「全ての道はローマに通ず」という言葉があります。たとえ手段は違っても、物事が中心に向かって集中することのたとえとして使われる言葉です。
日本では、調達や構成変更・運用管理における作業の多くがITベンダーに任され、その都度見積もりをとり発注するという手続きがとられています。そのため、ものの調達や作業の開始が、数週間、あるいは数ヶ月先になることもあります。
一方、クラウド・コンピューティングでは、「セルフ・サービス・ポータル」と言われる構成や設定を行うメニュー画面から行うことができます。つまり、システムの利用者自身が、この画面を介して設定するだけで、必要とするリソースを即座に調達することや構成の変更ができるのです。この仕組みによりエンジニアの生産性は著しく向上します。
エンジニアの生産性向上は、米国においては、ユーザーに直接的な価値をもたらします。それは、ITエンジニアの72%がユーザー側に属しているからです。
一方、日本においては、ITエンジニアの75%がITベンダー側に属しています。そのため、このような仕組みはITベンダーの生産性向上になります。しかし、これは、ビジネス的に見れば案件規模の縮小です。また、米国のように、お客様自身がリスクテイクするのではなく、ベンダーにリスクを負わせる構図が定着している我が国においては、ベンダーから見れば利益相反の関係となります(詳しくは、こちらの記事をご参照ください)。
また、ユーザーも自身のリスク負わずベンダーに任せることが、これまでは当たり前でした。結果としてユーザーとベンダーは相互に利害が一致しています。このような意識が、我が国におけるクラウドの普及の足かせとなっているのではないでしょうか。
エンジニアの多くがユーザー企業側に籍を置く米国において、オーブン・ソース・ソフトウエア(OSS)のコミュニティには、ユーザー企業のエンジニアが積極的に関与し、ユーザーの立場から影響力を行使しています。
このような取り組みは、プロプライエタリに握られた主導権を、ユーザー自身の手に取り戻そうとするレジスタンス活動ということができるのです。
ベンダー・ロックインを嫌い、真にユーザーにとって必要な仕組みを構築する自由を手に入れる。それが「オープン」の旗印なのです。
OpenStackやCloudStackなどのオープン・クラウド基盤に関わる活動もまた、vmwareやMicrosoftなどのビッグ・ベンダーにクラウドの主導権を握られることへのレジスタンスとして生まれた活動なのです。このような動機付けは、結果としてオープン・クラウドの普及を促す強い原動力となっています。
このような考えが広く受け入れられている米国においては、プロプライエタリ側も「オープン」を無視することができません。そのため、vmwareが自身の対抗としてはじめられたOpenStackコミュニティのスポンサーとして参加していることや、Microsoftが新しいWindows Azure Platformにおいて、Hyper-Vをサポートし、Linuxへの対応などオープンに積極的にコミットしていることをアピールしているのは、このような背景があるからです。
我が国においては、システムのインテグレーションの実務をSIerが担っています。しかし、米国ではユーザー自身がその役割を担っています。これは先に述べたエンジニアの人数比率の違いもあるのですが、CIOがITのスペシャリストであることも大きな理由としてあげられます(詳しくは、こちらの記事をご参照ください)。
我が国の場合、CIOの多くが財務や経理、総務などの役員と兼務であり、ITについての経験がなく、ITに関する知識やスキルが乏しいということは珍しいことではありません。そのため、ITの実務は配下の情報システム部門に任せています。つまり、ITのイニシアティブを経営のトップラインが掌握しておらず、戦略的な活用を育む環境が整っていないのです。
そのためシステムの構築を自ら主導する力が乏しく、クラウドに限ったことではありませんが、ITを戦略的につかうというメカニズムが、ユーザー主導では起こりにくい構図ができあがってしまっています。
一方、米国におけるCIOは専任のITスペシャリストであり、経営のトップラインとしてIT活用のリーダーシップを発揮します。経営のトップラインに居ることは、組織の人事やルールにも関与できる立場にあり、ITと経営を融合した戦略的な情報とシステム活用の陣頭指揮に立てる立場にあるのです。従って、先に説明したクラウドのユーザーにとってのメリットについても良く理解しており、これを積極的に活用していこうというモチベーションも高く、それを主導する権限も持っています。
米国において、クラウドが積極的に活用される背景には、このようなCIOのイニシアティブがあるのです。
■参加者募集■ 2013年1月22日(火) 企業の変革をITで実現する大会議 ■
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