「毎日忙しく、仕事が楽しいなんて、とても思えませんよ・・・」
入社3年目の営業さんから、そんな言葉を聞かされました。思い返せば、私もまた同じような時期がありました。金曜日が待ち遠しく、日曜日になると「あ~、また明日から仕事だ・・・」と考えてしまう。本当に憂鬱でした。
当時の先輩は昼前にしか出てきません。だからといって新前の私がそれに合わせる訳にもゆかず8時頃には出社していました。
昼間は忙しく仕事をこなし、お客さまにも足を運び、疲れて夕方戻ってきます。そして、また事務処理や明日の準備です。気がつけば夜も9時、10時、すると先輩が、「打ち合わせするぞ!」と招集をかけます。一通りの指示が与えられ、それが済むとまたその指示に従って資料を作りました。作っても、一発OKなどということはなく、赤線を入れられ、時にはせっかく仕上げた資料を破り捨てられることもありました。
「なんと理不尽なことをいうんだ、これで十分じゃないか・・・」。反発する気持ち、悲しみと怒りの入り交じった納得できない悔しさが胸を締め付けました。それでも従わなくてはなりません。
見切りをつけて帰ろうという頃には終電もなくなっています。じゃあ、「飯でも食って帰るか」という声にラーメンと餃子を食べて、タクシーで帰宅する。タクシーに乗れば、目的地を告げて、そのまま爆睡。帰宅後シャワーを浴びて、少し眠ればすぐに朝です。着替えて電車に乗れば、そこもまた貴重な睡眠時間でした。そして、何時ものように朝一番にオフィースに到着する。先輩は昼前・・・
当然、徹夜仕事や休日出勤は当たり前でした。近くのカプセルホテルは常連宿と化していましたね。
出張の車中は、貴重な休息でした。お客さまが東北に多かったので、毎週のように長距離出張していました。ただ、深夜まで資料を作り、そして、上野駅前(当時の東北新幹線は上野発、また、常磐線沿いのお客さまもいらっしゃいましたので)のカプセルホテルで2、3時間仮眠し、始発に乗って、その日の夜に帰ってくる。そして、また同じサイクルの始まりです。
・・・ 今思うと、よくやっていたと思います(笑)。
楽しいどころか、苦痛でしかありませんでした。何度も会社を辞めようと思いました。自分は、営業に向いていないんじゃないかとも思いました。しかし、ここで音を上げては、かっこわるいし、負けになる。そんな見栄のようなものが、最後の支えになっていたように思います。
そんな私が、「営業は楽しい!」と思えた切っ掛けは、ごく些細なことでした。
入社3年目の頃、先輩がお客さまを連れて海外視察へゆくことになり、2週間不在となったときです。担当するお客さまから既に使用されているコンピューターのアップグレードの相談を頂いたときでした。わずか数百万円の話しです。当時、数千万円、数億円のビジネスが当たり前の時代。わずかな売上です。しかし、その構成や手配はなかなか複雑で、手間のかかるものでした。しかし、お客さまは緊急に対応してほしいと要求されています。「まいったなぁ」そんな思いがよぎりました。
それまでは、何事においても先輩の指示に従い、確認を取って進めていたのですが、当時は電子メールも携帯電話もない時代ですから、全て自分で判断し、進めなくてはなりません。もちろんやり方は心得ていました。しかし、全ては自分で判断しなくてはなりません。とても不安でした。面倒な作業でもありました。社内の技術部門やパーツセンター、工場などとも調整し、交渉しなくてはなりません。
それを何とかこなし、一切の仕事を自分で完結した時、「なんだ、自分にもできるじゃないか・・・」。なんとも満たされた思いでした。お客さまからも「斎藤さん、ほんとうに助かったよ。ありがとう。」そう言われたときの喜びは、今でも忘れることができません。
改めて思い返すと、営業という仕事が楽しいと思えた最初だったかもしれません。
先輩が長期出張から戻ってきても、仕事のペースは何も変わりませんでした。しかし、私の気持ちは全く変わっていました。自分のやっていることに意義を感じ、先輩が指示していることの意味も、なるほどと素直に思えるようになりました。そうすると、仕事が楽しくなり、いろいろなことがうまく回りはじめたように感じられたのです。
営業という仕事の楽しさは何かと聞かれることがよくあります。しかし、それは自分で見つけるしかありません。「お客さまに感謝される仕事だから」、「いろいろな人と係わり調整し、大きな仕事をする機会が与えられているから」・・・ありきたりのことはいろいろいと申し上げることはできます。しかし、それは何の答えにもならないでしょう。
ひとつ言えることは、自分のやっている仕事は何が楽しいのだろうかを追求し、考え続けることです。そして、自分でそれを見つけたとき、それが貴方にとっての答えだということです。
私は、今、営業という仕事を選び、その仕事を続けてきたことを、本当に良かったことだと思います。そして、それを誇りだとも思っています。それは、理屈ではなく、私の心がそう感じていることなのです。
楽しいと感じられるかどうかは、本当に小さな心のスイッチの切り替えだけなのかもしれませんね。その小さなスイッチにまず手をかけることからはじめなくてはなりません。それは、「営業という仕事の楽しさって何だろうか?」と真剣に考え、向き合ってみることです。
「営業の楽しさが分からない」。そう思われている方は、まず心のスイッチに手をかけることからはじめてみてはいかがでしょうか。
■ ご意見をFacebookページで聞かせください。ご意見を交換できればと存じます。