「そろそろ中期事業計画をたてなくちゃならないんですが、もう削るだけ削ったので、これ以上の経費削減は無理。しかし、期待されちゃってるんですよね。」
売上高3000億円、一部上場企業の情報システム部門長から、こんな話を伺いました。
情報システムに関わる予算は年間20億円程度、社員は20人にも満たない状況です。今年度も二人部員を配置転換で削減したのだそうです。「もうこれ以上むりですよ」と現場から悲鳴が上がっています。
一方、社内ではイノベーションが叫ばれ、業務プロセスの改革、新規事業の開発が奨励されています。さらに、グローバル・ビジネスの拡大は、優先課題として取り組まれています。どれを取り上げてもITは不可欠、現場もまたそれを求めているのですが、情報システム予算には漬物石がのせられたままです。
本来であれば、ITの価値を正しく理解し、こういう現場のITニーズを受け止め経営戦略や事業戦略に結びつけるのがCIOの役割です。しかし、この会社では、財務・管理部門を統括する役員がこれを兼任されているのですが、彼にはテクノロジーについての興味はなく、むしろ、情報システム部門の予算抑制を自身の成果と考えられているようにも見えます。
社長も、ITはCIOの責任、情報システム部門に任せているといった状況ですから、ITの戦略的な活用など進む環境にありません。
この会社の情報システム部門は、そういう状況の中でも本当によくやっています。基幹業務の処理は、メインフレームでほぼ完結しており、本業に関わるデータや人事情報、経理や財務に関わる情報は見事に一元管理されています。電子メールやワークフローも、グローバルを見据えてクラウド・サービスへの意向を進めています。BIツールも整備し、帳票の作成は、現場でもできるように環境を整えつつあります。社内PCのデリバリーやヘルプデスクはアウトソーシングして、現場に対するサービスレベルを維持しています。
少ない人数で、限られた予算で、よくがんばっていると思います。ただ、彼らがやっていることは、事務処理や管理業務の効率や維持に関わることへの貢献にとどまっています。このような業務領域にとどまっている限り、経営者からみれば、少しでもコスト削減をはかりたいと考えるのは、当然のことといえるでしょう。
「社長ダッシュ・ボードを作りませんか。」
昨年度末に、情報システム部門長に提案させていただきました。
「経営者にITへの理解がないからと嘆いてみても、何の解決にはなりません。むしろ積極的にITの価値を見せて、理解してもらう努力をすべきです。せっかくBIツールを導入しているのですから、帳票作成のツールにとどまらせるのではなく、戦略ツールとして認めてもらうようにしてみてはどうでしょう。」
「社長は何を知りたいのでしょうか。どんなデータが必要ですか。それをこちらの想像で作って見せて、ご意見をいただければいいと思いますよ。100点満点を最初から目指すのではなく、ダメだしをいただくためのたたき台を作ればいいんです。そして、こうやってほしいとご要望をいだければいいじゃないですか。」
これまで、こちらの情報システム部門は、現場のニーズを聞いて仕様を作り、現場との確認をとりながらシステムを開発してきました。見せるというのは要望通りのシステムの完成形を見せることでした。それとは全く違う発想でシステムを作り、しかも、社長にぶつけてみようというのですから、最初は抵抗がありました。それでも今は、その気になって、いろいろと取り組まれています。
グローバルへの拠点拡大、M&Aによる事業領域の拡大も経営戦略の柱となっています。そんな状況の中で、グループ・ポータルやシェアード・サービスの話題が上がっているのだそうです。このチャンスを利用しない手はありません。ガバナンスの維持に貢献すべく、その構築を情報システム部門から積極的に持ちかけてみてはどうかと提案してみました。
「ガバナンスとは、命令や指示などをうけなくても、普段通りの業務をこなしていれば、業務や経営の目的が達成されるビジネス・プロセスを構築し、それを運用すること」です。ITでそのようなビジネス・プロセスをしっかりと作り込むことで、地域や組織を超えたガバナンスの構築に貢献できるはずです(ガバナンスについてはこちらの記事をご参照ください。)
「そうできたらそうしたいですよ。でも、今の体制や予算では無理ですよ。」
「だから提案して、人も予算も増やしてくれと言えばいいんです。」
「情報システム部門がもっと社内に対してマーケティングしなきゃいけない。自分達の価値ではなく、ITの価値をユーザーに分かってもらう努力が必要です。社長ダッシュ・ボード、グループ・ポータル、シェアード・サービスは、現場に見えるシステムです。自分達の存在価値を“見せる化”してゆくチャンスじゃないですか。」
これまで受け身でやってくることが多かった情報システム部門のやり方を大きく変えるチャンスとうけとめ、積極的に仕掛けてゆく情報システム部門に変えてゆきましょうと発破をかけています。
ただ、課題はドキュメンテーションとプレゼンテーション。それを説明する台詞やキーワードがなかなか出てこないとのことなので、そのあたりを少しお手伝いさせていただくことにしました。冒頭の中期事業計画も、そういう視点で作ってゆきましょうと話をしています。
情報システム部門の存在意義が問われていることは確かです。多くのサービスがクラウドで利用できるようになりました。開発や運用に関わる負担も益々軽減されようとしています。そういう中で、情報システムが果たすべき役割は、経営戦略の貢献でありガバナンスの担保へと大きく変わらなければならなりません。それ以外は、コストであり、少しでも削減したいという経営のプレッシャーは避けられず、ここに留まる限り現場は疲弊してゆくことになるでしょう。
求められるがままにシステムを作り、できあがったシステムをうまく使ってもらうことではなく、経営戦略や事業戦略から必要とするシステムを提案し、作って欲しいという現場のニーズを引き出すことへの転換が必要です。これは、マーケティング活動であり、営業活動です。
SI営業として、こういうニーズに応えてゆくというのはどうでしょうか。こういうことをお手伝いできれば、自ずとビジネス・チャンスは生まれます。
情報システム部門の役割も変わらなければなりません。ならば、SI営業の役割が変わるのも当然です。今時代は、あきらかにそういう方向に動き始めています。
Facebookページを開設しています。ご意見など頂ければ幸いです。
「クラウド・コンピューティング講座」 を開催します!
本講座は、
【基礎編】これまでのITを利用する上での常識と比較しながらクラウド時代
【実戦編】「基礎編」で学んだ知識を元に、実際のクラウド・
よろしければ、ご検討ください。研修の詳細やお申し込みは、こちらから。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/ LiBRA
「仮想化とSDx」について解説文を掲載しました。
「ITトレンド」を解説するブログを始めました!毎日更新しています。
書籍を出版しました
Kindle版 「システムインテグレーション崩壊」
〜これからSIerはどう生き残ればいいか?
- 国内の需要は先行き不透明。
- 案件の規模は縮小の一途。
- 単価が下落するばかり。
- クラウドの登場で迫られるビジネスモデルの変革。
工数で見積もりする一方で,納期と完成の責任を負わされるシステムインテグレーションの限界がかつてないほど叫ばれる今,システムインテグレーターはこれからどのように変わっていくべきか?そんなテーマで考えてみました。