「たくさんの会社を見て来て、なぜ長続きしないのかを考えてきました。多くの会社が現れては消えて行きましたが、彼らは何を間違ったんだろう? と考えました。共通して犯している間違いは、多くの場合、未来を見通していなかったということに尽きます。」
Googleの共同創業者であり最高経営責任者(CEO)のラリー・ペイジが、2014年、TEDでこのようなスピーチをしています。
人月商売である受託開発や派遣が今後伸びることがないことは、多くの人が認めるところです。しかし、それでも次のビジネスを描けず行動を起こせないのは、まさにこのことが理由ではないかと思うのです。
多くのSI事業者は、これまでも様々な変化に立ち向かい、それを克服してきました。メインフレームの全盛期は、銀行の巨大システムの構築や一般企業でもコンピューターが利用されはじめ、プログラム開発の需要が急速に拡大しました。その後、メインフレームからオフコンやミニコンへのダウンサイジング、さらには、クライアントサーバーの時代へと進んでいきます。そんなトレンドの移り変わりにうまく対応しながら、開発需要を拡大させていきました。また、個別・独自の開発ではなくパッケージ・ソフトウェアを使って開発需要を減らす動きもありましたが、業務現場の発言力が強い我が国においては、業務のやり方が変わることへの抵抗が強く、業務にシステムを合わせるという理由からパッケージのカスタマイズ需要が生みだされ、開発需要を膨らませていきました。ここ最近は、開発環境やツールの整備により開発生産性が大きく向上し、パッケージをそのまま使うことへの抵抗感も薄らぎつつある一方で、Webアプリケーションの開発需要が拡大傾向にあり、開発需要は維持されてきたのです。
しかし、これらは全て開発の対象は変わっても工数を積み上げることで成り立ってきたビジネスです。
しかし、いまクラウドによるアプリケーションのサービス化、PaaSが提供する機能モジュールやそのAPIを組み合わせての開発、超高速開発ツールや自動化の動きは、開発需要の増大の勢いを遥かに凌ぐ勢いで開発工数の必要性を減らそうとしています。つまり、ITの需要が拡大する一方で、工数の必要性がそれ以上の加速度で減少するという状況が生まれつつあるのです。
また、インフラの構築の需要も減少してゆくでしょう。2020年に実用化が見込まれる第5世代のモバイル通信(5G)は、最大通信速度10Gbps、遅延時間5ms以下を目指しています。現在普及しているLTE(4G)の70〜100倍の通信速度です。セキュリティや回線品質に関してもこれまで以上にきめ細かな配慮がなされることになるでしょう。そんな5Gが普及すれば、社内LANは、不要になるかもしれません。また、サーバー類はクラウドに置かれることになりますので、ユーザー企業が自社のITインフラを所有する必要はなくなります。
このような時代はそれほど遠い将来のことではなく、5年から10年のスパンで現実のものとなるはずです。
ユーザーが必要としているのは、システムそのものではなくシステムによってもたらされるサービスです。かつては、サービスを手に入れるためにシステムを持たなくてはなりませんでした。しかし、システムを持たなくても直接サービスを手に入れられるようになったユーザー企業は、システムの開発やインフラの構築を外部に発注する必要がなくなるのです。
ITは私たちの生活や社会にこれまでにも増して広く深く関わってゆくことになるでしょう。その一方で、ITビジネスの環境はこれまでと大きく変わってきます。ポストSIビジネスは、そんな未来の需要に応えるビジネスでなくてはならないのです。
孫正義氏は、300年後の未来を考えているのだそうです。GoogleやAppleの戦略もまた100年先の未来を自分たちはどのように作るのかを考えているといいます。もちろん、彼らと同じように考えろと言われても簡単にできることではありませんが、それでも10年先の未来を描くことなら手の届くことかもしれません。
これまでの延長、すなわちこれまで築き上げてきた顧客資産や人材、商材や組織体制でどうすれば良いかを考えるのではなく、この既存資産を棚上げして、まずは客観的にテクノロジーとそこに関わるビジネスの未来を描きイメージすることです。そして、再び既存資産を棚から下ろし、描いた未来と現実とのギャップを直視することです。そして、描いた未来と現実との時間軸の中で、そのギャップをどのように埋めてゆくかのマイルストーンを描くことが、事業戦略ではないでしょうか。
東京駅のホームに佇んで、さあ何処へ行こうかとうろうろし、気がつけば山手線を一周して再び東京駅に戻っていた。そんなことにならないように、まずは、北海道なの沖縄なのか、青森なのか福岡なのか、行き先を定めることです。その上で、自分たちにふさわしい交通手段や経路を選択し確実に目的地に踏み出すことが大切です。
「未来から今を逆引きする」
ポストSIビジネスは、そうやって作り上げてゆくものではないでしょうか。
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最新版【2015年10月】をリリースいたしました。今回の目玉は、最新ITトレンドを俯瞰するチャートの追加、IoT関連のチャートの追加、ビジネス戦略の内容刷新とSIビジネスを分析したチャートの追加です。
【テクノロジー編】(379ページ)
- 「デジタル化の歴史」を追加しました。
- サイバー・フィジカル・システムについて、既存のチャートを修正し、さらに新たなチャートを追加しました。
- IoTについてのチャートを追加しました。
- IoTのもたらすパラダイムシフトについてのチャート
- フォグ・コンピューティングのチャート
- 「クラウドにつながるとモノはインテリジェンスになる」チャート
- 人口知能(ティープラーニング)についてチャートを追加しました。
【ビジネス編】(67ページ)
- 新たに「SIビジネスの現場や課題」の章を立て、8枚のチャートを追加しました。
- 成長してきたSI産業
- SI事業のコスト構造
- SI企業のアドバンテージ・マトリクス分析 など
- 新たに「SIビジネスのが直面する現実」の章を立て、既存のチャートと4枚の新しいチャートを加えました。
- シチズンインテグレーターとの競合
- グローバル競争との対峙・新たな競争原理
- 異業種との競合 など
- 新規事業の立ち上げについて、一部内容を見直し、新しいチャートを加えて再構成しました。
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目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン