。
*全ての資料(529ページ)は全て無料で閲覧頂けます。
【インフラ&プラットフォーム編】(246ページ)
・見栄えや誤字の修正を行いました。内容の変更はありません。
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*IoTと人工知能について、大幅に資料を刷新致しました。
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・「テクノロジードリブンの時代」を追加致しました。 p.3
・「ビジネスの変革を牽引するテクノロジートレンド」を2016年版に差し替えました。p.4
・「ポストSI時代に求められるスキル」を追加しました。p.5
・社会構造の変革に関する記述を追加しました。p.6-8
・「顧客価値と共創優位」を追加しました。p.9-10