1.マーケティング
SI事業者は、ユーザー企業からの依頼に誠実にお応えすることをモットーとしてきました。ユーザー企業からの依頼が潤沢にあり、それを誠実にこなしていれば、リピートが期待できたからです。
ユーザー企業が成長し、仕事もそれに伴い増えている間は、自分たちも成長することができたのです。しかし、リーマンショックを境として、このサイクルは壊れてしまいました。ユーザー企業の成長の勢いは衰え、事業の主体は海外へとシフト、国内での需要は頭打ちです。
新たな市場へ参入し、顧客ベースを拡げなければなりません。そのための取り組みがマーケティングです。
これまで、SI事業者にとってマーケティングは不要でした。しかし、既存ユーザーだけでは成長が見込めない事態になり、これまで以上に新規顧客獲得の重要性は高まっています。
多くのSI事業者は、これを営業の役割として、かれらにこれまで以上の自助努力を求めているところが多いようです。
しかし、これは間違えです。
市場を拡げ、新規顧客を獲得するための戦略と施策をこなしてゆくのはマーケティング活動であり、それを営業(セールス)に負わせるべきではないのです。
マーケティングのミッションは、新規顧客となりうる可能性のあるリード情報(意志決定に関わる担当者や責任者の個人情報)を取得することにあります。営業は、その情報を使い顧客との商談を行い、受注に結びつける役割を担うのです。
顧客を引きつける魅力的なサービスや商品、そして、それを展開するシナリオを示さないままに、営業個々人の自助努力にゆだねるには、あまりに負担が大きすぎます。
クラウド・モバイル・ソーシャルなど、これまでのビジネスの常識を大きく変えるテクノロジーが、自分たちの顧客や分野にどのような変化をもたらすかを理解しなくてはなりません。また、これらの変化が自社の収益構造にどのような影響を与えているか、あるいは今後与えるかについて客観的な評価を行う必要があります。
「この商品をどのように売ろうか」を考えることがマーケティングはありません。自分たちの向かうべき市場はどこかを見極め、そこにどうやって参入してゆくかの戦略を組み立て、施策を打つことがマーケティングです。
「誠実に取り組めば成長できる」。かつてはそれで成功できましたが、今は苦境に立たされています。その流れを変えるための施策がマーケティングです。自分たちだけでスキルがなければ、お金を払ってでも外部に知恵を求めるべきです。そして、そのノウハウを吸収し、社内に人材を育成すべきです。なによりもマーケティング組織を作り、優秀な人材を投入すべきです。このような取り組みなしに、新規の顧客を拡大することはできません。
SI事業者の事業区分を見ると、「販売」、「SI/開発・構築」、「サービス」といった3つに分けて、組織と事業責任を割り当てているところが多いようです。しかし、この事業区分が、新しいビジネスや顧客の創出を阻害しているのではないでしょうか。
「SIビジネスが厳しいので何とかしたい。」そんな相談を頂くことがあります。しかし、SI市場そのものが将来に期待できない以上、そこにどのような施策を打っても、何とかできるはずはないのです。
同様に、ハードウエアやソフトウェア・ライセンスの販売も、コモディティ化やクラウド・シフトのトレンドの中で、市場そのものがますます厳しい状況に追い込まれようとしています。派遣や運用、製品保守といったサービスも自動化やクラウドの流れに、市場の拡大は期待できません。
旧態依然とした事業区分にそれぞれ収益責任を持たせ、その拡大を求めても無理があるのです。
事業区分の壁を取り払ってみてはどうでしょう。縦割りで自分たちの事業区分でしか考えない慣行を破壊してみてはどうでしょう。それぞれの事業にあるノウハウや強みのシナジーを引き出し、新たな組合せによる事業を創出すべきです。
市場の変化に追従していない既存の事業区分をそのままにして、個別の収益性を何とかしようとしても無理があります。市場に即した事業区分に変えて、その収益性を追求してみてはどうでしょうか。
多くのSI事業者が、販売や構築で得られる一時的収益の減少を補い、長期継続的なストック・ビジネスの拡大を模索しています。それを「重点施策」、「事業戦略」と称し、現場への取り組みを促しています。その一方で、事業や営業の評価は、売上や利益に偏重したものになっています。
評価は、短期的な売上と利益の拡大であり、重点施策は、短期的な売上や利益が期待できないストック・ビジネスの拡大では、現場のモチベーションは上がりません。特に事業転換の過渡期においては、この不一致は発生しやすいといえるでしょう。
確かに、経営的視点から見れば、短期的な売上や利益の拡大は必達の使命です。それを直接現場の評価にするのではなく、戦略的な成績評価の指標を作るという方法もあるでしょう。例えば、ストック・ビジネスの拡大を促すために、契約後5年間の売上・利益を短期的な売上・利益に上乗せして、それを業績として評価する。あるいは、ストック・ビジネスについては、特別なインセンティブを与えるなどが考えられます
事業戦略や重点施策が、現場の成績評価に一致しないようでは、現場のエネルギーをそちに向けることができません。
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