「2010年には8000万人以上の生産年齢人口は、2030年に6700万人ほどになり、「生産年齢人口率」は63.8%(2010年)から58.1%(2030年)に下がる。つまり、人口の減少以上に、生産年齢人口が大幅に減るのである。(国内人口推移が、2030年の「働く」にどのような影響を及ぼすか)」
直近の5年間(2015〜2020)をみても、7682万人から7341万人、341万人の生産年齢人口が減少するようです。この数字は、同時期の総人口の減少が、250万人の減少であることを考えると、それを上回る勢いで、生産年齢人口の減少がすすむことになります(参照:内閣府・平成25年版 高齢社会白書)。
労働集約型の人月ビジネスの課題について、これまでに何度も取り上げていますが、人口の推移から見ても、労働力を集めることができなくなる時代を向かえようとする中、この「人数×単金×期間」の収益構造で成長を維持することはムリだと言うことが分かります。
しかし、現実には、この収益構造を変えようという意欲は、必ずしも高くないようです。
4月18日に発表された、IPAの「IT人材白書2014」のプレスリリースに次のような記載がありました。
- ユーザー企業が今後新規/拡大を予定している事業(SaaSサービス、PaaSサービス、HaaS・IaaSサービス(開発・提供)、IDCサービス(ハウジング、ホスティング等))へのIT企業の関心は低く、また、IT企業が今後新規/拡大を予定している事業(開発、運用、SI)については、ユーザー企業の関心が低い。
- 「従来型」の受託開発以外の事業実施を行っていない(検討していない)IT企業は、受託開発以外の事業の必要性を感じていない。
- IT企業における従来型受託開発以外の事業を実施する人材育成については、検討を行っていない。
ビジネスが将来にわたって成長し、その成長の傾斜が維持されるためには、今必要とされることに対処することだけでは困難です。その先のニーズに応え、備えるための取り組みが必要になるはずです。そして、それは、経営者の責任でもあるのです。
いま、IT業界は、プログラマーやSEの不足が深刻化しつつあります。それは、リーマンショックの煽りで、本来やるべき開発をこれまで控えてきたことへの反動であり、マイナンバーや大手銀行の勘定系システム構築に関わる大型案件の増加にあります。
それとても、数年で需要の尽きる話です。その後は、人余りになり、収益を圧迫し、短期的には、SI事業者に大きな負担を強いることになるかもしれません。しかし、中長期的に考えれば、生産年齢人口の減少が、この余剰人口を吸収してくれる可能性も否定できません。しかし、それは、同時に、人月ビジネスの存続をますます難しくすることになります。
いずれにしても、これまでの収益モデルは成り立たなくなることを覚悟しなければなりません。これは決してIT業界だけの問題ではなく、飲食業や建設業のような労働集約型の産業は、同様の課題を抱えているのです。
しかし、こういう課題に目を向ければ、そこに解決すべきテーマがあるとも言えます。そこにソリューションを提供できれば、ビジネスになるはずです。
「人間の手が導かなくとも杼(ひ)が布地を織り上げ、ばちが竪琴をかき鳴らすなら、親方はもう職人がいらなくなるだろう。」
米MITの研究者達が著した『機械との競争』という本の冒頭に書かれていたアリストテレスの言葉です。この本には次のようなことが述べられています。
「経済の成長が雇用の拡大を生みだしていない。それはITやロボットなどのテクノロジーが、人の雇用を吸収してしまうからだ。」
移民を受け入れ、人口の増加している米国は、それに見合う雇用を創出できないでいるというのです。これは、米国にあっては、大きな社会問題であり、ネガティブに捉えるのは、当然のことかもしれません。
しかし、日本という国に視点をあわせれば、これは大きな経済成長のチャンスなのかもしれません。
つまり、我が国では、ロボットやAIなど、人の労働力を機械に置き換えることへの需要は、今後確実に増えてくるはずです。プログラミングやシステム運用もまた、徹底した効率化や自動化をすすめなければ、需要を満たせなくなるかもしれません。つまり、「機械との競争」ならぬ、「機械との共創」が、日本の成長を支えてくれることになるはずです。
それは、同時に人間のやるべき役割を変えてゆくことを求められるでしょう。そして、ビジネスのあり方も変わり、収益構造も変えてゆかなければなりません。そして、仕事についての価値観をも変えてゆくことが求められるでしょう。
「そんなことができる人間なんか、うちにはいないよ」とおっしゃる方もいらっしゃるでしょう。しかし、そんな人は、どこにもいないのです。だからこそ、チャンスではないのでしようか。
COBOL全盛だった時代、JavaやWeb開発ができる人材など、いなかったと同じように、それを追いかけてこそ、人は育つのではないかと思うのです。
自分達が見えているものなんて、もはや先が見えています。だからこそ、見えていないものに目をこらし、見えるようにならなければ、そのときが来たときに何も見えないままで、右往左往するだけではないのでしょうか。
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今週のエントリー ・・・
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「システムインテグレーション崩壊」
これからSIerはどう生き残ればいいか?
*6月5日出版しました。
- 国内の需要は先行き不透明。
- 案件の規模は縮小の一途。
- 単価が下落するばかり。
- クラウドの登場で迫られるビジネスモデルの変革。
工数で見積もりする一方で,納期と完成の責任を負わされるシステムインテグレーションの限界がかつてないほど叫ばれる今,システムインテグレーターはこれからどのように変わっていくべきか?そんなテーマで考えてみました。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/ LiBRA
「仮想化とSDx」の解説文書を追加しました。ご活用下さい。