ポストSIビジネスを考える上で、理解しておくべきビジネスとテクノロジー、またそこに関わる人材の関係について整理してみました。
ビジネス・モデルとビジネス・プロセス
ビジネスが成り立つかどうか、あるいは成功するかどうかは、ビジネス・モデルの巧拙がカギを握ります。どんなに優れたテクノロジーを持っていても、また高いスキルを持った人材がいても、それを収益につなげるためのビジネス・モデルなくして、ビジネスは成立せず継続もできません。
もちろん想定したビジネス・モデルが成功する保証はありません。また、市場のニーズも常に変化しています。だからこそ、万人に対する百点満点を最初から目指すのではなく、特定の顧客に対する90点でいち早く実践に適用し、想定した仮説を検証し修正を繰り返しながら完成度を高め、段階的に顧客の裾野を拡げてゆくことが大切になります。
ビジネス・プロセスとは、このビジネスのカタチである「ビジネス・モデル」を成り立たせる仕事の手順であり、顧客をこのビジネス・モデルに巻き込むためのシナリオです。この両者の関係について仮説を立て実践を通じて修正を繰り返してゆくことが「ビジネス開発」となります。
しかし、現実にはテクノロジーやスキルをどうするかに関心が偏り「ビジネス・モデルとビジネス・プロセス」が後回しにされるケースを目にすることがあります。その背景には、これまではテクノロジーやスキルがあれば、販売や人月仕事がついてきたからです。しかし、ビジネスのカタチがサービスへと重心を移せば、これらビジネスが縮小することは避けられず、これまでとは異なるシナリオを組み立てなければなりません。この点については、先週のブログに詳しく解説いたしましたので、よろしければあわせてご覧下さい。
パブリックなクラウド・サービス
ポストSIビジネスの新たなビジネス・モデルとビジネス・プロセスを支えるシステムは「パブリックなクラウド・サービス」上に構築されることになります。これはパブリック・クラウドとホステッド・プライベート・クラウドに分けることができます。両者については、こちらのブログに詳しく解説してますので、よろしければご覧下さい。
ポストSIビジネスを考える上で注目すべきは、PaaS、コンテナ、APIというキーワードでしょう。つまり、従来のような仮想基盤(IaaS)でシステムを構築・運用するという考え方から、より上位のレイヤを使うことで高速・短期間で構築・運用でき、変更にも即応できるようにするための仕組みへのシフトがすすむと考えられます。
サービス・ビジネスは、構築と保守、運用管理が同時進行することになりますので、この仕組みを視野に入れた取り組みを考えてゆくべきでしょう。また、ホステッド・プライベート・クラウドにおいても、ビジネス・スピードが加速することへの対応が求められます。そのニーズに対応する手段としても有効です。
また、様々なクラウド・サービスをそれぞれの特徴を活かして組み合わせて使うマルチ・クラウドも普及します。そうなると、それらサービスをまたがるネットワークもまたクラウド上に構築されなくてはなりません。それが、オーバーレイ・ネットワークです。物理的な機器構成に依存することなく、ソフトウェア機能として実装されるネットワークとなります。
様々なパブリックなクラウド・サービスを自社の専用のシステムとして他のシステムから分離させ、しかもネットワーク構成の変更に柔軟・迅速に対応するために欠くことのできないテクノロジーです。
このように、様々なシステム機能やサービスがパブリックなクラウド・サービス上で利用されるようになると、認証基盤の重要性が高まります。
これまでのオンプレミス・システムの場合は、「安全な内部」と「危険な外部」を物理的に分けて、その境界を外部の攻撃から護るという考え方が広く採用されてきました。そして認証は、安全な内部でユーザーが利用する際の権限を設定する手段として使われてきました。
しかし、パブリックなクラウド・サービスに重要なシステムやデータが置かれ、それを利用することになれば、この「物理的な境界」という概念はなくなります。そうなると、システムとユーザー、あるいはデータとユーザーとの信頼関係を担保すると共に、誰が、いつ、何をしたのかを管理できる仕組みが必要になります。モバイルやウエアラブル、IoTといった、何処で使われるか分からないデバイスも管理の対象にしなければならならない訳ですから、認証基盤はまさにセキュリティの要となるのです。
IoT
IoTの普及は、ITがこれまでにも増して私たちの日常に深く関与してゆくことを意味しています。その普及は加速度的であり、様々なビジネスを支え適用領域が拡大してゆきます。この「加速度的成長」を味方につけることはポストSIビジネスを成功に導く上でも有効です。規模は大きいが成長しない、あるいは縮小する市場はもはや成熟期から後退期へと市場が向かっているということです。そこにこだわっていては自分たちのビジネスを成功させることはできません。
もちろん、IoTだけが「加速度的成長」市場ではありませんが、このIoTを軸に周辺を見渡してゆくことは、ひとつの有効なアプローチになるでしょう。
アーキテクト
サービスとしてのインフラやプラットフォームが普及すれば、システム構築や運用管理の工数需要は減少することは避けられません。その一方で、様々なサービスを効果的に使いこなし、ビジネス価値を高めてゆくためのスキルが、これまでにも増して求められるようになるでしょう。そこで活躍するのがアーキテクトです。
アーキテクトには、3つのタイプがあります。ひとつは、ビジネス・ニーズを起点にして、ビジネス価値を最大化するためにどのようなテクノロジーを活用し組み合わせるかを考えるビジネス・アーキテクトです。もうひとつは、テクノロジー・シーズからどのようなビジネス・モデルやビジネス・プロセスを組み立てられるかを考えるテクノロジー・アーキテクト。最後は、ビジネス・プロセスとテクノロジーを横断的に俯瞰し、ビジネス全体のセキュリティやガバナンスの仕組みを考えるセキュリティ・アーキテクトです。
この3つのタイプのアーキテクトは、役割を意味するものであり、一人が複数の役割をこなせれば理想ですが、容易なことではありません。現実的には、それぞれの役割を担うアーキテクトたちが協力し合うことになるのでしょう。ただ、こういう役割がますます重要になってくるでしょう。だからといって工数需要がなくなるわけではありませんが、このようなアーキテクトの存在があってこそ、ビジネスを牽引でき、付加価値の高い工数需要を生みだすことができるようになるのです。
ポストSIビジネスは、このような構造の上で築かれてゆくことになると考えています。
【募集中】ITソリューション塾・第21期 2月9日 開講
次期・ITソリューション塾が、以下の日程で行われます。多くの皆さんと共に学べることを楽しみにしています。
次期講義では、企業システムとしてクラウドを活用するための実践的ノウハウ、IoT時代のセキュリティ対策、ビジネス・スピードに対応するためのアジャイル開発やDevOpsなど、皆さんのビジネスに直接関わる実践的な知識をしっかりと盛り込む予定です。是非、ご検討ください。
- 期間 初回2016年2月9日(火)〜最終回4月26日(木) *3月最終週はお休みです*
- 時間 18:30〜20:30
- 回数 全11回(特別補講を含む)
- 定員 80名
- 場所 アシスト本社/東京・市ヶ谷
- 参加費用 9万円(+消費税)
- 全期間の参加費と資料・教材を含む
「SIビジネスはなくなってしまうのでしょうか?」
これまでと同じやり方では、収益を維持・拡大することは難しくなるでしょう。しかし、工夫次第では、SIを魅力的なビジネスに再生させることができます。
その戦略とシナリオを一冊の本にまとめました。
「システムインテグレーション再生の戦略」
- 歴史的事実や数字的裏付けに基づき現状を整理し、その具体的な対策を示すこと。
- 身の丈に合った事例を紹介し、具体的なビジネスのイメージを描きやすくすること。
- 新規事業を立ち上げるための課題や成功させるための実践的なノウハウを解説すること。
また、本書に掲載している全60枚の図表は、ロイヤリティ・フリーのパワーポイントでダウンロードできます。経営会議や企画書の資料として、ご使用下さい。
こんな方に読んでいただきたい内容です。
SIビジネスに関わる方々で、
- 経営者や管理者、事業責任者
- 新規事業開発の責任者や担当者
- お客様に新たな提案を仕掛けようとしている営業
- 人材育成の責任者や担当者
- 新しいビジネスのマーケティングやプロモーション関係者
- プロジェクトのリーダーやマネージャー
【最新版】最新のITトレンドとビジネス戦略【2016年1月版】
*** 全て無償にて閲覧頂けます ***
最新版【2016年1月】をリリースいたしました。
今月の目玉は、IoTと人工知能についての記述を大幅に刷新したことと、これからのビジネス戦略について、新たなチャート&解説を追加したことです。是非、ご確認下さい。
*全ての資料(529ページ)は全て無料で閲覧頂けます。
【インフラ&プラットフォーム編】(246ページ)
・見栄えや誤字の修正を行いました。内容の変更はありません。
【アプリケーション&サービス編】(199ページ)
*IoTと人工知能について、大幅に資料を刷新致しました。
IoT
・「IoTとは何か」を新規に追加しました。P.14
・CPS(Cyber Physical System)についての記述を追加、修正致しました。p.17-20
・自動運転車について新たなチャートを追加しました。p.23
・モノのサービス化について新たなチャートを追加しました。p.28
・IoTに関する事例動画を刷新しました。p.49-52
人工知能
・8ページの新規プレゼンテーションを追加し、全体のストーリーを変更しました。p.139-153
【ビジネス戦略編】(84ページ)
・「テクノロジードリブンの時代」を追加致しました。 p.3
・「ビジネスの変革を牽引するテクノロジートレンド」を2016年版に差し替えました。p.4
・「ポストSI時代に求められるスキル」を追加しました。p.5
・社会構造の変革に関する記述を追加しました。p.6-8
・「顧客価値と共創優位」を追加しました。p.9-10