案件規模の縮小や開発期間の短縮など、SIビジネスの様相が変わり始めていると感かじられている方は、少なくないように思います。その理由をたどれば、ユーザー企業のビジネス環境の変化に行き着くことになります。
様々な理由の根源をたどれば、そのひとつとして「グローバル化」をあげることができます。「国と国を隔てている様々な障壁が低くなる、あるいはなくなること」と定義することができます。
資本や産業、モノやヒトなどのカタチあるものばかりではなく、価値観や知識もまたネットを介して世界へと敷衍してゆきます。また、少子高齢化がすすむ我が国に於いて、産業を維持し、経済を成長させていくためには、これまでのように国内に留まるだけでは難しく、グローバルな事業基盤の再配置が必要となっています。
ビジネス環境/ユーザー・ニーズ
グローバル化が進むビジネス環境は、多様な価値観と習慣への対応を余儀なくされます。政治や経済の動きも、自国の常識が通用しません。また、そういう異なる社会がこれまでに無く濃密につながり、大きな経済のメカニズムを内包するようになりました。このような変化は、不確実性を増大させる要因でもあります。
この不確実性に対応するためには、変化を許容し、この変化に迅速に対応しなければなりません。言葉を換えれば、ビジネス・スピードの加速が求められることになります。
また、多様な民族や習慣、価値観の中で、事業基盤を維持し、経営理念や事業方針を徹底させ、ブランドを維持しなくてはなりません。同じ国内であれば伝わることも、国を跨げば様々な壁に突き当たります。この状況に対処するためには、標準化されビジネス・プロセスを構築し、これを維持する取り組みが必要となります。ガバナンスの強化は、従来にも増して重要なものとなってきます。
情報システムに求められる要件
以上のようなビジネス環境の変化に対応するためには、ユーザーのニーズに即応した開発ができなくてはなりません。
また、開発してもビジネス・スピードが加速する中、要件の変更は避けられません。そもそも、あらかじめ全ての要件が決められない開発案件も少なくないでしょう。こういう「変更」を前提とした開発のあり方が求められています。
投資対効果の見える化もこれまでにも増して求められるようになります。つまり、ITに関わる意志決定に、ユーザー部門が大きな影響力を行使するようになり、投資対効果、すなわち成果への対価が強く求められるようになるのです。人月積算ようなの成果と連動させにくい予算の執行は難しくなることが予想されます。
その背景には、「ITの戦略的価値の増大」と「テクノロジーの隠蔽」があります。前者は、経営や事業の実行にITがこれまでに無く大きな役割を担うようになりつつあること、そして、ITを競争力の源泉として積極的に活かしてゆこうというユーザーの強い意欲の拡大です。ユーザーは自らの収益拡大をITに託すわけですから、その発言力も自ずと強いものになってゆくでしょう。
また後者は、テクノロジーの進化が、テクノロジーそのものの難しさを隠蔽することで、ITの難しいことが分からなくてもそれを利用でき、理解できるようになることです。
テクノロジーが難しいからこそ、情報システム部門やITベンダーは、その役割を担えてきたところもあるわけですが、そこが隠蔽されれば、ユーザーは、ビジネス・プロセスや業務要件に関わる要求をもっとストレートにITに求めることができるようになるでしょう。
収益に責任を持ち、それを強く意識する組織は、投資対効果を求めるのは当然です。人月積算という根拠がこれまでほどには使えなくなることを覚悟しなくてはなりません。
情報システムとしての対応手段
以上の要件を満たすために、情報システムは、とのような手段を使えば良いのでしょうか。
まずひとつは、クラウド・コンピューティングの利用でしょう。システム・インフラや開発、実行のプラットフォームの調達や変更に時間や手間がかかりません。また、本来は、時間と予算が許せば、丁寧にビジネス・プロセスを整理し、個別にシステムをくみ上げたいところですが、そういうことは許されません。多少の不便は我慢してでもSaaSを利用して時間を買うという手段も、選択肢も加えなくてはならなくなるでしょう。
また、独自のアプリケーションを開発するにしても、アジャイル開発や高速開発ツールの利用で生産性を上げ、変更への即応性も高めようということになります。また、DevOpsの考え方を組織運営に取り入れ、変更に即応できる体制の確立も必要となるでしょう。
また、これまでの内製と外注の役割分担も見直すことになるでしょう。経営や事業の戦略と直結し、変更・追加要求も多いアプリケーションの開発は、内製でおこない、即応性を高めてゆく必要があります。
一方、インフラやプラットフォーム、およびその運用は、コストパフォーマンスを徹底して追求されます。その手段として、パブリック・クラウドやマネージド・サービスなどを利用するケースが増えてゆくはずです。
今更ながら、人月積算の収益モデルは、厳しい現実に直面することになりそうです。確かに短期的に見れば、みずほの統合やマイナンバーなど、需要拡大の要因はありますが、ビジネス環境のこのような変化は同時に進行するでしょう。そうなれば、需要の山が崩れたとき、世の中は、新しいパラダイムへと一気に流れてゆき、従来型のビジネスは厳しい時代に追い込まれます。
ITビジネスに限った話ではありませんが、多くの場合、デマンドはユーザーの側にあります。こちらがこれでビジネスをしたいと願っても、ユーザーにそのニーズがなければ、ビジネスのチャンスは生まれません。これまでうまくいっていたからという思い込みも、ユーザー・ニーズの変化があれば、変わらざるを得ないのです。しかし、現実には、ユーザーとベンダーに大きな意識の乖離があることは以前に書かせて頂いた通りです。
このシナリオは、ひとつの仮説に過ぎません。ただ、ユーザーのビジネス環境からビジネスの可能性につなげてみることは、戦略を考える上で押さえておかなければならない重要な視点と言えるでしょう。
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今週のエントリー ・・・
- IoTプラットフォームの構造と新しいビジネスの可能性
- プライベートクラウドという過渡期の終焉
- クラウド普及の壁:SIerと情シスの“暗黙の”利害の一致
- Microsoft Azureの再販制度発表が迫るSIビジネスの変革
- データセンター・サービスとクラウドの関係
- クラウドでTCOが削減できる本当の理由
「システムインテグレーション崩壊」
〜これからSIerはどう生き残ればいいか?
- 国内の需要は先行き不透明。
- 案件の規模は縮小の一途。
- 単価が下落するばかり。
- クラウドの登場で迫られるビジネスモデルの変革。
工数で見積もりする一方で,納期と完成の責任を負わされるシステムインテグレーションの限界がかつてないほど叫ばれる今,システムインテグレーターはこれからどのように変わっていくべきか?そんなテーマで考えてみました。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/ LiBRA
「ITトレンドとクラウド・コンピューティング」を改訂しました。