「今年のITビジネスは何で稼げばいいのでしょうか?」
新年明けましておめでとうございます。今年もよろしく御願いいたします。
年末は、反省で締めくくったこのブログですが、年初は、将来への展望ではじめさせていだきます。
まずは、今年のITビジネスのキーワードを整理し、どのような取り組みを進めてゆけばいいのかを考えることにします。次に、SIビジネスの進むべき方向についても私なりの思いを整理してみました。
1. ITビジネスのキーワード 2013
最初に、このチャートをご覧ください。
このチャートは、今年のITビジネスで取り組むべきキーワードを整理したものです。よくあるITテクノロジーのトレンドという視点ではなく、ITビジネスに関わる皆さん、すなわち売る側の視点から、どのようなキーワードをビジネスに組み込んでゆくべきかを考えてみたものです。
「偏りがあるのでは・・・」との印象を持たれる方もいらっしゃると思うのですが、あえてそのご批判を頂戴いたしたく、独断と偏見を交えてまとめてみました。
まず、全体を「アプリケーション」、「プラットフォーム」、「システム運用」の3つに区分しました。そして、それぞれの区分に対応して四隅にキーワードを配置しています。これが、ユーザー企業の情報システム部門が関心を持つであろうキーワードです。
もうひとつ、「アプリケーション」と「プラットフォーム」にまたがり、「オープン」というキーワードを配置しました。これもまた情報システム部門が関心を持つもうひとつの重要なキーワードです。
この5つのキーワードは、チャート中、白抜きで書かれている経営や業務のニーズから導かれるものです。
それぞれのニーズに応えるためのITテクノロジーのキーワードを青い長丸で、それに付随するテクノロジーを緑の長丸で配置しています。
それでは、ひとつひとつを説明してゆきます。
テクノロジーが大きく進化しているにもかかわらず、ITが経営に十分に貢献できていないとの批判は、日ましに高まっているように感じています。「毎年、これだけ予算を配分しているのに、その成果が今ひとつ見えない」、「もっと予算を抑えられるのではないか」、「情報システム部門から、経営戦略を推進するような積極的な提案がない」など、経営と情報システムとの意識の乖離が進んでいるようにも感じています。
「社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)」のレポートを見ても、IT予算は過去十年間で対売上比半減し、今後大きく伸びる見通しもありません。このような中で、情報システム部門はその存在意義を問われていると言っても過言ではないでしょう。
このような状況の中で、ITが果たすべき役割を改めて考えて見れば、経営や業務の生産性向上という視点だけではなく、経営や業務のニーズを先取りし、これを積極的に支援する戦略的な役割を担うことが求められるようになるでしょう。
「経営スピードへの対応」や「グローバル対応」はその大きな柱と言えます。そのためには、これまでのSIer丸投げの体質から脱却し、内製化をすすめることが必要です。また、「内製化」と「オープン」により、TCOの削減を両立することが必要になります。
超高速開発、Webアプリケーションは、アジャイルな開発を進める基盤となります。また、既に用意された開発・実行基盤であるPaaSを活用することで、プラットフォームに関わる負担を大幅に削減することが可能になります。
また、よりプリミティブなプラットフォームにおいても、これまでの仮想化の概念を包括したSoftware-Definedの考え方が広く定着してゆくことになるでしょう。つまり、サーバー、ストレージ、デスクトップ、ネットワークなど、様々なITの物理的リソース・プールから、必要なリソースだけをソフトウェア的に定義し、切り出してくるという考え方です。しかも、動的なリソースの変更がソフトウェア的に簡単にできてしまうのです。
これまでの仮想化では、ネットワークが、この対象から外れていました。それが、OpenFlowをはじめとしたSDN(Software-Defined Network)技術の進展で現実のものになろうとしています。そして、この技術が、IaaS構築の基盤であるOpen StackやCloud Stackなどのオープン・クラウドのソフトウェア群に組み込まれようとしています。
現在広く普及しているVLANは、確かにネットワークを仮想化する技術ではありますが、様々な制約から柔軟性や自動化、大規模なノードへの対応などが困難でした。SDNはこのようなネットワーク仮想化の制約を超え、全てのITリソースをひとつのリソース・プールとして管理・運用できる道を切り開こうとしています。
このSoftware-Defined Systemの考え方で、社内に分散、あるいは個別最適化されたシステムを統合しようという動きを加速するでしょう。もともと、分散・個別最適化されたシステムは、TCOやガバナンスの観点から、基盤統合したいという根強いニーズとして存在しており、このテクノロジーはこれを支える基盤となるはずです。
再びアプリケーションに目を向けると業種特化型SaaSが注目されることになるでしょう。製造業、流通業、サービス業などなど、それぞれの産業分野に特化したアプリケーションをサービスとして採用することで、開発そのものを無くしてしまうことへの期待は高まります。
これまでのように自前主義を貫くことは、予算的にもスピード的にも難しくなりつつあります。それに対する答えが業種特化型SaaSです。この領域であれば、ITベンダーは企業規模を問わず業務ノウハウさえあれば、大手に互する競争も可能です。プラットフォームはAmazonなどのクラウド・プロバイダーが提供するリソースを従量課金で利用できますから、初期投資リスクを気にする必要はありません。
そんな中で、グローバル化への対応とともに、ERPは有力なアプリケーションとして期待されます。ただ、従来、あるべき姿として求められていた「グローバル・シングル・インスタンス(GSI : Global Single Instance)」は、もはや幻想であるとの声も少なくありません。そこで、グループ各社には軽量なERPパッケージを導入し個別の現場オペレーションに対応させ、これを本社にあるERPのマスター・データベースとデータ的に整合性を持たせた二層構造のERPが現実解として注目されています。
しかし、パッケージを導入し自ら運用するほどの現地スタッフを抱えられない企業にとっては、これもまた容易なことではありません。そこで期待されるのが、海外現地法人のための軽量ERPの業種特化型SaaSです。既に日本と米国を除く多くの先進工業国はIFRSを適用しており、日本もIFRSへの対応は不可避です。こういう流れの中で、このアプリケーションへのニーズは高まってくるのではないでしょうか。
「モバイル・シフト」というべきか、「モバイル・ファースト」というべきか、時代は、「モバイルありき」が前提となりました。スマートフォンやタブレットなどのSMD(Smart Mobile Device)は、既に出荷台数ベースでは、PCを大きく上回っています。当然、情報システム部門もこれに対応できなければ、ユーザーの不評を買うことになるでしょう。
しかし、SMDの利用により、運用やセキュリティに関する課題は、これまでとは異なるものになります。
例えば、業務の機能を全てSMDのアプリとして構築するのではなく、ネットワークに接続されたバックエンド・サーバーに共通の機能を持たせ、これと連携する形で業務を処理するBaaS(Backend as a Sarvice)が、使われるようになるでしょう。現在、コンシュマー・アプリのためのBaaSはいろいろと出てきましたが、ビジネスに特化したものはこれからのようです。
また、セキュリティに関しては、個人のデバイスの利用を許容するBYOD(Bring Your Own Device)への取り組み、電子メールや経費精算などをパブリックなクラウド・サービスを使い、社内のネットワークにアクセスして基幹業務システムを利用するというような使い方に対応しなければなりません。そのためには、シングル・サインオンへの対応を可能とする統合認証基盤とそれを支えるMDM(Mobile Device Management)が、必要となります。
SMDの普及は、常時接続とセンサーや制御情報などのM2M(Machine to Machine)により膨大なデータを生成します。これらは、「人間のあらゆる行動をデータ化する」可能性を現実のものとするでしょう。また、世界人口で3番目の大国と言われるFacebookは、そのユーザー数が10億人を越えました。そこからもたらされるデータも膨大です。そこには、マーケティングや経営に関わる意志決定の精度を飛躍的に高める可能性があります。
これらBig Dataを戦略的に活用することは、ITの戦略的活用の新たな方向性を示すものと言えます。
再び、プラットフォームに目を移せば、Software-Defined systemの右に垂直統合システムがあります。物理リソースをひとつの筐体に納め、ソフトウェアも全てセットアップ済みで提供されるシステムです。IBMのPure Systemsをはじめとして各社の発表が相次いでいます。
これらのシステムの価値は、ハードとソフトのチューニングが既に終わっているのですぐに利用できる、ということもさることながら、保守やサポートの窓口を一社に集約できることで、運用管理に伴う手間、つまり問い合わせや各社間の調整の手間を削減できることも大きな魅力です。これによって、システムの組み合わせに対する責任と負担からユーザーは解放されることになります。言葉を換えれば、「オープン・システムで作ったメインフレーム」ということになるのでしょう。
この垂直統合システムにはふたつのタイプがあります。ひとつは、スモール・コア/低消費電力のプロセッサーを大量にスケール・アウトして処理能力を高める「ハイパー・スケール・アウト」、ひとつは、プロセッサー単体の処理能力を極限まで高速化し処理能力を高める「ハイパー・スケール・アップ」です。
前者は、WebサーバーやHadoop、Memcachedなどの分散処理に適し、ARMのプロセッサーやIntelのAtomなどを搭載したマイクロ・サーバーを組み合わせて構成されています。後者は、RDBMSなどの処理に適し、IBMのPower7やOracleのSPARCなどの高速プロセッサーにより構成されます。
また、インメモリーDBアプライアンスも注目すべきでしょう。これは、企業内に分散する多数のデータベース・サーバーの集約基盤としてTCOの削減が期待できるほか、ビッグデータやリアルタイムBIなどのアナリティック業務を支える基盤として普及が期待されます。
マネージドIaaSは、日本的かもしれません。本来IaaSはセルフ・サービス・ポータルとともに、ユーザー企業側の運用負担の軽減に貢献するものです。しかし、我が国の現状を見れば、ITエンジニアをベンダーに依存しており、ユーザー企業が自社で運用管理するには、スキルも要員も不足しています。それをITベンダーが変わって運用を代行するものです。
この場合、自社でIaaS基盤を提供する場合と、他社のIaaS基盤をユーザー企業に代わって運用する場合に分けられます。例えば、他社IaaSであるAmazon EC2を使用する場合、その設定や運用パターンは緻密に細分化され相当の運用スキルがなければ使いこなすことができません。また、従量課金での支払い、クレジットカード決済は、日本のビジネス習慣になじまず、それが足かせとなっているケースもあります。その当たりを代行するビジネスも広がるのではないでしょうか。
運用に関し、安全安心への関心は、3.11以降、東南海・南海地震、富士山の噴火の可能性も取りざたされ、ますます高まっています。また、ITガバナンスやセキュリティの向上への期待は、グローバル化、モバイル化の進展と共に、ますます高まりを見せています。そのための基盤として、耐災害強度やセキュリティをこれまで以上に高めると共に、高密度・低消費電力を売りとした次世代型データセンターへの関心も高まっています。
また、モバイル・シフトによる常時接続の常態化、グローバル化による時差を考慮した運用のため、24時間365日の運用管理とサポートのニーズはますます高まるものと考えられます。
そういう状況の中でも運用コストの低減は求められます。そこで、ルーチンワークの自動化や、これまで運用エンジニアの暗黙知に期待していた様々なインシデンデントへの対応もソフトウェアで行おうという自律化への取り組みが進むものと考えられます。
以上のようなトレンドを俯瞰すれば、戦略的システムは内製し、コモディティなIT基盤はITアウトソーシングされるというシナリオは自然なものとなります。
このようなキーワードを、どのように自社の事業戦略に織り込んでゆくかは、各社それぞれに得手不得手もあるでしょうから、これだと言いきれるものではありませんが、これまで、ITベンダーの事業戦略やユーザー企業の情報システム戦略の策定に係わり、その経験を踏まえ、抑えておくべきキーワードは配置したつもりです。
2. SIビジネスのトレンド・シフト 2013
ところで、このようなビジネス・トレンドを考えるとき、これからのSIビジネスは、どのような方向に向かうべきでしょうか。次のチャートをご覧ください。
オンプレミス、国内対応、SIer依存を前提としたビジネス構造は、もはや長続きはしないでしょう。時代は、ノンコアITO、グローバル対応、コア内製へと向かっています。
そうなると、これまでの情報システムの構築を前提としたSI = System Integrator は、ITサービスを自ら提供し、あるいは、世の中の様々なITサービスをお客まさに最適化して組み合わせ提供するSI = Service Integrator へと変化してゆかなければならないでしょう。
さらにインフラのコモディティ化が進み、既存の経営や業務の生産性を高めるだけでは、差別化が難しくなります。そこで、求められるのが、お客様の現状の課題を解決するだけではなく、将来を予見し内在する課題を解決すること。つまり、ITを活用して既存の組織、経営や業務のあり方といった構造に変化を生じさせるSI = Solution Initiatorとしての役割ではないでしょうか。
Solution Initiatorとしての役割は、ビジネス規模から見れば、大きなものを期待できません。しかし、ITのコモディティ化と処理能力の飛躍的、加速度的な向上は、ITマーケット規模の拡大を抑制する方向に働くでしょう。そうなれば、労働力の提供を生業としている旧態依然としたSIerは、その存在価値を失い、淘汰される運命にあることは明らかです。だからこそ、Solution Initiatorとして、お客様の戦略に深く食い込み、存在価値を高め、結果として、下流のふたつのSIもビジネスとして引き込んでくるシナリオを描く以外に道はないように思います。
3. 最後に
これまで何度もこのブログで書いたことですが、時代はスピードを上げたのではなく、パラダイムを変えたのだと言うこと。これまでのビジネスの延長線上には、次のビジネスは見えません。
以上のふたつのチャートは、そんなパラダイムの変化を理解する一助となればと願っています。
本プログは、先にお断りしましたように、私の独断と偏見の塊です。ぜひ、建設的なご批判を頂ければ願っています。そういう議論こそ、自分たちを、そして世の中をよくしてゆく原動力になると考えています。
■ Facebookページに、皆さんのご意見やご感想を頂ける場所を用意いたしました。よろしければ、お立ち寄りください。
■募集開始■ 第12期 ITソリューション塾 ■2月6日スタート■
このブログで紹介させていだいたようなITテクノロジーやビジネスのトレンドを体系的に、そして徹底的に理解するための取り組みです。今回で12期を迎え、これまで営業、SE、コンサル、ITベンダーの経営者やマネージメント、ユーザー企業の情報システム部門の皆さんが、呉越同舟でご参加頂いております。
「自社製品の知識はありますが、世の中の常識となると、うまく説明できません。」
このようなことで、お客様の信頼を手にすることはできません。
- クラウドと仮想化の違いが説明できません
- ERPは知ってるけれど、BPR,BPR,SOAとの関係は説明できません
- HTML5とスマホやクラウドの関係は説明できません
世の中の常識に自社の製品はどう位置付けられるのでしょうか、あなたの提案は、世の中の常識からから見て妥当なのでしょうか・・・
2013年2月6日から4月17日までの全10回、毎週水曜日の夜に開催します。
詳しくは、こちらをご覧ください。
なお、会場の制約上すぐに満席となりますので、もし未決定ながらご意向がある方は、こちらにお知らせください。
■参加者募集■ 2013年1月22日(火) 企業の変革をITで実現する大会議 ■
ユーザー企業の変革の流れを感じて、どう動くか?
そんなことを本気で考えるIT企業の「イノベーター」たちのための大会議です。
2012年7月5日。ユーザー企業、IT企業のビジネスパーソン 100名が集まって両者の接点である『IT』の活用を進めていくために、それぞれの立場でどのようにあるべきかを3時間議論し続けました。そして、参加者の心の中で課題が明確になりました。
そして、2013年1月21日。ユーザー企業のCIO、情報システム部門、その他ITユーザー部門の方々が集まって、「ユーザー」としてどのようにイノベーションに取り組んでいくかを大会議を開催します。
その議論した結果を受けて、翌日のこの1月22日にその変革の意識にITを提供する側として、どのような姿勢で向き合っていくかを大会議で議論しています。
IT企業の皆さん、是非ご参加ください m(_ _)m
詳しくは、こちらをご覧ください。