「いま、新規事業の検討を進めています。こういうことをやろうと思っているんですよ。」
彼は、自分達のこれからやろうとしている新しいサービスの機能が整然と並べられたチャートを見せてくれました。
「水道哲学」をご存知でしょうか。
「産業人の使命は貧乏の克服である。・・・略・・・水道の水の如く、物資を無尽蔵にたらしめ、無代に等しい価格で提供する事にある。それによって、人生に幸福を齎し、この世に極楽楽土を建設する事が出来るのである。松下電器の真使命も亦その点に在る」
松下幸之助が、1932年5月5日に語った言葉です。「信頼性が高く、多機能な商品を、安く大量に」提供することの大切さを説いた言葉です。しかし、もはや「貧乏の克服」は時代のニーズではありません。しかし、未だ、「信頼性が高く、多機能な商品を、安く大量に」提供することを価値と考え、新しいビジネスを考えようとしているように思えました。
また、自分達ができることがサービスの機能として並べられているようにも見えました。ほんとうにそういう機能をお客様は必要とされているのでしょうか。
新規事業開発でも、お客様への提案でも、自分達にできることをこれでもかと盛り込んで、どうでしょうかと言われても、お客様からしてみれば、「余計なお世話」になってしまいます。
新規事業を失敗させるアプローチ
自分達に「できること」を起点にものごとを考える「シーズ起点」の発想では、新規事業は、うまくゆきません。
これまでの事業資産、つまり、手持ちのスキルや人材、製品やサービスで「これを使って、何か新しいことはできないか」と考えてしまうと、発想は制約されてしまいます。
なによりも、お客様が見えなくなってしまいます。そうなると、お客様がこちらの都合の良いように反応し、行動をしてくれることを前提に戦略が描かれてゆきます。
また、経営者を納得させるために統計や調査資料を都合の良いように解釈して資料をまとめ上げようとします。
そんなことがうまく行くはずがないことは言うまでもありませんが、意外とこの構図に填まってしまっている新規事業プロジェクトは少なくありません。
「シーズ起点」とは、このような技術があるから、コレを使ってビジネスを創る発想
- こちらに都合の良い市場の創造
- こちらの思惑通りに行動してくれる顧客の創造
- 経営者が納得してくれる事業戦略の創造
新規事業を成功に導くアプローチ
お客様のために「すべきこと」は何かを追求し、そこから始める「ニーズ起点」で発想することが基本です。
まずは、お客様が誰かを決めることです。「どこどこの会社の何々部門にいる誰々さん」というように、「あの人」という個人の顔が思い浮かべられるくらいに具体化することです。
次は、その人が何をして欲しいのか、どういうことに困っているのか、こんなことができたら良いなぁ、と考えているかを考えてみることです。分からなければ、その人に聞いてみる、あるいは、仕事の現場に立ち会ってみるのもいいでしょう。そして、「あるべき姿」を考えることです。
「あるべき姿」とは、要望をそのまま受け入れることではありません。現場の発想にはないけれども、こうなったらいいんじゃないかを考えることです。これこそが、新規事業の核となるものです。
これが見えれば、次は自分達は、「何をすべきか」を考えることです。自分達に「できること」を考えてはいけません。自分達にできるかできないかに関わりなく、お客様の必要としていることを実現するには、「何をすべきか」を徹底して追求することです。ただし、沢山ではなく、大切な「これだけ」を厳選することです。「これだけ」に絞り込み、いち早くサービスを起ち上げ、その完成度を高めてゆくことが大切です。
米Concur社をご存知でしょうか。先日、SAPが、9千億円を支払って買収した会社です。この会社は、経費精算に特化したクラウドサービスを提供する会社です。クラウドの時代になり、サービスは、それぞれの分野で最高のものを組合せ活用しようという時代になりました。まさに、そういう成功事例の1つと言えるのではないでしょうか。
「これだけ」が、はっきりすれば、実現する手段を考えます。ここでも、自分達に「できること」にこだわらないことです。誰がやるかは後で考えることにして、どのようにして実現するかを考えることです。この時、注意しなければならないことは、ITで全てを解決しようとしないことです。ITを使うよりも、もっと良い方法があるかも知れません。
ある大手SI事業者が提供されている文書管理のクラウドサービスは、文書入力の入力代行業務も併せて提供し、お客様から高い評価を得ています。
つまり、大切なことは、手段を提供することではなく、お客様の必要を満たすことなのです。
そして、最後に誰がやるか、どうやるかを決めることです。自分達でできること、できないことを明らかにし、できないことをどのように実現しようかと考えることです。提携、買収、あるいは新規開発などの選択肢を駆使して、どうするかを追求することです。
このできないことを明確にすることが大切です。何でも自分達でまかなってしまおうとすれば、お客様のして欲しいことと乖離してしまうかも知れません。できなければ、どうするかを棚上げしないことです。
このアプローチは、新規事業に限られるものではありません。提案活動や事業計画を考える上でも役に立つ発想だと思います。
今、新規事業開発やお客様への提案に行き詰まっている方は、この手順に照らし合わせて見直してみてはどうでしょうか。何か発見があるかも知れません。
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