「クラウドは必ずしもコスト削減に有効とは言えないようです。」
昨日行われたセミナーでITRの甲元さんが、このような話しをされていました。
「クラウド=コスト削減」への期待は、今でも高いものがあります。しかし、私も、あるユーザー企業の情報システム戦略策定に係わりながら、「クラウドでコスト削減は難しい」という現実に向き合っています。
なぜ、クラウドはコスト削減をもたらさないのでしょうか。改めて考えてみると、そこには、日米のビジネス文化やIT戦略思想の違いがあるようです。
まず、ビジネス文化の違いですが、それは、人件費を変動費とみるか固定費とみるかの違いです。
クラウドが目指しているものは、無人コンピューティング環境の実現です。これは、運用するサービス・プロバイダーも、利用するユーザーも、徹底して人手の介在を排し、人件費の削減を追求しようという方向です。
システム運用においては、ルーチン化された業務を自動化することに加え、これはまでは経験を積んだエンジニアでなければできなかった個々の業務に最適化されたシステム構成や安定稼働のための運用ノウハウなど、暗黙知に属する部分までパターンとして標準化し、ソフトウエアで行ってしまう自律化の取り組みも進んでいます。
このような取り組みによって、運用者も利用者も、共にシステムに関わる人員を削減することが可能になります。
このような状況になれば、米国では、人員を解雇するでしょう。しかし、日本では、簡単にはできません。ここに大きな違いがあります。
また、日本の場合、人件費は固定費ですから、社員がどのような仕事に時間を使っていてもキャッシュアウトは同じです。従って、情報システム部門に属さないユーザー部門のITに関わる様々な作業負担、例えばPCのバージョン・アップ、トラブル対応、セキュリティ対応などは、埋没コストとして数字には表れてきません。つまり、仮にそれらの業務がクラウドによって削減できたとしても、経営的目線で見れば、コスト削減効果には見えないわけです。これもまた、クラウドのコスト削減効果を引き出しにくくしている理由となっています。
コスト削減の大きな要素は、人件費にあります。それができないとなると、たとえテクノロジーが進化し一層の無人化が可能になったとしても、そのメリットを享受することはできません。
長期的に見れば、日本もまた、この変化の流れを受け入れることにはなるのでしょう。しかし、テクノロジーの進化はそれ以上に速く、その価値を享受することができないままに、世界の常識から取り残されてゆくことも危惧されます。
グローバル化は日本の産業基盤を海外に移す動きでもあります。ならば、情報システム基盤も海外に移すことは、何も特別なことではないはずです。それが、情報システムのコストパフォーマンスを向上させることになるのであれば、情報システム部門の事情はともかくとして、経営的に見れば、ためらう余地はありません。
次にIT戦略思想の違いについですが、これは、ITをコスト削減や生産性向上の手段として捉えるか、収益や事業の拡大の手段として捉えるかの違いと言えます。
以前、このブログでも紹介させていただきましたが、米国におけるCIOは経営のトップラインの1人として、専任のITスペシャリストとして経営戦略を実行する役割を担っています。かれは、経営に関わる重点施策を実現する上でITだけではなく、組織や事業に関わる権限を持ち、トップダウンでITと経営の融合を推進する立場にあります。
その一方で、日本のCIOの多くは、兼任・兼務が多いことに加え、ITの専門家は少なく、実質的には配下の情報システム部門にITに関わる業務は任せているのが実情です。また、ITは、ボトムアップで現場ニーズに応える手段であり、経営戦略的視点は反映されにくい構造になっています。
クラウドの価値は、スピード、アジリティ、スケールです。オンプレミスに比べ圧倒的に速いシステム導入・構築時間、変化に柔軟・俊敏に対応できること、そして、需要の変動に対してダイナミックに、しかも大規模にプロビジョニングできることです。
グローバル化の進展、ビジネス・ライフサイクルの短命化、顧客志向の多様化など、ビジネス環境が大きな変革を求めている時代です。経営戦略的視点に立てば、クラウドはきわめて有効な手段となります。
これは、コスト削減の価値ではなく、収益の拡大であり経営環境の変化への迅速な対応という企業の存続に関わる価値と言えるでしょう。ここにクラウドの可能性を見出すことができるかどうかです。
欧米の動きを見る限り、クラウドへの期待は、コスト削減から経営戦略実現へとシフトし始めています。
改めて、クラウドの価値を見直すべき時期なのかもしれません。日本のビジネス文化を変えることが容易ではない以上、コスト削減を期待しても限界があります。むしろ、クラウドの持つスピード、アジリティ、スケールに価値を見出し、経営戦略実現の武器として、クラウドを位置付ける発想が必要なのかもしれません。
さて、今回は新たに「データベースの最新動向」を追加しました。また、仮想化については、OpenFlowも含む“Software-Defined”という切り口から、整理しようと思っています。このふたつのテーマは、これからのITビジネスに大きく影響してきます。そして、業界の勢力地図を大きく書き換える可能性もあります。
9/19 (水) 18:00から開催します。
・他社はIT活用をどう考えているのか?
・これからのIT活用はどのようにすすめてゆけばいいのか?
・ITベンダーやSIerとの関係はこのままでいいのだろうか?
メーカーやベンダーの紐付きではなく、 ユーザー同士で率直に意見交換し合う場というのはなかなかありません。
今回は、限られた人数での開催です。ぜひ、早々のお申し込みを御願いいたします。
なお、ここでの議論は、11月にITベンダーやSIerの皆さんを交えた100人規模での開催を予定している「これからのITを変える大会議」のインプットとして、活用させていだきます。
利用する側と提供する側が、お互いの垣根を越えて率直に話し合うというイベント。7/5にその第一回目を開催し100名を越えるご参加を頂きました。その第二弾を予定しています。
これまでにない試みです。ぜひ積極的なご参加をお待ちしております。
対象 ユーザー企業 情報システム関連の仕事をされている方
*** 情報システム子会社でユーザーの立場でご参加の皆さんもどうぞご参加ください。
SIerやITベンダーの皆さんは、ぜひお客様にご紹介ください。
■ 第11期・ITソリューション塾 を開講します ■
今日の記事にもあるように、ITビジネスやテクノロジーの最新トレンドを整理できないままに、お客様の良き相談相手にはなれません。
4年前、何とかできないだろうかと相談を受け、はじめた「ITソリューション塾」も第11期を迎えることになりました。営業やSE、情報システム部門の方、IT企業の経営者など、志の高い300人を超すみなさんが、呉越同舟・切磋琢磨の機会として、ご参加頂きました。
改めて、これまでの資料を見直しますとその変化のスピードを実感します。
さて、今回は新たに「データベースの最新動向」を追加しました。また、仮想化については、OpenFlowも含む“Software-Defined”という切り口から、整理しようと思っています。このふたつのテーマは、これからのITビジネスに大きく影響してきます。そして、業界の勢力地図を大きく書き換える可能性もあります。
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