先週は、競合にも勝てる魅力的な製品やサービスは何かを明らかにする取り組みを紹介しました。今週は、これに続く、仮説の検証と新規ビジネスの起ち上げについて解説します。
4.仮説を検証する
以上のような検討を重ね、競合にも勝てる魅力的な製品やサービスが明らかとなりました。しかし、この段階では、まだ仮説にすぎません。ならば、それが事実かどうかをユーザーに対して検証する必要があります。
検証には、「最小で最高のプロトタイプ」を使います。汎用性を求めず、個別的、具体的なユーザーを絞り込み、彼らに最高の満足を提供できるであろう「現物」を作り、それを使って検証します。
資料を使ってプレゼンテーションし、アンケートに答えていだいたり、インタビューさせていただいたりでは、ユーザーの本当の評価は得られません。体験し、実感し、その価値に共感を持たなければ本当の評価は得られないのです。
また、対象となるユーザーを広く捉えてしまうと、いろいろな機能を実装しなければなりません。そのために時間もコストも掛かってしまいます。それよりも「現物」を手早く作り、絞り込んだユーザーに使ってもらい実感に基づくフィードバックをもらった方が賢明です。そして、そのフィードバックを元に完成度を上げてゆきます。このサイクルを繰り返して、さらに完成度を高めとゆくといいでしょう。
5.橋頭堡を築く
ここからは、具体的なイメージを持っていだくために、クラウドでサービス・ビジネスを展開することを想定して、考えてゆくことにします。
プロトタイプでの検証を踏まえ、限られたユーザーを対象とした「本当に使われ、利用者に実感として価値を享受できるもの」に絞り込んで、それだけを作り、サービスを提供します。まずはそこでのナンバーワンをめざすことです。それを橋頭堡に「本当に使われ、ビジネス価値を実感してもらえる」機能を順次追加拡張し、利用者のロイヤリティを高め、その裾野を拡げてゆくことが現実的なアプローチとなるでしょう。
「たぶんこんな機能が必要だろう」を洗い出し、全てを満たそうとするのではなく、使う人を絞り込み、その人に「本当に使われ、ビジネス価値を実感してもらえる」ことだけに機能を絞り込みます。そして、スピードと変更への柔軟性を武器に、そのお客様の満足を追求します。
最初から全員に65点のサービスを提供するのではなく、まずは一人に95点を提供するという価値観を持つことが大切です。そのためには、「全部作らない、その代わりに変更への柔軟性を担保し、品質を徹底して作り込む」やり方が必要となります。これはアジャイル開発の思想です。
また、「変更すれば即座に本番に反映し、ユーザーにメリットを直ちに提供する」開発と運用の関係、すなわちDevOpsの実践が必要となる。
サービス・ビジネスは、本番運用と開発が、同時並行で行われます。この両者を分けることは、できません。だから、このようなやり方を前提としなければ、ならないのです。
どんなサービスを提供するかといった視点だけではなく、どのように開発し運用するかも含めた全体に取り組まなければ、「新しいサービス」を実現することはできません。
6.仕組みで売る
例え機能が少なくても、従来のように営業がひとつひとつ交渉して、案件をまとめあげるやり方では、このような限られた顧客層では、ビジネスのボリュームを稼げません。しかし、クラウドは、「売り方」の考え方をも変える仕組みでもあります。
対象とするユーザーは限られているとは言え、クラウドを考えた場合の母集団が膨大になります。そのため対象となるお客様の絶対数は桁違いに大きくなります。そう考えれば、例え対象ユーザーが限られていてもビジネスのボリュームを稼ぐことができます。
SI事業者が頼りにしていたPMや営業が個別に売ってくることを前提にするのではなく、マーケティングを重視し、「仕組みで売る」という視点が必要となります。当然、開発者は、「売り方」をも想定したシステムの実装が必要となるでしょう。
7.KPIの達成を求めない
新規事業は、何を成功と見做すかを予め決めることができません。「これはいける」とはじめても、うまくいかないことばかりです。特にそれがこれまでに無い新しいビジネス・モデルであるとすればなおさらです。
SI事業者が、これまで手がけてきたビジネスの多くは、既存の業務の改善でした。コストを何割削減する、あるいは、できなかったことをできるようにするというように、前提となる基準が有るのでKPI(Key Performance Indicators: 重要業績評価指標)を設定できました。しかし、これまでにない新しいビジネスはそれがないのでKPIを定めることはできません。試行錯誤を繰り返し、KPIそのものを探しながらすすめてゆくようなものです。
「3年後に10億円のビジネスをめざして欲しい。」
新規事業プロジェクトへの社長のこのような言葉は、現場の発想を硬直化させてしまいかねません。多くの発想がこの基準でフィルタリングされ排除されてしまいます。それよりも、「将来、数千億円のビジネスになり、今の仕事を全て辞めてもいいくらいなビジネスをめざして欲しい。」と言って欲しいものです。大きな視野に立ち、世の中を変えることをめざして何かを取り組めば、例え失敗しても、規模はそこそこであっても次につながる新しい何かが残るはずです。
ビジネスにとっての成功は、売上や利益の向上です。しかし、新規事業は、時にしてそれを実現するために、まず新しい市場やユーザーの価値観を創造しなければなりません。それは何かを見つけることと「3年後に10億円のビジネス」をはじめから結びつけて考えることには、無理があるのです。「何か」を見つけ、収益が上がる見通しが立てば、「3年後に10億円のビジネス」というKPIは、機能するでしょう。
「新規事業プロジェクト」というボランティア・サークルで、「3年後に10億円のビジネス」という目標を与えられ、本業を抱えたメンバーが、リソースも与えられずに自助努力を強いられるだけでは、成果をあげることはできません。これまでの自分達の常識とは大きく違うという自覚を持ち、覚悟して取りかからなければ、100年を費やしても何も生まれないでしょう。ならば、「新規事業」などというお題目は取り下げ、お客様のご要望に愚直に応え、粛々と生き残る道を模索することが賢明です。その方が、現場に余計な負担を強いることもなく、精神衛生上健全です。しかし、それでは「まずい」と考えるのであるのなら、これら3つの「常識を変える」覚悟が必要です。
ここに紹介したやり方が、唯一というつもりはありません。ただ、不確実性も高く、ビジネス・スピードも速い時代に新規事業を成功に導くためには、次の3点だけは心がけ、プロジェクトを進めてゆくことをお勧めします。
- 事業計画書は書かない。不確実な未来など予測できないから。
- ユーザーを絞り込む。本当に使ってくれる顧客を増やし、確実に売上や利益を積み上げたいから。
- とにかくやってみる。状況やニーズは時々刻々と変化するから。
【最新版】最新のITトレンドとビジネス戦略【2015年4月版】
ITのトレンドとビジネス戦略について、集大成したプレゼンテーションの最新版をリリースしました。
*テクノロジー編(265ページ)
・「歴史から振り返るITのトレンド」のチャートと解説を追加しました。
・IoTとビッグデータについて、内容を見做し、ストーリーの変更とチャートの追加・変更を行いました。
– IoTとビジネスとの関係について、新しいチャートを追加しました。
– コレ1枚で分かるIoTとビッグデータを新しいチャートに差し替えました。
– 「産業構造審議会商務流通情報分科会 情報経済小委員会 中間取りまとめ ~CPSによるデータ駆動型社会の到来を見据えた変革~」の発表内容を追加しました。
– インダストリー4.0のセクションを追加し、「コレ1枚で分かるインダストリー4.0」のチャートと解説を追加しました。
・スマートマシンについて、内容を見做し、ストーリーの変更とチャートの追加・変更を行いました。
– 「人工知能とは」の資料を新しく書き換えました。
– 「人工知能研究の歴史」を新規に作りました。
– 統計的アプローチとディープラーニングの比較について、新しくチャートを追加しました。
– ディプラーニングの事例を追加しました。
– 事例動画へのリンクを追加しました。
*ビジネス戦略編(55ページ)
・「工数喪失:人月積算の歴史」について、新しいチャートを追加しました。
・「ポストSIビジネスの選択」と「ポストSIの戦略」についての書き直すと共に、解説文をノートに追加しました。
・「新たなビジネス領域へのチャレンジ」について、新しいチャートと解説を追加しました。
新入社員研修でご採用頂いています
「情報と処理の基礎は教えているが、クラウドやIoT、
ビッグデータは教えていません。」
そんなことで新人達が現場で戸惑いませんか?
平易な解説文と講義に使えるパワーポイントをセットにしてご利用
「【図解】コレ1枚で分かる最新ITトレンド」に掲載されている100枚を越える図表は、ロイヤリティ・フリーのパワーポイントでダウンロードできます。自分の勉強のため、提案書や勉強会の素材として、ご使用下さい。
目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン