「営業スキルの強化が目的なんでしょうか、それとも売上の増大が目的なんでしょうか?」
営業研修を実施したいというご相談を頂き、その打ち合わせの席で、このような質問をさせて頂きました。
売上の伸び悩み、新規顧客が開拓できないこと、案件の種類や幅が広がらないこと、それは営業スキルの不足であり、営業スキルを強化することで解決されるというお考えでした。
ところで、ここでいう「営業スキル」とは、プレゼンテーションやコミュニケーション、交渉術や説得術、情報収集能力や分析力など実に多岐にわたる技能です。これらを鍛え、その技能を向上させたいというのです。
しかし、研修に与えられる期間は、わずか1日。それで、これらを網羅した研修を提供することは容易なことではありません。ただ、できないわけではありません。私が行っている「営業スキル研修」では、営業に必要な9つのスキルを1日で紹介しています。しかし、それは、知識としては学べても、定着させ実践に役立てるには、相当のハードルがあります。既に、一定以上の営業スキルを持ち、実践されている方が、自分のやっていることを冷静に振り返り、自分の課題を見つけ、改善の糸口を掴むという目的であれば、十分に役立ちますが、そういうスキルがそもそも「ない」あるいは、「不十分」という人たちに対して、このような研修は、ひとときのエンターティメントでしかなく、忙しい仕事からしばし逃れる口実以外の何ものでもありません。まあ、研修というものに、そのような側面があることは、間違えではありませんが・・・(笑)。
いずれにしろ、1日という限られた時間の中で、「営業スキルを強化する」ことは絶望的です。しかし、本業を抱える営業マンが長時間研修に費やすこともできません。冒頭の質問は、こんな問題意識からさせて頂いたものでした。つまり、「売上が増えれば、営業スキルは強化されなくてもいいですか」を確かめたかったのです。お答えは、「売上の増大」でした。
売上の増大のために「営業スキル」が大切な要素であるということを否定するものではありません。しかし、スキルは売上を上げるという目的を実現するための手段なのです。そして、このスキルというものは、残念ながら短期間の「研修」で、強化できるものではありません。時間をかけ、経験を通じて、「育成」するものなのです。そういう「育成」の環境が既にあり、本人も知識としてのスキルを求めているような状況にあっては、先ほどご紹介した「営業スキル研修」は、一定の効果を期待できるでしょう。それがない状況にあっては、ほとんど効果はありません。いや、時間の無駄です。では、どうすれば良いかです。
「守破離」という言葉があります。千利休が残した茶道の心得です。
規矩作法 守り尽くして 破るとも 離るるとても 本ぞ忘るな
「守」とは先人の築き上げた「型」を守ることです。そこには、先人が苦労して成し遂げた経験が、織り込まれています。まずは、これを徹底してまねることで、先人の知恵を自分のものとして会得するのです。
この「型」を徹底的に守り通した上で、これをあえて破ってみる。自分ならではの工夫で、試してみる段階、それを「破」といいます。本来を知りつつ、自分なりにそのやり方をあえて破ることで、自分ならではの「型」を求める段階と言えるでしょう。
そして、それを他にも伝えられるほどに洗練させることができたならば、そこには、今までにはない「型」が生まれてくるのです。この段階を「離」といいます。
営業活動でいう「型」とは、自社の営業活動を行うための標準的な手順を洗い出し、体系的に整理整頓したものです。受注を成功させるための行動を時間軸に沿って体系的に整理したものです。これを「営業活動プロセス」と言います。これを作り、これを使うきっかけと動機付けを与えることがまずは大切であると考えています。
まずは、「型にはめる」わけですが、これは本人の個性を無視するということではありません。先人の知恵を、あるいは、成功している人のノウハウを体験的に会得しようという試みです。それを徹してゆけば、自ずと「破」の時期を迎え、個性を活かす機会が生まれてくるのです。
しかし、「型=営業活動プロセス」を「守」らせる上で大きな壁があります。それは、「素直さ」です。新入社員や女性は、この壁は低いのですが、経験を積まれたベテランの男性は、変なプライドが邪魔をしてしまい、なかなか型を守れません。もちろん、成功体験もあり、自分なりの型を持っていらっしゃるのは分かるのですが、自分の「経験」というバイアスから抜け出せず、客観的に自分をみようとはしないのです。「そんなことは分かっている。経験済みですよ。」とお考えなのかもしれませんが、それが、改善や成長の妨げになっていることは否めません。
解決策は、ここにあります。つまり、個々のスキルを学ぶことではなく、「営業活動プロセス」を理解していだき、それを「守」ることの意味や価値を理解させ、意固地な自分の意識の壁が、どれほど成長の妨げになっているかを気付かせることです。このような、研修であれば、1日でもできますし、一定の効果は期待できます。もちろん、守り続ける現場での努力は必要ですが、強い動機付けときっかけを提供することならできるでしょう。
「営業活動プロセス」という型に従うことで、自分の営業スタイルを冷静に振り返ることができます。それが、できるようになれば、自ずと、自分の強みや弱点を分析的に見極めることができます。そうすれば、スキルを学ぼうという意欲も生まれ、様々な研修や書籍を通じて、自発的にスキル強化に取り組もうという意識を育ててゆくことができると思っています。
その全課程を研修でカバーできれば、理想です。しかし、現実には、予算と時間の問題があります。ならば、いずれかに割り切り、腹を決めるしかありません。
手段である「営業スキル」をいくら積み上げても、「売上の増大」には、直接は結びつきません。むしろ、売上を増大させるための「営業活動プロセス」を実践する方法と動機付けを与えることを優先してはどうでしょう。そういう「守」の取り組みをすすめることで、自らの不足を知ることができれば、自発的に「営業スキル」学ぼうという意欲が生まれ、そのタイミングこそ、「営業スキル研修」のベストタイミングなのです。ビジネス上の即効性という点においてもこの方法はとても有効です。
いろいろな考え方はあるでしょう。私の考えは、少々偏った考え方なのかもしれません。しかし、ビジネスという日常の慌ただしさ、忙しさの中で、全てをフォローできる研修は不可能です。優先順位を決めなければなりません。そう考えると、「型を守る研修」=「営業活動プロセス研修」は、有効な選択肢ではないかと考えています。
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