今の時代を何十年か先に振り返ると、ITの「カンブリア大爆発」があったと評されているかも知れません。「カンブリア大爆発」とは、およそ5億5000万年前に、それまで数十数種しかなかった生物が突如1万種にも爆発的に増加した出来事です。様々な形態を持った生物が生まれ、食うか食われるかの競争と淘汰を繰り返しながら生物の多様性が育まれ、生態系築かれてゆきました。今の時代は、そんな時代の延長線上にあると言われています。
ITの「カンブリア大爆発」とは、スマートマシンの進化が引き金となるでしょう。そこには、これまでのテクノロジーの脈略からは、大きく逸脱した新しい常識が生まれつつあります。そして、このテクノロジーの延長線上に、これまでとは明らかに異なるIT活用の新たな可能性がどんどんと生まれてくるでしょう。そして、競争と淘汰を繰り返し、ITの新たなエコシステム=生態系を形成してゆくことになるのだろうと思っています。
スマートマシンについての簡単な解説は、こちらに整理しましたので、併せてご覧下さい。
>> スマートマシンをSFだと思っているうちに、SIや運用業務は駆逐されてしまうかも知れません
スマートマシンの進化を支える4つのテクノロジー
このスマートマシンの実現を4つのテクノロジーが支え、その進化の後押しをしています。
ビッグデータ:インターネットの普及と共に、膨大なデジタル・データが日々生みだされています。スマートフォン、ソーシャルメディア、そしてIoTの普及は、日常生活や社会活動などの現実世界のデジタル・データ化を加速し、拡大させています。こうして集められたデータは、現実世界の様々な事象がデータとして取り込まれたもので、スマートマシンの知識源となっています。
ハードウェア:ハードウェアの高性能化とコスト低下は、膨大かつ急激に増え続けるビッグデータを格納する受け皿として、さらにこれを分析する巨大な計算資源として使われています。スマートマシンの脳とも言えるものです。また、センサーやコンピュータの小型・高性能・低価格化は、ウェアラブルやロボット、IoTを普及させる要件となります。それらが、現実世界のデータを収集する感覚器として、また、作られた情報を利用する手段になります。
アルゴリズム:機械学習やディープラーニング、神経言語プログラミングなどのアルゴリズム(計算の手法や手順)が開発され、状況の分析や判断、最適なルールの生成や解釈など、自律的行動に必要な知識を生成します。スマートマシンの賢さを支えています。
ネットワーク:高速・大容量のネットワークは、膨大なデータを収拾し、その結果をフィートバックするために欠かせません。さらに近接通信技術により、ウェアラブルとモバイル、あるいは、センサーが埋め込まれたモノが低消費電力で効率よくつながる仕組みができあがりました。スマートマシンの神経系といえるものです。
スマートマシンが実現しようとしている2つのこと
これら4つのテクノロジーに支えられたスマートマシンはふたつのことを実現しようとしています。ひとつは、「人間にしかできなかったこと」を代替し効率化すること、もうひとつは、「人間にはできなかったこと」を可能にし、人間の能力を拡張することです。
前者は「置換」と「支援」です。自律走行車がトラックやタクシーの運転手を、作業用ロボットが工場の作業員を、自律型無人機が兵士を置き換えてくれます。また、音声を認識し、言葉の意味や文脈を解釈し、検索やプログラム操作を代替してくれるでしょう。
後者は、「助言」と「強化」です。人間には一生かかっても読み尽くせない膨大な医療文献や法律文書を読み、これを分析し、最適な解釈や判断基準を示してくれます。また、膨大な物質の組合せを検証し、遺伝子やタンパク質の合成メカニズムを探り、これまでに無かった薬や個人に最適化されたカスタムメイドの薬を創り出してくれるでしょう。また、スマートマシンによって創られた新しい知識や解釈、最適化されたルールが、機械を制御し自ら状況を判断して行動する自律化を実現します。
人間の能力不足を補い強化もしてくれます。例えば、障害者や高齢者の筋力や認知能力を補完し日常生活を快適なものに、言葉の異なる人同士がリアルタイム対話し、意思疎通が図れる世界が実現するでしょう。
その一方で、「人間にしかできない」と考えられていた仕事を、低コストでミスなく効率よくこなせる機械の出現は、これまでの職業をなくしてしまうかも知れません。しかし、これらをうまく使いこなし、「人間にはできなかったこと」ができるようになれば、人々の生活はますます豊かで快適になるでしょう。まさに人間の知恵が求められています。
このような、スマートマシンの進化は、人間と機械との関係や役割分担を大きく変えてゆくことになるでしょう。当然、ビジネスの有り様をも大きく変えることになるはずです。
ITビジネスがどのように代わってゆくか
ITビジネスに目を向ければ、プログラミングや運用と言った仕事は、スマートマシンにいち早く置き換えられる領域と考えられます。
既に、写真や文章をアップロードすると、その内容を判断して、Webサイトを自動で構築してくれるサービスも登場しています。ユーザは、コードを書く必要もなければ、1枚1枚画像を加工していく必要もありません。目的を設定して、画像とテキストをアップロードするだけで人工知能がそれらを分析して、ほんの数分で、素晴らしいサイトを生み出してくれるのだそうです。
また、Facebookでは、1人で2万4千台のサーバーを運用管理しているそうです。一般的には、1人で数十台管理できる程度であることを考えると、定型的な業務を確実にこなす自動化の域を超えて、状況を学習して対応を判断し実行できる自律的な運用管理の仕組みが実現しているのでしょう。
さらに、クラウドの進化は、オンプレミスでなくてはならない必然性を失わせつつあります。むしろ、運用管理の柔軟性やガバナンス/セキュリティから、積極的にクラウドへ基幹業務を移す動きも増えています。この動きは、オンプレミスの存在やハイブリッド・クラウドを不良資産化するでしょう。オンプレミスとパブリックが共存することは、ガバナンスの担保を難しくすることは明らかだからです。この点については、以下の記事をご覧下さい。
このような事実に照らし合わせて考えれば、システム構築やアプリケーションの開発、運用管理の要員派遣と言った業務が、伸び代を与えられていないのです。この分野での事業拡大は、不可能であって、むしろここに頼っていては、衰退を待つしかないことは火を見るより明らかです。
一方で、新しいサービスの開発は、これまでに無く多くの制約から解放されます。構築や運用に関わる人的、金銭的負担を気にする必要はなくなり、サービスをいろいろと試してみることが容易になりました。まさに、冒頭申し上げたカンブリア大爆発を引き起こす環境が整いつつあると言えるでしょう。
これは単に「基礎的負担」が低減するだけではなく、人工知能やビッグデータなどの新しいテクノロジーをサービスとして利用でき、それらを自らのサービスにも容易に組み込むことができるようになります。IBMによるWatsonサービスや、Microsoftによる機械学習のクラウド・サービスは、そんな先駆けとも言えるでしょう。
>> IBM、SoftLayerクラウドで人工知能「Watson」ベースのビッグデータ分析サービスを発表。基盤としてPowerSystemを投入
>> Microsoft、機械学習のクラウド・サービス「Azure ML」を発表
これまでに無いアプリケーションやサービスの実現が可能になるかも知れません。まさに、ビジネスやサービスの多様性を生みだし、新しい生態系を生みだす基盤となるはずです。
SI事業者の多くが、次の収益基盤を求め模索されています。しかし、話を聞くと既存の事業資産を前提に何ができるかを模索している場合がほとんどで、このような視点はなかなかありません。これが行き詰まることは、先週のブログでもご紹介の通りです。
今の特需は、レガシーな資産の延長線上で生まれています。これは、最後のお祭りになるかも知れません。テクノロジーの方向を見定め、新しい常識に視点を移して考える必要があるでしょう。
こちらのビデオは、そんな新しい常識をわかりやすく紹介しています。とても参考になります。
>>Future with Cognitive Computing -コグニティブ・コンピューティングと拓く未来-
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