先週は、ポストSIビジネスが、直面している厳しい現実について考えてみましたが、受託開発・保守、運用に関わる請負や準委任、派遣といった人月積算を前提とした従来型SIビジネスは、なくなることはないでしょう。
例えば、次のような業務は、今後とも継続すると考えています。
- 既存システムの保守や周辺機能の追加開発
- ユーザー企業の独自システムに関する運用管理
- 特定業務・技術スキルを持つ個人に依存した業務
しかし、「既存システム」は、いずれは、新しいテクノロジーや開発・運用の考え方を採用したシステムへと置き換わってゆくことは避けられません。また、「独自システム」の運用は、オンプレミスからパブリック・クラウドへ、そして、人工知能を使った自律的な運用管理システムに徐々に移行してゆきます。さらに、「個人に依存した業務」も需要が保証されるものではなく、なによりもビジネスの規模を確保することができません。
直ちになくなることはないにしても、需要の減少に加え、先週も述べたように生産年齢人口の減少やエンジニアの高齢化により利益確保は、ますます難しくなります。
それでもビジネスとして大きな割合を占める受託開発で延命を図ろうとすれば、「常駐型」を減らし「持ち帰り型」を増やしてゆくことが、有効かもしれません。持ち帰り型受託開発にすれば、ニアショアやオフショアなどの遠隔地の人材を活用でき、自社要員を増やすことなく、需要に対応することが容易になります。また、まだ今後の拡大が期待できる新興国などの海外市場進出のためにも役立ちます。
ただ、「持ち帰り型」への転換は、お客様との仕様確定のやり方や進捗状況の共有の仕方を見直さなければなりません。さらに、自社内に開発環境を整えることも必要になります。しかし、他のプロジェクトに従事している社員の支援を得たり、複数プロジェクトを兼務したりさせることもでき、エンジニア一人当り生産性を向上させることができます。さらに、開発したプログラムを他プロジェクトで再利用することや、独自の開発手法やツールを工夫し開発生産性を高めることで利益率を高める余地を残します。
クラウドやOSSの普及により、開発環境の整備には、従来ほどコストは掛からなくなりました。これらをうまく生かすことで、むしろ積極的に持ち帰り型への転換をすすめコスト競争力を高めることができるでしょう。
しかし、従来型の受託開発需要そのものが、今後減ってゆくことは覚悟しなければなりません。従って、従来型での需要が確保できるうちに、ポストSIビジネスへの筋道を作らなければならないことに変わりはありません。
また、企業個別のインフラおよびプラットフォームの構築や運用管理については、相当厳しいものになることを覚悟しておく必要があるでしょう。
当面は、これまで企業は、独自にシステム環境を築き上げてきました。これらを維持するための運用やサポートの需要は当面継続するでしょう。また、独自システムへのこだわりから、独自のプライベート・クラウドを構築し、パブリック・クラウドとの連携環境である「ハイブリッド・クラウド」の需要も生まれてくると考えています。しかし、これは、パブリック・クラウドへの全面的なシフトの過渡期的な需要であり、中長期的には、パブリック・クラウドへのシフトが進んでゆくものと思われます。
例えば、2020年、モバイル・ネットワークの通信速度は、最大で10Gb、通信環境が悪い場合でも100Mbを確保できる5G(第5世代)通信が実用化しているでしょう。セキュリティも強化され、応答時間に影響する遅延時間も大幅に短縮されます。現在の通信規格である4G(第4世代)の通信速度は、最大で100Mb、その100倍の通信速度が実現しています。企業内のネットワークと遜色のない使い勝手を手に入れることができます。
企業は、クラウド上に自社専用のサーバーや仮想データセンターを持ち、業務で使うアプリーションは、そこで稼働します。ユーザーは、クライアント・デバイスから、5Gネットワークを介して、クラウドにアクセスします。クラウドには、自分のパーソナル・デスクトップやデータ・スペースが置かれ、クライアント・デバイスは、それにアクセスするための通信機能と表示や入出力装置としての役割を果たします。
ノートPC型やタブレット型、スマートフォン型など、使う場所や目的に応じて、使い分けることになるでしょう。そこにプログラムやデータを保管することはありません。
こうなると、企業内のインフラは、必要ありません。逆に、社内の自社ネットワーク、自社所有のサーバーやストレージは、資産を増やし運用管理負担をもたらすやっかいな存在となっているかもしれません。
ユーザー企業のインフラ構築の需要は、なくならないまでも相当厳しくなることを覚悟しておく必要があります。しかし、自らがクラウド事業者になろうとしても、圧倒的な資金力と技術力を持つ大手クラウド事業者と真っ向勝負することは、現実的ではありません。
一方で、このような新しい時代のインフラをどのように使いこなすか、そのためのビジネス・プロセスやワークスタイル、そして、システム環境の整備や設定といった上流のニーズは、ますます重要となります。インフラ・ビジネスは、そんな大きな転換を求められることになります。
それでは、ポストSIに向けて、どのようなシナリオを描けば良いのでしょうか。次週は、この点について、具体的に考えてゆこうと思います。
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- 第1章 クラウドコンピューティング
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- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン