米国と日本のCIO(Chief Information Officer:最高情報責任者または情報統括役員)の違いを一枚のチャートにまとめてみました。
CIOの設置企業の数についてですが、経済産業省の“「IT経営力指標」を用いた企業のIT利活用に関する現状調査”によると、「社内にCIOがいる」日本企業は58.3%、これに対して、米国は83.1%、韓国は71.3%という数字になっています。
これとは別の調査ですが、総務省の「平成22年度版 情報通信白書」では、CIOを役職として設置している企業の割合は5.1%。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査2010」では、7%となっています。
経済産業省の調査結果がこのように大きくなっているのは、たぶん役員としての本来の意味でのCIOだけではなく、情報システム部門長もCIOとして算入しいるためかもしれません。感覚的には、総務省やJUASの調査結果の方が、納得感はあります。ただどちらにしてもCIOという役員クラスの責任者が少ないことだけは確かなようです。
また、日本ではCIOとして専任役員を設置している企業は多くありません。一般的には財務や総務を担当する役員が兼務する形を取っており、その社内的な位置づけは曖昧です。
一方、米国の場合、CIOを独立した役員ポストと位置づけ、社外からスペシャリストとしてCIOを採用し情報システムの利活用を一任する形態を取っています。
つまり、CIOは、CEOやCFOなどと同様に経営のトップライン位置し、企業の全体最適を推進する立場にあります。その権限は日本と違い強力で、情報システムの利活用だけではなく、組織や業務ルールの変革にもおよび、まさにトップダウンで「経営と情報システムの融合」を実現する立場にあると言えます。
これに対して、日本のCIOは、仮に役員であったとしても、情報システムの専任でもスペシャリストでもありませんから、実務実践は情報システム部門に一任することになります。そして、一スタッフ部門としての情報システム部門は、現場からの個別の要望に対処することが暗黙の了解事項です。そして、CIOは、このような現場主導ですすめられる情報システム構築を上長として承認するというボトムアップ型の意志決定を行います。結果として個別最適なシステムの構築に向かうことになります。
情報システム部門の権限の低さと現場部門の相対的優位の構造は、情報システム部門が現場の組織や体制、業務の仕方にまで踏み込むことを許しません。そのため、現場の要望を拾い上げそれを反映させた現場最適のシステムを個別に作り上げることになります。
米国のようにトップダウンで業務の改革や組織の変更を伴う「企業全体の収益拡大や成長の維持」というような全体最適を指向した戦略的情報システムを構築することは難しく、個々の「業務の効率化とコスト削減」の道具に留まっているという状況です。
このような様々な個別の情報システムを人数の限られた情報システム部門のスタッフで保守、運用することは難しい状況にあります。そこで、それぞれを個別に外部のSIerやベンダーに任せることになります。そのほうが効率的であり、QCDもコントロールしやすいからです。
そのため、情報システム部門のスタッフは、全体の調整役あるいは契約や手続き等の業務対応に時間が割かれ、技術的なことは外部ベンダーに任せてしまうこととなります。また、経営と融合した情報システム戦略は明確にはないわけですから、技術や情報システム戦略を学ぶ機会は乏しく、結果として人材の育ちにくい環境となっています。
戦略の乏しさや人材の不足では、自らがイニシアティブを取りにくく、ベンダー任せ、ベンダー・ロックインの構造を助長することになります。そして、その構造にあぐらをかいているのが、ITベンダーでありSIerと言うことになるのでしょう。
しかし、企業の経営基盤が、今後ますます海外にシフトする中、情報システムの戦略的活用は、これまで以上に経営戦略上の重要性を増すことになります。そうなると、これまでの日本型のスキームが成り立たなくなることは明白です。それは情報システム部門にとっても、ITベンダーやSIerにとっても、大きな変革を迫られることになります。
日米のCIOの違いから、情報システム戦略のこれからが見えてきます。グローバル化の加速は、我が国の情報システムのあり方に大きな変革をもたらすことになるでしょう。そして、昨今の社会環境は、そのスピードを益々加速しているように見えます。
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