「あなたがいうのなら大丈夫でしょう。お任せします。」
お客様にそういわれることこそ、営業の醍醐味だと私は思っています。
「安心な存在」と「信頼される存在」。前者は、「この人なら自分に不利益をもたらすことはないだろう」と思わせる存在です。後者は、さらに積極的に「この人なら自分たちに利益をもたらしてくれるだろう」と期待させる存在です。
お客様と誠実に向き合うことは、営業の基本動作です。それは、自然とお客様に伝わるでしょうし、良い人、すなわち「安心な存在」として認めてもらえるはずです。しかし、どんなに良い人であっても数字をあげられなければ、営業としては意味がありません。
かつて、私が現役の頃、上司によくいわれた言葉があります。「営業の人格は数字だ」。人間としてどんなに良い人であっても数字をあげられなければ、「営業としての人格は劣る」ということです。つまり、お客様にとって、安心な存在であるだけでは、営業としては、失格なのだということです。
だからといって、お客様の利益ではなく、自分の数字というこちらの利益だけを追い求めても、お客様に受け入れられるものではありません。お客様の利益を追い求めてこそ、結果としての数字がついてくるのだと思います。
今、あるユーザー企業の情報システム戦略の再構築をお手伝いしています。そのことで、いろいろなソリューション・ベンダーにご提案をいただく機会があります。
先日、そのうちの一社が提案してくれました。しかし、本当にがっかりしました。一見よくまとまった提案書ではありましたが、お客様の期待に応えるものではなかったのです。一言でいえば、トンチンカンな内容だったのです。
お客様の困ったを解決するのではなく、「自分たちにはこんなことができます。こんな製品があります。こんなにすごいんです」。まあ、自慢話というか、世の中の常識はこういうもので、きっと知らないから教えてあげましょう。そんな、高飛車な印象も受けました。
それに対して、お客様は、大人でした。「確かにこの製品がいいことはわかったけれでも、これでは運用の負担は軽減するどころか、増えるんじゃないでしょうか。」
「確かにそうですが、御社が優先すべきは運用負担の軽減よりも、セキュリティの強化だと考え、この提案をお持ちしました。」
こちらを慮り、期待以上のものを持ってきてくれた・・・と思いたいところですが、結局は自社に適切な解決策がなく、なんとか手持ちの製品を無理に押し込んできた。残念ながら、そんな印象を受けてしまいました。
「お客様の利益ではなく、自分たちの利益を優先しているのですか?」
申し訳ないのですが、そんな印象を受けたのは、私だけではなかったようです。
もし、適切な解決策がないのなら、それを正直に伝え、考えうる次善の策か、他社の提供する手段を提示すべきです。お客様の立場でお客様の利益を追求する人、つまり、信頼される存在とは、そういうことができる人なのだろうと思います。
確かにこれでは数字にならないでしょう。しかし、それは一時的なことであり、信頼できる存在と認められれば、お客様はきっとまた相談してくれるはずです。そういう関係を多くのお客様で築くことができれば、結果として数字はついてくるものだと思います。
安心(assurance)とは、自分に不利益をもたらさないであろうという自分自身の評価です。それに対して、信頼(trust)とは、自分に利益をもたらしてくれるであろうという相手の能力や人格についての評価です。
「安心な存在」となることは、日常のお客様との関わりの中で、自然と築き上げられることでしょう。しかし、「信頼される存在」になるためには、「決心」と「努力」と「意思」が必要です。そのためには、相手に成功してほしい、幸せになってもらいたい。そういう愛情としての強さがなければ、できないことだろうと思います。
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