「今年の新人、頑張ってはいるけど、戦力にするには、まだまだ時間が掛かるなぁ。それと、メンタルが弱いとは聞いていたけど、やはりそういう気がしますよ。」
ベテラン営業かたからこんな話を伺いました。しかし、本当にそうなのでしょうか。私には、育成の仕方に問題があるのではと、思えてなりません。
社会人になって半年たった新人達は、いまOJT(On the Job Training)と称する期間の真っ最中です。業務の実践を通じて、体験的に育成することを目的としたOJTですが、その目的や方法も曖昧なままに、「配属」という形式と、上司や育成担当の先輩に丸投げするだけになっていることも珍しくありません。
育成を任された人も、任せる側も、「経験したことだからできるはず」という暗黙の了解の元に、具体な方法や達成基準も曖昧に、育成担当者それぞれの経験知と自助努力に任せています。そんなことになってはいないでしょうか。これでは、苦労して優秀な人材を採用しても、育つか育たないは「運まかせ」になりかねません。
研修は、「育成」のきっかけを与える機会です。配属された組織が、「育成」の現場であることは言うまでもありません。ならば、その最初の機会となるOJTは、任された人の力量や自助努力にゆだねるなどというリスクは犯すべきではないのです。育成する人にしっかりとした目的意識、方法論、達成基準を与え、プロの仕事として育成を担う自覚を与えなくてはなりません。しかし、なかなかそうなっていないのも現実です。
ではどうすれば良いかを簡単に語り尽くせることはできませんが、フォワード・チェイニング、ランダム・チェイニング、バックワード・チェイニングという3つの「OJTアプローチ」を知ることで、改善の糸口が見えてくることがあります。
フォワード・チェイニング
「失敗を乗り越えて成功を強いる」アプローチです。顧客開拓、案件獲得といったベテランでも難しい営業活動の初期段階から、入金確認といった簡単な仕事へと、最初から一貫してやらせる方法です。この方法は、次のような状況を生みだします。
- 実践経験がないので、アポ取りに苦労する。
- 仮にアポが取れても商品や会社についての知識がなく、自信を持って話ができない。
- 高いハードルの前に、失敗を繰り返し、成功体験をなかなか得ることができず、長期間にわたり挫折感を味わい続けることになる。
このような「苦労」を強いることで、いつかは、ゴールに到達したいという希望を持たせつつ、何度も失敗を体験させ、これを克服させる手法とも言えるでしょう。
ランダム・チェイニング
「先輩のアシスタント。成長は本人任せる」アプローチです。計画性を持たず、先輩営業の仕事に合わせ、先輩の仕事の一部を任す形で、ランダムにいろいろな仕事を体験させる方法です。この方法は、次のような状況を生みだします。
- 広く浅く全体を見渡すことができる。
- ひとつのプロセスを徹底することがなく、習熟することは難しい。達成感を得にくい。
- 一貫した仕事の流れを経験していないにもかかわらず、OJTが終わるとフォワード・チェイニングを強いられる。これが大きな負担を強いる。
このやり方は、実質的に「放置放任」と変わりません。そのため成長は、本人任せ、運任せとなりかねないリスクをはらんでいます。
バックワード・チェイニング
「成功を積み重ね、成長を実感させる」アプローチです。まずは、ハードルの低い検収や入金などを任せ、成功を体験させます。それから徐々にハードルの高い前半へと仕事の範囲を広げてゆく方法です。この方法は、次のような状況を生みだします。
- 検収や入金は、成功の結果である。その仕事を任せることで、成果と成功の喜びを共有する。
- 徐々により難しい仕事を経験させ、成功の体験を蓄積しつつ、一貫した仕事の流れを経験させる。
- 常にひとつひとつのプロセスを完結させ「やり抜いた」という充実感を持たせ続ける。
このやり方は、目的を達成できたという成功体験をかせね、成長を実感させながら能力を高めることができます。
ランダム・チェイニングは、論外してもフォワード・チェイニングもバックワード・チェイニングもともに有効な手法と言えるでしょう。また、ベテランであればあるほど、「前者で自分は育てられた」との意識が有り、それがOJTの「常識」と考える傾向があるようです。
しかし、それが今の新人達にそのまま通用するかどうかは、慎重に考えた方が良いかもしれません。人によっては、バックワード・チェイニングで丁寧に体験を積ませる方が、良い場合もあるかも知れません。
前半は、バックワード・チェイニングを適用し、ある程度自信をつけてきたらフォワード・チェイニングでやってみるのもひとつの方法かも知れません。
育成を任されている方は、改めて自分のアプローチを冷静に見つめてみてはどうでしょう。ランダム・チェイニングなら、それは先ず改めるべきです。そして、その本人の人となりを考え、あるいは、時期を考えながら、意識して最適なアプローチを選択してはどうでしょうか。
育成もまた戦略があってこそ、成果を確実なものにできることを自覚しておくべきでしょう。
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