「イノベーション営業とは言うけれど、どうすれば、そんなことができるのでしょうか?」
先週の記事にこんなコメントを頂きました。私は、「メディアになること」から始めてはどうかと思っています。
ブログやフェイスブックなどソーシャルメディアの普及により、誰もが簡単に自分をメディアにすることができるようになりました。それは、個人ばかりでなく企業もまたしかりです。また、公のメディアになることだけではありません。特定のお客様を対象とした勉強会、業務や経営に関わる話題についての情報提供など、お客様専属のメディアになることも大切です。
お客様に取って役に立つ情報を発信し、お客様の変革を促すことが、イノベーション営業活動の出発点です。そうやって、高い問題意識と志を持つ変革の推進者を引き込み、変革への共感を集めることです。さらにその輪を拡げ、組織を挙げた変革への取り組みに仕立て上げてゆくプロデュース活動です。
ソリューション営業は、「こんな課題があるに違いない」という仮説を確認することや、これを提示して気付きを与えることが、起点となります。このやり方は、既知であれ未知であれ、課題が存在することを前提とするものです。これを聞き出し確認し、お客様と合意することから提案活動が始まります。
一方、イノベーション営業は、「変わらなければいけない」というお客様の問題意識を起点とするものです。そこに明確な課題はありません。また、変わらなければいけないという強い想いを持つ人を見つけ出さなくてはなりません。ただ、そういう人を訪ね歩き見つけ出すことは、容易なことではないでしょう。ならば、惹き寄せるのです。
お客様の経営者や業務のリーダーに、自分たちが考える問題意識や変革へのビジョン、お客様を取り巻くビジネスやテクノロジーのトレンドなどを発信し続けることです。その相手が適任でなければ、そういう意識の持ち主を紹介してもらうことです。そうやって、自分たちの存在を伝え続けることが、営業活動の入り口となるでしょう。
「人脈」という言葉があります。これは決して、どれだけの人を自分が知っているかではありません。どれだけの人に自分が知られているかです。知られる存在になってこそ、人は相談を持ちかけてくれるのです。こちらがどれだけ知っていようとも、自分が知られていなければ、信頼して話を聞いてはくれません。メディアになるとは、そんな人脈を拡げる活動です。広がった人脈の志を束ね、大きな力にしてゆくことが、イノベーション営業の役割だといえるでしょう。
変革はお客様自身が主導し取り組むことです。外部の人間が主導することはできません。だからこそ、お客様の中に変革の推進者を見いだす必要があります。その人物を支援し変革を加速することが営業活動なのです。
「ビジネスのあらゆるセグメントが、IT抜きに語れない今、変革はITの新たな需要を産み出します。つまり、変革のプロセスに関わることが、営業活動なのです。」
先週のブログでお伝えした言葉です。
「それは営業の役割ではない。コンサルタントの仕事でしょう。」
このような発想自体が、もはや時代遅れなのです。営業が、自身の役割について、このような自己規定を持ち続けている限り、イノベーション営業になることはできません。
これまでの営業の「当たり前」は、新しい「当たり前」に置き換わります。これまでのことしかできない営業は、稼げない営業として、役割を失ってゆくことになるでしょう。営業という仕事の創造的破壊が進行しているのです。
これを営業というのか、コンサルタントというのかは、あまり意味のあることではありません。ビジネスを獲得し拡大してゆくために、必要なことなのです。
「そんな人材、うちにはいませんよ。経営や業務を変革するなど、うちのような小さな会社には無理ですよ。」
なにも大それた変革ばかりが変革ではないはずです。自分たちの得意とする業務領域があるはずです。そこに変革のタネはあるはずです。
「不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず」
松尾芭蕉が、奥の細道の旅を通じて会得した言葉です。
時代を経ても変わることのない本質的な事柄を知らなければ基礎はできあがらず、変化を知らなければ新たな展開を産み出すことはできません。
「その本は一つなり」
両者の根本ひとつです。
「不易」とは変わらないものです。どんなに世の中が変化し状況が変わっても絶対に変わらないもの、変えてはいけないものという意味です。一方、「流行」は変わるものです。世の中の変化に従って変わっていくもの、あるいは変えてゆかなければならないもののことです。
得意の業務領域があるからこそ、「不易」のなんたるかを知っているはずです。同時に、テクノロジーやビジネス環境の変化を探求すれば、自分たちの業務領域で変えてゆかなければならないこと、すなわち「流行」は何かを知ることができるはずです。
この両者を結びつけ新しい組合せを見出すことが、イノベーションの本質です。決して、自らが新しい技術を創造することではありません。ならば、企業規模に関わらず、変革を促すことはできるはずです。自らがメディアとして、変革の価値を伝えてゆくことに、大小の差はないのです。
まずは、こんなところから、取り組んでみてはいかがでしょうか。新たな顧客の開拓、そして案件の拡大に、新しい道が生まれるのではないでしょうか。
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