「ITの知識こそ、事業資産ですよ」
100名ほどの社員を抱えるシステムベンダーの社長からこんな話を伺ったことがあります。
「人月の商売は、お客様になんの成果も保証しません。提供する側のリスク・テイクの手段にすぎません。“これだけ時間をかけたからその分払って下さい”、こんな商売、いつまでも続くはずなんかありませんよ。」
この会社では、「請負」しかしないのだそうです。成果責任を自ら追うからこそ、自覚も生まれ、良い仕事ができる、技術が磨かれるというお考えだそうです。
もちろん、枯れた技術を使いこなすスキルも立派な事業資産です。しかし、そこにだけ頼っていれば、例え良い仕事ができたとしても、当たり前としか評価されません。また、いつも競争にさらされ、収益も限られてしまいます。
工数を増やすことが事業目的化してしまえば、現場の意志とは裏腹に、現場を疲弊させてまでも遅くまで働かせることに歯止めが掛かりません。
「こんな商売、いつまでも続くはずなんかありませんよ」と考えてしまうのは、当然です。
ITの知識を事業資産とし、競争力の源泉とするためには、次代への見通しを持ち、先んじて試し、お客様を巻き込んでゆく力が必要です。そのためには、今目の前で起きているITの潮流を理解できることが、前提となるでしょう。
私たちの仕事は、お客様の3年後や5年後に責任を持つ仕事です。ITとは、そういうスパンでお客様に使われ続けるものです。そこに自信と責任を持って提案できる力こそ、お客様を巻き込んでゆく、力の源泉ではないでしょうか。
では、その潮流が、いまどういう方向に動いているのでしょうか。一枚のチャートで整理してみたいと思います。
感覚器としての「スマート・デバイス」
私たちの日常は、様々な活動や環境の中にあります。それらをデータとして捉える仕掛けが「スマート・デバイス」です。
PCやタブレットに加え、モノに組み込まれたセンサー、スマートフォン、ウェアラブルといわれる身体に密着して利用するデバイスなどが、私たちの健康状態や行動、社会活動などをデータとして捉えます。FacebookやLINEなどのソーシャル・メディアも会話の内容(流行や話題、製品やサービスの評判、地域と話題との関係など)や人のつながり(ソーシャル・グラフ)といった情報をもたらすデータ生成の仕組みと捉えることができます。
言葉を換えれば、スマート・デバイスは、「現実世界をデータ化」する大きな仕掛けになろうとしているのです。
神経としての「インターネット」
インターネットは、スマート・デバイスが捉えたデータをクラウドに受け渡す役割と、クラウドで処理された結果を現実世界にフィードバックする神経としての役割をはたします。
ここには様々なテクノロジーのトレンドが見て取れますが、ウェアラブルとスマートフォン、あるいは、センサーと周辺機器とを繋ぐ「近接通信技術」、広域に広がるデバイスをワイヤレスで繋ぐ「モバイル通信技術」、大量に生みだされるスマート・デバイスからのデータを効率よく転送する「大容量高速通信技術」が、今後注目されることになるでしょう。
大脳としての「クラウド」
スマート・デバイスから生みだされるデータは、インターネットを介して、クラウドに送り込まれます。そのデータ量は、膨大で、また急速な勢いで増えてゆくと言われています。このような特徴を持つデータのことを「ビック・データ」と呼びます。
特にモノに埋め込まれるセンサーは、通信機能を介してインターネットにつながるのですが、その数は2020年には500億個にも達すると言われ、現実世界から生みだされるデータの大きな部分を占めることになるだろうと言われています。このような仕組みは「モノのインターネット(IoT : Internet of things)」と呼ばれています。
ビッグ・データとして、蓄積されるデータは、日常のオフィス業務で使う表形式で整理できるようなものは少なく、その大半は、センサーの計測データ、会話の音声、形式が定まらない文書、画像や動画などです。前者は構造化データと呼ばれています。後者は、構造が定まらないことから「非構造化データ」と呼ばれています。
ビッグ・データとして集まった現実世界のデータは、分析(アナリティクス)されなければ、活かされることはありません。しかし、そのデータは多種多様であり、しかも膨大です。そのため、従来型の統計解析だけでは、とても分析することができません。そこで、「人工知能(AI : Artificial Intelligence)」に注目が集まっています。
「人工知能」は、従来ルール・ベース方式と言われる人間の作った規則に基づいて処理されるものが主流でした。しかし、昨今は、コンピューターが自律的にルールや判断基準を作り出す機械学習方式が主流となろうとしています。その背景には、コンピューターやストレージなどのハードウェアの劇的なコスト低下と高性能化があります。加えて、大規模なデータを効率よく処理するためのソフトウエア技術も開発されたことがあります。これにより、人間が手作業で組み込んだルールに基づいて処理するのではなく、コンピューターが自身でビッグ・データを学習し、そこに内在するノウハウ、知見を見つけ出し、整理すると共に、その処理のためのルールを自分で作り出し最適化してゆき、自律的に性能を高めてゆくことが可能になりました。
例えば、チェスや将棋のチャンピオンと勝負して彼らを破ったり、米国の人気クイズ番組でチャンピオンになったりと、コンピューターが、高度な人間の知的な活動や判断に近づきつつあるのも、この機械学習の成果です。
人工知能で処理された結果は、機器の制御、ユーザーへの健康アドバイス、商品やサービスの推奨などとして、スマート・デバイスにフィードバックされます。またその人の趣味嗜好に合わせた最適な広告・宣伝を提供することにも使われるでしょう。また、手足となる「ロボット」の制御や新たな知識の供給のためにも利用されます。
さらに、このような処理は、クラウド上の他のサービスと連携し、新たな価値やサービスを生みだしてゆくことになります。
手足としての「ロボット」
自動走行車、産業用ロボット、介護ロボット、生活支援ロボット、輸送ロボットなど、様々なロボットが私たちの日常で使われるようになるでしょう。それらは、インターネットとつながり様々な知識や制御をうけ、自らの行動を状況に応じて最適化してゆきます。また、それら自らに組み込まれたセンサーによって、自分自身で情報を収集することやスマート・デバイスと連携しながら、人や周辺環境とデータをやりとりし、人工知能によって自らを自律的に制御す仕組みを備えています。
このようなロボットは、人間の手足となり、不便を解消したり、効率を上げたりといったメリットを与えてくれる一方で、これまで人間にしかできなかった労働を奪うのではないかと懸念する声も上がっています。
このチャートでもおわかりの通り、様々なテクノロジーは、それ自身が独立して存在しているわけではありません。それぞれに連携しながら役割を果たしていることがおわかり頂けると思います。私たちは、この一連のつながりを理解して、始めて、テクノロジーの価値を理解することができるのです。
ここに紹介したことは、必ずしも全てが現時点で実現しているとは限りません。しかし、近い将来きっと実現するものです。
移りゆく時代の流れの中で、これまでの「枯れた技術」がそのまま通用することはありません。だからこそ、その対処を考えなくてはならないのです。
今の特需は、長続きしないでしょう。需要は一気に落ち込むかもしれません。そのとき、どうすれば良いかを今から考えておくことは必要なことです。
前提として理解しておくべきは、「今の特需」は「枯れた技術」の延長にしかないことです。そこに優秀な人材が時間を割いている間に、テクノロジーは大きく進化し、気がつけば、スキル・ギャップが巨大な山脈となってそびえ立っているかも知れません。
追い込まれてからその山を登るか、今から少しずつ登りはじめるか。その選択を迫られています。経営者が選択できないのなら、自分で決めるしかありません。そうしなければ、手遅れになるかもしれませんよ。
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