「ソリューション・ビジネスとは、お客様にイノベーションを提供するビジネスです。」
先日、ある講演の席で、このような話をさせていだきました。
「技術革新」と訳されることの多いイノベーションですが、本来の意味をたどれば、「新結合」という言葉にたどり着きます。20世紀前半に活躍した経済学者シュンペーターの言葉ですが、彼は、産業革命を支えたイノベーションのひとつである「鉄道」を例えに、この意味について語っています。
「馬車を何台つなげても汽車にはならない」。
つまり、「鉄道」がもたらしたイノベーションとは、馬車の馬力をより強力な蒸気機関に置き換え多数の貨車や客車をつなぐという「新結合」がもたらしたものだという解釈です。
鉄道が生まれる40年前、既に蒸気機関は発明されていました。これに旧来からある馬車の “テクノロジー”を組み合わせたことで、汽車が生まれ鉄道というビジネスが生まれたのです。“新しい技術”=イノベーションではないと彼は言っているのです。
*このあたりの詳しい歴史的背景にご興味があれば、こちらの記事をご覧下さい。
往々にして、私たちは、イノベーションを「“新しい技術”による革新」と捉えがちです。しかし、本来の意味に立ち返れば、“新しい技術”そのものが不可欠なのではなく、「“新しい技術”も含め、既存の技術や仕事のやり方などの様々な要素を、これまでとは違う視点で捉え、新しい組合せにより変革を実現すること」と捉えるべきでしょう。
ITビジネスに置き換えて考えれば、「これまでの仕事のやり方を、より強力なITという蒸気機関に置き換えて、業務やビジネスの課題を解決するためのテクノロジーと業務プロセスの「新結合」を実現すること」が、イノベーションと言うことになります。こう考えてみると「ソリューション」が目指すもの、そのものではないでしょうか。
新しいテクノロジーそのものを生みだすことも「イノベーション」と言われます。最近話題の人工知能やコグニティブ・コンピューティング、量子コンピューターなど、かつては想像もつかなかったことが実現しようとしています。クラウドやモバイルもまた、そういうテクノロジー・イノベーションの成果と言えるでしょう。しかし、このようなテクノロジー・イノベーションを生みだすことは、容易なことではなく、誰にでもできることではありません。
一方、そこで生みだされた成果をも組み入れ、ビジネス・プロセスやビジネス・モデルの新結合、すなわち、ビジネス・イノベーションを生みだすことは、誰にでもチャンスがあります。
「JINS PC」をご存知の方は多いと思います。発売から2年で、販売累計本数300万本を突破したパソコン用メガネです。このビジネスの成功は、まさにビジネス・イノベーションにありました。
これまで、メガネの需要は、「目の悪い人」に限られていました。この常識を打ち破り、「目の健康な人」、すなわち「PCを使う全ての人」に、市場を拡げたのです。
必ずしも、最先端のテクノロジーが使われているわけではありません。しかし、既存の技術をうまく使い、新しい市場との「新結合」を実現するビジネス・イノベーションを生みだしたことが、この成功の理由と言えるでしょう。
ビジネス・イノベーションへの取り組みを怠ってはいないでしょうか。自らの新規事業のためだけではなく、お客様のビジネス・イノベーションをお手伝いすることにも、私たちは役割を果たしていかなければなりません。これこそが、「ソリューション・ビジネス」の目指すものだと思っています。
機器やソフトウエア・パッケージを提供しているだけでは、「ソリューション・ビジネス」とは言えません。お客様の仕事を深く考察し、自らの商材を既存の仕事の中に持ち込み、「新結合」をもたらすことで、新しい価値を生みだすことが、「ソリューション・ビジネス」のあるべき姿なのです。
innovationの語源を調べると15世紀のラテン語innovatioに行き着きます。inは「中へ」、novaは「新しい」、これらを組み合わせて、自らの内側に新しいものを取り込むという意味になるのだそうです。お客様に対して、その役割を果たすことができてこそ、私たちは、ソリューションを提供できたと言えるのです。
先日、ガートナージャパンが発表した「2014年上期国内IT投資動向」には次のようなことが書かれていました。
「2017年までの年平均成長率 (CAGR) は、1.1%になると予測しています。直近の景況感や見通しは改善傾向にあるものの、依然、事業環境は不透明であることから、予測期間にわたって、IT投資内容の選別が慎重に行われるとみており、CAGRは米国の3.1%、中国の8.4%を下回る見通しです。」
このような現実の中で、生き残りをかけた競争は避けられません。そして、その生死を分けるのは、お客様にイノベーションをもたらすことができる真のソリューションを提供できるか否かにかかってくるでしょう。
「自分達はお客様にイノベーションを提供できているだろうか。」
市場の先行きが不透明さを増す中、この言葉を真摯に問い続けてゆくことが、今までにも増して求められているように思います。
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「システムインテグレーション崩壊」
〜これからSIerはどう生き残ればいいか?
- 国内の需要は先行き不透明。
- 案件の規模は縮小の一途。
- 単価が下落するばかり。
- クラウドの登場で迫られるビジネスモデルの変革。
工数で見積もりする一方で,納期と完成の責任を負わされるシステムインテグレーションの限界がかつてないほど叫ばれる今,システムインテグレーターはこれからどのように変わっていくべきか?そんなテーマで考えてみました。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/ LiBRA
「ITトレンドとクラウド・コンピューティング」を改訂しました。
あわせて、本プレゼンテーションの解説書も掲載致しました。
目次 —
- クラウド・コンピューティングで変わるITの常識
- 「自家発電モデル」から「発電所モデル」へ
- クラウド・コンピューティングの価値
- クラウドが出現した歴史的背景
- 所有から使用へ
- TCOの削減の理由
- クラウドはシステム資源のECサイト
- クラウドのもたらすパラダイムシフト
- クラウドがもたらすイノベーション
- クラウド・コンピューティングとは
- クラウド・コンピューティングとITトレンドの関係
- クラウド・コンビューティングの起源とGoogleの定義
- クラウドの定義・NISTの定義
- サービス・モデル
- 配置モデル
- ハイブリッド・クラウド
- IaaS基盤
- オープン・クラウドの動向
- 5つの必須の特徴
- 仮想化基盤とIaaSの違い
- データセンター・サービスとクラウドの関係
- パブリック・クラウドとオンプレミス
- クラウドのふたつの視点
- クラウドで変わるITの常識
- Infrastructure as a Code
- クラウドの価値
- クラウド・コンピューティングの現実
- 「クラウドは使えない」という都市伝説
- クラウドに期待される価値・日米の違い
- クラウドの可能性と戦略的価値の新たなポジショニング