「“日本IBMの苦悩”とおっしゃいますが、私は“国内ベンダーの苦悩”の方が、より切実だと感じています。」
先週のブログに、ある製造業の情報システム部門長から、このような感想を頂きました。私も、その通りだと思っています。
昨今のAWSやGoogleのクラウド・サービス料金の値下げ競争でも分かるように、自社でIT資産を持つことの経済的合理性が成り立たないことに、多くの人たちが気付き始めています。セキュリティや既存システムの移行の手間など、懸念する声も聞かれますが、この圧倒的なコスト・パフォーマンスを考えれば、クラウドへの移行は、時間の問題です。高収益業企業を標榜するIBMのx86サーバー事業のLenovoへの売却は、そんな文脈を考えれば、絶妙なタイミングで行われたのではないでしょうか。
その一方で、IBMは、SoftLayerを23億ドルで買収し、さらに12億ドルを投資して、2015年度にはクラウド関連事業を70億ドルのビジネスに成長させる戦略を立てています。この金額には、SoftLayer以外のIaaSである、IBM Cloud Managed ServicesやハードウェアであるIBM PureSystems、関連するコンサルティングやソフトウエアも含まれていると考えられますが、実に用意周到にx86サーバー・ビジネスに代わる受け皿を用意しています。
また、SoftLayerだけを見ても、ベアメタル・サーバー、グローバルに配置されたデータセンター間の高速ネットワークを無料で使えること、加えて、PaaSサービスであるBlueMixを提供し、エンタープライズ向けのパブリック・クラウドおよび、ホステッド・プライベート・クラウドとして、AWSとの対抗軸を明確にしています。
果たして、これに対抗しうる国内事業者は存在しうるのでしょうか?
AWSがどれほど強力であっても、日本IBMほどの法人営業力、SE力は望めません。また、国内事業者がAWSを担いでも、AWSが事業を拡大するだけであり、自分達のビジネスにはなりません。自らがクラウド・サービスを提供するとしても、価格もさることながら、IBMやAWSのような積極的な投資に支えられたグローバル・サービスを提供することは容易なことではないでしょう。
日本IBMがおかれている問題は、この変化のスピード感に日本のユーザー企業が追従できず、そのタイムラグで当面のビジネスチャンスを逸する可能性があることです。しかし、それも時間の問題でしょう。いずれクラウドが常識になれば、そして、グローバルに対応できることが、サービス選定の要件として、ますますその重要性を持つようになるとき、期待に応えられる国内事業者は、どれほどいるのでしょうか。
ハイコンテクストな関係が業者選定の重要な基準になることは今後も変わらないでしょう。しかし、ユーザー企業の必要を満たすことができなければ、選定の土俵にも上がれなくなります。
だからといって、IBMやAWSと同じことをすれば良いということでもありません。ユーザー企業がエンジニアを抱え自前で行うことを前提とする米国企業と違い、SI事業者やベンダーに多くを頼り切っている我が国のユーザー企業が、AWSやSoftLayerなどのセルフ・サービス型クラウドを使いこなすことは簡単ではありません。その意味でも、日本の特殊事情に配慮した対抗軸は描けるはずです。
1964年4月7日、IBMはSystem/360を発表しました。メインフレームの誕生です。今年は、その50周年にあたります。その圧倒的な技術力は、当時の国産コンピューター・メーカーでは太刀打ちできず、我が国の大手企業や金融機関に、IBMが採用されてゆきました。
そんな状況の中で、1971年、通産省は国産メーカーを保護するために業界の再編成を促すべく、「電子計算機等開発促進費補助金制度」をつくり、IBM互換機の開発を支援しました。1975年に富士通のM190が初出荷され、その後日立との分担で小型から大型までIBM互換機が開発され、そのコスト・パフォーマンスの高さからIBMのシェアをどんどん侵食し、国産メーカーは生き残ることができたのです。しかし、それは国内に限られ、世界を見ればIBMが席巻していったことは、ご存知の通りです。
クラウドの登場は、当時の状況とよく似ています。しかし、そのスピードは、メインフレームの時代とは比べものにならないほどに高速化しています。これまでのITの常識を置き換えてゆくことに、それほどの時間がかかるとは思えません。しかし、言うまでもなく、かつてのような国策に頼ることなど望むべくもありませんから、生き残りをかけた事業展開は自らが担わなくてはなりません。
国内事業者も手をこまねいているわけではなく、数々の施策を打ち出しています。しかし、その多くは国内に目を向けたものです。また、グローバルな戦略もまた、IBMやAWSほどのドラスティックなメッセージは伝わってきません。
国内事業者は、この事態にどう対処しようとしているのでしょうか。日本の市場、そして日本のビジネス・スタイルに頼りすぎるあまり、変革に向けた施策を先送りすれば、いずれは深刻な事態に直面するでしょう。
技術力もあり、体力もある国内事業者に対抗策が打ち出せないはずはありません。それとも、一社単独では難しいとすれば、クラウドを軸とした業界再編が始まるのでしょうか。例えば、富士通とNTTコミュニケーションズが組めば、凄いことができそうな気もしますが、どうもそんなことにはなりそうにありません。かつて大きな存在感を示していた国内PC事業者の多くが、苦境に追い込まれたようなことが、再びおこるのでしょうか。
ITビジネスの変化は、ますますスピードを加速しています。グローバルを見据えたビジネス・デザインの必要性は、言うまでもありませんが、それ以上に決断スピードがこれからのビジネスの成否を左右することになるのでしょう。
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