「ほかの会社では、営業育成にどのように取り組まれているのですか?うちには体系的な取り組みがないんですよ・・・」
ある大手SI事業者の人材育成を担当される方から、こんなご相談を頂きました。
かつてSI事業者に、営業は必要のない存在でした。いや、別の言い方をすれば、新規に案件を発掘し、あるいは、お客様を開拓する営業は、必要のない存在だったと、いい改めるべきかもしれません。
景気も良く、お客様の事業も伸び、情報システムの需要も順調にのびている時代は、案件を探す必要はありませんでした。需要に供給が追いつかない時代、お客様は供給を確保し、単金の上昇を抑えるために、「棲み分け」という枠組みを作り競争を避けていました。
SI事業者はこの枠組みの中で、お客様のご要望に誠実にお応えしていれば、確実にリピートを手に入れることができたのです。つまり、お客様の需要が拡大しつづけている間は、SI事業者の業績も上昇しつづけたのです。
営業は、この枠組みの中で提供できる人材の調整を図り、供給を管理することが役割でした。また、トラブルへの対応や、契約や請求などの営業事務的な仕事を確実にこなすことが仕事でした。また、お客様との人的な関係を損なわないように注意を払い、対応することも大切なミッションでした。
お客様のご要望に確実に、誠実に応えてゆくことで、お客様との信頼関係を築くことができる、そういう人材こそが、業績をあげることができる優秀な営業だったのです。
しかし、リーマンショックの頃を境としてご状況が大きく変わり始めました。お客様のコスト意識はこれまでになく厳しいものとなりました。また、新規開発の需要は減り、保守案件の先細りは、決定的なものとなりました。
需要が減れば、棲み分けも必要ありません。むしろ競合させることで、単金を下げるほうが得策です。供給側の人材は余っている訳ですから、これに対応できなければ、ほかに換えればいいわけです。そんな競合の常態化は、今も続いています。
このような変化の中で、営業に求められる役割もまた、大きく変わってきたのです。新規案件や新規顧客の獲得が、これまで以上に求められるようになりました。当然、必要となるスキルも以前とは異なります。
しかし、多くのSI事業者の経営者は、この現実を無視しているように見受けられます。つまり、「営業はこれまでも新規を開拓するミッションを背負っている。それができないのは怠慢だ、努力不足だ」と、営業に責任を押し付けているのです。
そもそも、営業が新規開拓のミッションを背負わされていたのは、お客様のご依頼をこなすだけでは、前向きな仕事は少ない、だから、モチベーションを高めるために「新規」もミッションに入れていただけのことです。しかし、営業の成績は、売上と利益だけなので、世の中の需要が好調なときは、手間のかかる新規に時間をかけるよりは、既存顧客から受注する方が、確実で数字も読めます。結局は、「新規」はお題目のままに神棚に祭られていたのです。そのために、体系的な営業力育成の取り組みなどしなくても、数字を稼ぐことができたのです。
しかし、需要が減少してくれば、新規を獲らずして数字をあげることはできません。経営者は、これまで神棚に祭っていたものを引きずりおろし、発破をかけます。しかし、このようなスキルを必要としてこなかった営業に、新規獲得の成功体験もなければ、スキルもありません。それにもかかわらず、まるでこれまで通りの竹槍で、戦闘機と戦えと言われているようなものです。
このようなSI事業者でも、エンジニアの育成には、相当しっかりと取り組んできているところは少なくありません。スキルと資格は、プロモーションに紐付けられ、キャリア・プランに組み込まれています。そして、体系的な人材育成を行っています。これは、彼らがお金を生み出す商品だからです。
一方で営業と言えば、人事部門が行う基本的な企業人としての年次研修や昇進に伴う役職者研修が体系化されているのみです。そして、営業スキルや知識については、営業部門の独自判断による単発的な研修に留まっていることも多いようです。
また、営業スキルと言っても、提案書作成やプレゼンテーション、コミュニケーションといったツールばかりであり、顧客開拓のためのマーケティングや戦略的なアプローチの実践に結びつくものは限られています。また、なによりも、ITやビジネスのトレンドを身につけさせようとの取り組みは少なく、「そんなものはインターネットや雑誌を見ればわかるだろう」と自助努力に任せているところも少なくありません。
マーケティング、コンサルティング、トレンド知識、そして、それを営業戦略と行動計画に組み立てる能力といった本質的な営業力育成に取り組んでいる企業は、実に限られているというのが実感です。
派遣・請負・受託を生業とするSIビジネスは、確実に衰退してゆきます。そして、それに代わりクラウドやITOなどの新たな需要が、拡大してゆくことになるでしょう。このようなビジネスは、お客様のご要望にお応えするやり方ではうまく行きません。お客様の需要を喚起し、案件を開拓することが、求められるようになります。
このやり方は、これまでのように、お客様の仕事に情報システムを合わせることやご要望に応じて人材を提供することではありません。こちらが提供する情報システムの価値を最大限に享受していだけるように、お客様の仕事を変えさせ、そのことが、どれほどの大きな価値をもたらすかを訴求できる力が必要になるのです。
このような能力こそ、これからの営業に求められているのです。
サーバーやネットワークなどのインフラ、オペレーティング・システムやミドルウェアのプラットフォーム、そして、様々なアプリケーション・システム、それらはこれまで同様、各社の切磋琢磨によりどんどんと優れたものが、世に出てくるでしょう。しかし、その結果は、コモディティ化の洗礼を受け、「なくてはならないものではあるが、どれを買っても同じ」になってゆきます。これは、ITビジネスの宿命でもあります。その勢いは加速することはあっても、現状に留まることはないでしょう。もはや、商品のアドバンテージだけで、競争を勝ち抜くことなどできないのです。
いうなれば、「営業力」という「商品力」なくして、競合に勝てない時代になったのです。
「営業力」という商品を開発する。メーカーがプロセッサーやストレージなどの機能や性能を時代のニーズにマッチさせることで、「製品力」高めようとしていることと同じです。
営業の機能や性能もまた、時代のニーズにマッチさせること。つまり、時代に即した「営業力」という商品開発が、今求められているのではないでしょうか。
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