「志を共にできる仲間を増やしたいんです。」
「納品のない受託開発」を手がける株式会社ソニックガーデン・代表取締役社長・倉貫義人氏は、自身のめざしていることについて、このような話をしてくれました。
「会社という組織もアジャイル開発も、結果として、そうなっているだけのことです。エンジニアとして幸せな働き方をしたいだけなんです。その志を共有でき、助け合える仲間を増やしていこうとしたら、こういうカタチに行き着いたんです。」
彼は、小学校4年生からプログラムをはじめたのだそうです。自分で思い通りのプログラムを作り、人に見せれば驚いてくれる、喜んでくれる。そんな彼が、就職先として選んだのは、大手SI事業者だったそうです。
「プログラムを作ることは楽しいことだと思っていました。しかし、そうじゃなかったんですよ。」
そんなやりきれない想いの中で、会社を飛び出すことも考えたそうですが、彼を採用してくれた役員が、こんなアドバイスをしてくれたそうです。
「いま飛び出したところで、喰ってゆくためには、どうせどこかの下請けに甘んじ、本当にやりたいことなんてできないぞ。もし、そうなりたくなかったら、“倉貫”の名前で仕事がとれるくらいに有名になれ。そして、同じ志を共有できる仲間を作れ。その2つができたら会社を辞めてもいい。」
自分の考えを文書にしたり、人前で話したりするのは、大の苦手だったそうです。しかし、この言葉に背中を押され、文書を書き、プレゼンテーションし、自分の存在を広く伝え、仲間を作ることに取り組んだそうです。
そんなときに巡り会ったのが、アジャイル開発の古典的名著『XPエクストリーム・プログラミング入門―ソフトウェア開発の究極の手法(ケント・ベック著/2000年12月)』でした。
「アジャイル開発をやりたかったわけじゃないんです。ただ、この本に書かれていることが、自分の考えをうまく表現していたんです。」
彼は、社内システムをアジャイルで開発する取り組みに挑戦したそうです。そんな経験を経て、このやりかたが、ビジネスとしてお客様のシステム開発にも適用できるとの確信を持つようになりました。
「残念ながら、会社としては、魅力的なビジネスには、映らなかったようですね。」
こんな取り組みを重ねながら、“倉貫”の名前は知られるようになり、志を共にできる仲間も増えてゆきました。そして、今の会社を立ち上げたそうです。
「営業は、一切やったことはありません。でも、今は、お客様にお待ち頂いている状態です。」
だったら、もっと人を雇えばいいのではと、訊ねてみました。
「私たちの仕事は、お客様の事業の成長や成功に貢献し、お客様にハッピーになってもらうことです。お客様が、ハッピーになって、私たちもハッピーになれるんです。」
プログラム・コードを書くことではなく、お客様の成功に貢献することが、自分達の仕事だと考える彼らは、事業に責任を持つ人と会って実現したいゴールは何かを徹底的に議論するそうです。会社の規模など関係ありません。事業プランやビジネスモデルにまで踏み込んでどうするかを、一緒に考えてゆくこともあります。事業に貢献できるシステムだけを作る。余計なものは作らない。知恵を振り絞らなくてはなりません。エンジニアとしての力量が試されます。
「企業に顧問弁護士や税理士がいるように、お客様の経営や事業の成功のために、ITの専門家として継続的に関わってゆきます。予め仕様が決まったシステムを作るのではなく、お客様の事業の成長をお客様と一緒に考え、対策を積み重ねてゆきます。」
「納品のない受託開発」とは、そんな仕事だと教えてくれました。
なるほど、お客様の経営や業務に意見を延べ、ITにも精通し、プログラムもかける、そんなスキルの持ち主など、簡単に集められるものではありません。
「ギルドという制度があります。ここで私たちと一緒に仕事ができる仲間を集め、増やしてゆこうと思っています。」
しかし、その応募資格を見ると、実にハードルが高く、容易にクリアできるものではありません。ホームページには、次のようなことが書かれています。
- ギルドに参加するために必要なスキル
- 技術スキル
- Ruby on Railsウェブアプリケーションの開発
- Heroku,AWSらクラウドでのインフラ設計と運用
- jQuery,Sass,Hamlなどのフロントエンド技術
- githubを活用したコラボレーションができること
- 顧問スキル
- 顧客の問題を把握して提案できるコンサルティング
- 顧客の目前でソフトウェアの画面設計ができること
- 新規事業のような正解のない問題に対する取り組み
- 顧客にあわせて柔軟な対応をするホスピタリティー
- 管理スキル
- 仕事量や時間についてセルフマネジメントできること
- 顧客や関係者と良いコミュニケーションができること
- 顧客や仲間とのチームワークを築くことができること
- プロジェクト遂行上のトラブルへの対処ができること
- 技術スキル
「私たちの求めている仲間は、とてもハイレベルな人たちです。それでも、ギルドに参加したい。そういう志を持つ人を求めています。簡単なことではありませんが、こういうことがでなければ、この仕事は務まりません。ここに掲げた募集資格は、そんな人たちの覚悟を確かめる踏み絵みたいなものかもしれませんね。」
プロサッカーチームの選手を求めているそうです。それぞれに得意はあっても、どんな仕事でも確実にこなすことができる。そんなプロ選手達が、チームを組み、協力するからこそ、お客様の事業を成功させることに貢献できるのです。
「結果を出せて、チームに迷惑をかけないこと。それができるのであれば、何処で仕事をしても構いません。会社に出てくる必要もありません。リモートでできるならそれで十分です。働く人たちの幸せを考えれば、自然とそうなったと言った方が良いかもしれません。そのための仕組み作りにも取り組んで来ました。」
次のチャレンジを訊ねると、こんな答えが返ってきました。
「いつでも何処でも働けて、結果を出せる。そのための仕組みはできました。つまり時間と場所の壁は突破できました。次は、人数の壁を突破することです。」
現在、20人ほどの仲間が、一緒に働いているそうです。この人数を増やしてゆきたいとのこと。
「最大の課題は、ひとりひとりが、まわりへの関心を持ち続けられるようにすることです。仲間としてお互いを理解し、気遣い、助け合える関係を維持することです。少人数ならこれまでのやりかたで何とかなりますが、人数が増えれば、難しくなります。この壁を越えることが、次のチャレンジです。」
毎朝、5分間の「社長ラジオ」という音声ファイルを社員に配信しているそうです。その時々に感じたことや会社のビジョン、方向性を語っているそうです。そこには、それを聞いた人たちのコメントがどんどん書き込まれてゆきます。
「明日は、このオフィスでキャンプファイヤ合宿をする予定です。まあ、室内ですから本物の火を使うわけではありませんが、ランプを見つめながら、お互いの気持ちや考えを伝え合える時間にするつもりです。」
お互いが、真に仲間であることを実感できなければ、助け合うことなどできません。そのためにどんなことができるのかを考え、実践し、積み上げてゆく。彼の取り組みは、まさに、アジャイル開発そのものに見えました。
お客様の事業を成功させるために、何をすべきでしょうか。ひとりひとりが考え、仲間とともに実行し、結果を出す。そうやって、お客様さえも仲間に巻き込んでゆく。「納品のない受託開発」とは、そんな取り組みなのかもしれません。
【最新版】最新のITトレンドとビジネス戦略【2015年7月版】
「最新のITトレンドとビジネス戦略を最新版に更新しました。
テクノロジー編【2015年7月版】(292ページ)
*新規ページを18ページを追加し、全292ページとなりました。
*最新の解説文を25ページ追加した。
・新たにERPの章を設け、18ページのプレゼンテーションを追加
・IoTおよびITインフラ(仮想化とSDI)に関するプレゼンテーションを一部改訂し、解説文を追加
・アナリティクスに関するプレゼンテーションを改訂し、解説文を追加
新入社員研修でご採用頂いています
「情報と処理の基礎は教えているが、クラウドやIoT、
ビッグデータは教えていません。」
そんなことで新人達が現場で戸惑いませんか?
平易な解説文と講義に使えるパワーポイントをセットにしてご利用
「【図解】コレ1枚で分かる最新ITトレンド」に掲載されている100枚を越える図表は、ロイヤリティ・フリーのパワーポイントでダウンロードできます。自分の勉強のため、提案書や勉強会の素材として、ご使用下さい。
目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン