「オフショアを使えば利益が出せるなんて、甘く考えない方が良いですよ。」
ミャンマーにオフショア開発拠点を構える日本企業、Myanmar DCR社の現地責任者である小林氏からこんな話を伺いました。
「この国でITに関わる高等教育をうけた人材は限られています。そういう人材を求めているのは、日系のオフショア開発会社だけではありません。民政化以降、国内のシステム開発需要も高まりつつあり、地元企業も人材を求めています。」
東南アジア諸国の経済発展は、急速に進んでいます。昨年訪問したベトナムでも、そして、先日訪問したミャンマーでも、その現実を目の当たりにしました。その結果として、地元でのIT需要も急速に高まっています。
しかし、日本のIT企業は、相変わらず安い労働力としてしか地元を見ていません。そのため、はじめから安い単金で仕事を求めてくると言います。しかし、地元需要の高まりと共に、賃金は上昇しています。ミャンマーの場合、2011年の民政化以降、賃金は、倍以上に跳ね上がっているそうです。そのため、オフショア開発では利益を出せないと撤退してゆく日本企業も出始めているそうです。また、ITについては、地元企業のほうが、より高い金額で仕事ができるケースも増えてきているそうです。そんな需要があるにもかかわらず、日本国内での需要が逼迫する中、日本で人材が確保ができず、低い利益率のままでオフショア開発の稼働率を高い状態に維持しなければなりません。利益が出ないのも当然ことです。
ミャンマー最大のIT企業MIT(Myanmar Information Technology)社に訪問しました。この会社も以前は、日本企業のオフショア開発需要への期待もあったようです。しかし、内需の拡大と共に国内需要で十分にまかなえるようになったいま、会話の中に、その熱意を感じることはありませんでした。
考えて見れば当然のことで、日本のオフショア開発では、高い要求品質、日本語への対応が求められます。一方で、曖昧な要求仕様、そして安い単金ですから、割に合わないと考えるのは当然のことかもしれません。昨年伺ったベトナムの地元システム開発会社では、「意志決定に時間が掛かりすぎて、効率が悪い」ことを理由に、日本企業とは付き合わないという話も聞きました。
「日本の都合に合わせたオフショア開発」とは、言い過ぎかもしれませんが、地元の価値を高めることに貢献できなければ、その国で受け入れられなくなるでしょう。確かに地元の雇用には貢献しています。また、人材の育成にも貢献しているでしょう。しかし、末永く根付くビジネスをどのように育てるかの視点を欠いたままの取り組みは、その国での存在意義を失うことになるのは仕方のないことかもしれません。
結局は、日本の企業が、現地に会社を設立し、新卒者を一から日本流に育ててオフショア開発に対応するしかない訳です。経済発展に伴う内需の拡大と賃金の上昇、一方で、安い労働力としての期待が対立する中で、どうやって人材の流失を食い止めるかが、大きな課題となっているようでした。
果たして、このようなやり方がいつまで続くのでしょうか。付加価値を生み出せない日本のSI事業者にとっての競争力は、単金の安さしかありません。そのため、かつては中国に労働単価の安い人材を求めました。しかし、中国の賃金上昇で、より賃金の安いベトナムへと人材を求めました。そして、そこでも賃金が上がり、より低賃金のミャンマーへと人材を求めているというのが実態ではないでしょうか。このような焼き畑農業のようなオフショア開発が、いつまでも続くようには思えません。
昨年訪問したベトナムでも、今回訪問したミャンマーでも、ITに国境はありません。使うテクノロジーもミャンマーだから古いものを使っている訳ではありません。ミャンマー訪問の初日伺ったkernellix社は、まだ設立して1年にも満たない会社ですが、オーストラリアやシンガポールで、米国グローバル企業でITセキュリティの仕事に長年携わってきた37歳のエンジニアが、帰国して起業した会社です。自国の経済発展と共に、このような海外からの帰国者も増えているとのことでした。
また、モバイル通信の普及はめざましく、PCは持っていなくてもスマートフォンを持っているのが当たり前となっています。そのため、地元では、モバイルを前提としたシステム開発需要が、拡大しているとのことでした。
このような環境の中で、優秀な人材も育ちつつあります。そういう人たちを安く使うのではなく、相応の賃金で採用し、技術開発やサービス開発を任せれば、優れた仕事をしてくれるはずです。モチベーションも高まり、人も育つはずです。
「日本で決められた仕様や要求をこなすだけのオフショア開発しかしていなかったのですが、最近は、地元の仕事もやるようになりました。そのため、エンジニアが、お客様と直接、仕様を詰めたり交渉したりと、上流から任されるようになり、彼らの成長に役立っています。」
オフショア開発だけではなく、積極的に地元企業のシステム開発にも取り組んでいるAcroquest Myanmar Technology社の現地責任者、寺田氏からこんな話を伺いました。
やりがいを生みだし、自発的な成長のサイクルを作ることは、人材育成の基本です。特に、人材が、唯一の経営資源であるシステム開発会社にとって、最も優先して取り組むべきことであることは言うまでもありません。
安い労働力の供給源としてではなく、優れた人材の供給源として、オフショア拠点を考える時、焼き畑農業のジレンマから解放されるのかもしれません。
そのためには、日本国内での人月積算ビジネスのあり方も根本的に見直すべきことは言うまでもありません。むしろ、積極的にオフショアで優秀な人材を集め、ビジネス・モデル変革の起点とする道もあるのではないでしょうか。例えば、高い品質と成果が求められるサービス・ビジネスでの開発や保守、あるいは、ラボのような技術開発の拠点として、彼等の才能を活かすことがふさわしいかもしれません。
我が国は、2015年から2020年にかけて、生産年齢人口(15歳〜64歳)が、341万人減少し、全人口も250万人減少します。また、平均年齢は、46.0歳から47.0歳へと上昇します。若者人口の減少は避けられません。このような状況の中で、工数を増やすことを前提とした成長モデルがなりたたなくなることは、火を見るより明らかです。ビジネスとしての付加価値を高め、労働生産性を高めていかなければ、成長できない時代へと向かっているのです。
一方で、ミャンマーの平均年齢は、26歳、人口は、5000万人で増加傾向にあります。こういう国の優秀な人材を確保し、成長の原動力として考えてゆくべきかもしれません。
だからといって、賃金だけで優秀な人材があつまるわけではありません。やり甲斐や成長の喜びもまた、人材を集めつなぎ止める企業としての魅力になるはずです。
「盛和塾の教えを人材育成に活かしています。」
Arise Myanmar社の甲斐氏にそんな話を聞きました。盛和塾とは、京セラの社長であった稲盛和夫氏から、「人生哲学」と「経営哲学」を学ぼうと1983年に立ち上がった自主勉強会です。
「日本流の仕事についての価値観や倫理観は、ミャンマーの人にも十分通じると思います。育てた人材が流出してゆくことは、この国では仕方のないことですが、それをやっていなければ、もっと人材は流出していたかもしれませんね。」
企業として、地元に根ざしてゆくためには、地元の人たちに成長の機会を与え続け、企業としての魅力を発信し続けることです。これは、何も海外だけのことではありません。
昨年のベトナム、そして、今年のミャンマーと、アジアの発展を目の当たりにしてきました。確かに、交通や通信のインフラは脆弱で、法律も未整備、雑然とした町並みは、日本人の美意識からは遅れていると写るでしょう。しかし、それは「いつか来た道」です。我が国もそこから大きな発展を遂げてきました。その経験を謙虚に反省し、そこから学んだことを共に分かち合うことで、共に成長する。そのためのシナリオを描いてこそ、アジアは、自らの成長の原動力になるのだろうと思います。
【最新版】最新のITトレンドとビジネス戦略【2015年4月版】
ITのトレンドとビジネス戦略について、集大成したプレゼンテーションの最新版をリリースしました。
テクノロジー編(265ページ)
・「歴史から振り返るITのトレンド」のチャートと解説を追加しました。
・IoTとビッグデータについて、内容を見做し、ストーリーの変更とチャートの追加・変更を行いました。
– IoTとビジネスとの関係について、新しいチャートを追加しました。
– コレ1枚で分かるIoTとビッグデータを新しいチャートに差し替えました。
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– インダストリー4.0のセクションを追加し、「コレ1枚で分かるインダストリー4.0」のチャートと解説を追加しました。
・スマートマシンについて、内容を見做し、ストーリーの変更とチャートの追加・変更を行いました。
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– 「人工知能研究の歴史」を新規に作りました。
– 統計的アプローチとディープラーニングの比較について、新しくチャートを追加しました。
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– 事例動画へのリンクを追加しました。
ビジネス戦略編(55ページ)
・「工数喪失:人月積算の歴史」について、新しいチャートを追加しました。
・「ポストSIビジネスの選択」と「ポストSIの戦略」についての書き直すと共に、解説文をノートに追加しました。
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目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン