「SFAを導入してはみたものの、営業の意識が低いので、ちゃんと入力してくれないんですよ。どうすれば、彼等の意識改革ができるでしょうか。」
*SFA (Sales Force Automation : 営業活動の進捗を管理し、効率的な営業活動を支援するシステム)
先日伺ったITベンダーの営業部門長さんからこんなご相談を頂きました。こちらに限らず、よく伺う話です。
「営業の意識が低いからSFAに正しく入力しない。だからSFAが使えない。」
私はこの思い込みがそもそも間違っていると思っています。営業の意識が低いのではなく、営業がSFAに入力することに負担を感じさせない仕組みを提供していない管理者の努力不足、あるいは、そういう仕組みを作ろうという意識の低さこそ、本質的な問題ではないかと考えています。そのような自らの努力不足を棚上げして、現場の意識の問題に責任転嫁しているように思えてなりません。
SFAは導入したけれど、その現実は必ずしも当初思い描いたようにはなっていないと嘆かれている方も少なくないようです。
本来ならば、案件状況に変化があれば、即座に入力して欲しいところです。しかし、現実には、月末まとめてインプットされることが多く、タイムリーに案件状況を把握することができません。
また、受注の見通しや確度は、営業担当者の主観に頼っており、人によって精度のばらつきが大きくなっています。
結局のところ、営業管理者は、営業担当者と個別に面談し、案件の状況を確認しています。そして、再び管理者の主観で見通しや確度をExcelで集計しています。そのExcelを営業担当者に配布し、この通りにSFAに入力するように指示しています。
高い費用をかけて導入したSFAが「月次集計報告システム」のためだけに使われているとしたら、なんとももったいない話です。なぜそんなことになるのかを、次のチャートにまとめてみました。
「営業担当者が、精度の高い営業活動状況を、タイムリーに入力すること」が前提で機能するSFAです。しかし、営業にとって、SFAへの入力は、管理者への報告作業であって、面倒な事務作業に過ぎません。また、順調なときはまだしも、進捗がない、うまくいっていないとなると、その言い訳をうまく表現しなければなりません。そのために多大な時間と精神的労力を強いられるわけですから、積極的に報告しようという気にはならないでしょう。そういう報告を受け取った管理者も、文学的表現を労した気の滅入る報告に目を通さなければなりません。
報告する側にモチベーションがなく、報告される側も正確な状況が把握できないでは、SFAは両者にとって「時間浪費機能付・精神的負担増幅装置」でしかありません。
そんなSFAも発祥の地である米国では、広く普及し活用されています。一方の日本ではいろいろと問題を抱えているSFA。この根底には、日米のビジネス文化の違いがあるのです。
米国の営業報酬は、基本的にはコミッション(成果報酬)です。商材やテリトリー、売上や利益などの達成目標が雇用主から提示されます。専門職としての営業は、その達成を個人として承諾し、書類にサインし、達成することをコミットします。コミットとは、「なんとしてでも達成する」という契約であり、達成できなければ、報酬が減らされる、あるいは、もらえないことを承諾することでもあります。
営業は、目標を達成すべく営業活動を行うわけですが、その進捗過程を正確に報告しなければなりません。報告された計画通りに数字が上がらなければ、営業の評価は下がります。また、正確な報告がなされなければ、コミッションも支払われません。計画にない売上が突然計上された場合は、それは偶然であり、営業努力が伴うものではないので、コミッションの支払いが減額されるというルールを適用している企業もあるようです。
このように、営業は専門職であり独立した個人事業主のように扱われ、雇用主、すなわち会社に活動状況を正確に報告しなければコミッションが支払われません。結果として、営業管理者や経営者は、精度の高い営業活動状況を手に入れることができるのです。営業担当者と営業管理者の利害が一致しているからこそ、米国ではSFAがうまく機能しているのです。
一方、日本ではこのような関係は存在しません。営業は総合職である場合が多く、専門職としては扱われてはいません。また、報酬は固定給であり、グループや組織単位で営業することも多く、個人の成果と報酬が直結していません。だからといって、営業目標の達成にモチベーションが働かないわけではありません。彼等も又同様に目標達成は営業の評価や昇級、昇進につながりますし、名誉や達成感が後押しすることもあります。しかし、結果として、期間目標が達成されればいいわけですから、個々人の活動状況や個別の案件毎の進捗や結果が、自身の報酬につながることはありません。直接のメリットがないのです。つまり、SFAのような案件毎のきめ細かな報告はオーバーヘッド以外の何物でもないのです。ここに精度の高い予実の見通しを必要としている営業管理者との間で、利害の不一致が生まれているのです。
このことからもおわかりの通り、SFAに営業が案件毎の状況をタイムリーかつ正確に入力しないのは、彼等の意識が低いからではなく、組織のメカニズムとしてその必然性がないからなのです。この問題を解決しない限り、どんなSFAを導入しても事態の解決にはなりません。
これは表現を変えれば、「営業活動にガバナンスが効いていない」ということになります。
本来「ガバナンス」という言葉は、経営や事業の目的を達成するために組織や個人を自律的に機能させるための仕組みを意味する言葉です。指示や命令によらず日常の業務を適正に行うことで自然と実現される運用プロセスを実現することと解釈することができます。
一方、「マネージメント」と言う言葉は、経営や事業の目的を達成するために組織や行動を管理し適切な指示を与える活動です。目的実現の指標となる目標を設定しその実現のためのPDCAを管理・運営することとなります。
また、「コントロール」とは、マネージメントを行うために意図する方向に向かわせるために指示命令を下し、組織の動きを制御することです。
つまり、営業担当者が、案件毎の情報をタイムリーに高い精度でSFAに入力する自発的な行動を促す仕組み、すなわち「ガバナンス」がないままに、コントロールによって入力させようとすることに本質的な問題があると考えるべきでしょう。
管理者から見ればSFAは、「マネージメント」のツールです。そこに営業が自発的に、タイムリーに、精度の高いデータを入力する仕組み、すなわち「ガバナンス」が存在しない。この両者のギャップを埋めることができなければ、どんなSFAを導入してもうまく機能しません。
ではどうすればいいのでしょうか。ひとつのアイデアとして、ご提案したいのが、「営業活動プロセス」の利用です。「営業活動プロセス」とは、「できる営業が受注するために行っている基本動作を時系列に沿って体系的に整理した一覧表」です。これをチェックシートにして、自分の案件と付き合わせてみると、自分がやっていることの抜け漏れを確認することができます。次に何をしなければならないかを示してくれます。
ここに示されているチェック項目は、「確認した」、「合意した」、「提出した」などの行為の有無で確認してゆきます。そのため主観が排除され、客観的な評価となります。その項目がどこまでチェックされているかで、A、B、Cなどの段階を対応づければ、案件評価に客観的な指標を与えることができるはずです。
このチェックシートを使えば、営業活動の効率は上がり、勝率向上にも役立つことになりますから、営業担当者にとって、これをチェックすることに抵抗はありません。むしろ、自分の仕事に役立つわけですから、自発的、自律的にチェックシートを使うようになるはずです。
このチェックシートでの確認が、そのままSFAへのインプットになるとしたらどうでしょうか。「指示や命令によらず」SFAへの入力が自然と実現される「ガバナンス」が確立されることになります。
このアイデアは、以前より温めてきたものでした。また、営業コンサルティングや研修でも、このチェックリストを使って、営業活動の基本動作を定着させるべく取り組んで来ました。
半年前、これをスマートフォンやタブレット用のアプリにしようと思い立ちました。まずは個人として使って頂き、ご評価頂くために「SalesMeister」の個人版の正式発表ができました。日経産業新聞(2013.12.13付)にもご紹介いだきました。無償ですから、どうぞお気軽に試してみてください。アプリについての説明やダウンロードはこちらをご覧いだければと存じます。
来年の3月頃には、様々なSFAのフロント・アプリとして、既存のSFAと組み合わせてお使い頂ける組織対応版をリリースする予定です。
営業管理者が「セールス・マネージメント」のために必要なSFA。営業担当者が負担を感じず、むしろ積極的に精度の高い情報をタイムリーに入力してくれる仕組みである「セールス・ガバナンス」の確立。そんな両者の溝を埋めてくれるのが、「SalesMesiter」です。
営業の担当者にとっては、「営業活動の効率と勝率を向上させてくれるセールス・ナビゲーター」、一方、営業管理者にとっては、「営業活動の今を見える化するセールス・ビジュアライザー」として、ご利用いだけます。ご活用頂ければ幸いです。
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