「2012年は4月までに88件となり、過去最悪となった2009年を大きく上回る勢いで推移している。」
帝国データバンクが「システム・ソフトウエア開発業者の倒産動向調査」結果を発表しました。その理由として次のように述べています。
「システム開発に対する投資が一巡したことや近年の世界的な経済不況などに伴い、2008年以降、特に2012年はこれまでに無く倒産が多発している。」
マクロに見れば、こういう解釈もあるのでしょうが、このような事態に至った本質は、「ITビジネスのパラダイム・シフトが、昨今の社会・経済情勢の中で一気に進み始めたため」と見るべきではないかと考えています。
これを「オフショアへのシフト」、「高速開発へのシフト」、「テクノロジーのシフト」という3つの視点で整理してみました。
まず、第一のシフトは、オフショア利用の普及です。かつてオフショアは悪かろう安かろうの代名詞的な時期もありました。また、うまく現地との意思疎通が図れず、手戻りが多くて、結局は日本でそれなりの工数がかかってしまうことや管理の手間もバカにならないなど、あまりいい話を聞きませんでした。しかし、そのような苦労の中で、多くの企業が要領を掴んできたことも確かです。その結果、国内との棲み分けもうまくできるようになったことが、オフショア利用の拡大を促しています。
また、これまで中国沿岸部に限定されていたオフショア拠点も中国内陸部やベトナム、フィリピンのセブなど、より賃金の安いところへと拡大し始めています。この流れは、当面は続くとみられ、国内での開発需要を減らす要因になるものと考えられます。
第二のシフトは、高速開発へのシフトです。急速に進む円高や震災、原発事故に伴う事業環境の変化は、これまで以上に変化への迅速な対応を求めています。そうなりますと、これまで同様のウォーターフォール型の開発では、対処しきれません。
開発の生産性を高めることもそうですが、開発を必要としないクラウド・サービスの活用やカスタマイズせずにパッケージ・ソフトウェアを利用することにより対処しようという動きもこれまでになく活発です。また、開発生産性については、開発フレームワークの積極的な活用や例えばforce.comのような開発生産性の高いサービスの利用への感心が高まっています。また、BRMSやRADに代表される業務仕様を直接システム・ロジックに展開できるツールなども今後普及してくることが考えられます。
情報システムへの需要そのものがなくなるわけではありません。このような高速開発の様々な手段が普及し始めることで、同じことをやるために必要となる開発要員数が、減少しつつあるということなのではないでしょうか。
第三のシフトは、テクノロジー・トレンドのシフトです。WebアプリケーションとHTML5、ビッグデータとHadoopなどの新しいテクノロジー・トレンドへの需要が高まる一方で、従来型のテクノロジーは、コモディティ化が進み、オフショアへのシフトが加速しています。そのため、従来型のテクノロジーにしか対応できない企業が、結果として淘汰されつつあるということです。
これはあくまで私の感覚でしかないのですが、社員の平均年齢が比較的高い企業は、変化への動きが緩慢です。たとえ若い人たちが新しいことへ関心を持ち動こうとしても、経営層が稼働率を気にするあまりにそのような動きを支援せず、押さこんでしまう。その結果として、稼働率は上がるが、オフショアとの戦いで利益のでない仕事を引き受けてしまう。平均年齢が高い分、人件費も総じて高く企業の収益を圧迫してしまう。そんな悪循環が長く続くはずはありません。
その一方で、平均年齢の低い企業は、比較的人件費を安く押さえられます。また、進取の気概もあり、新しいことへの取り組みも積極的です。そういう企業の需要は、私の知る限りでは決して減少していません。
テクノロジー・シフトの要因は、様々ですが、そのひとつとして、スマートフォンやタブレットの普及は大きいと感じています。実際のビジネスでの利用という面では、まだまだこれからというところでしょう。しかし、それを前提としたUIやUX、プラットフォームや運用に関わる常識が大きく変わり始めています。そのことが、テクノロジー・シフトを加速してるのではないかと考えています。
昨今の社会・経済の情勢は、このような動きを加速する力として、大きく作用しています。それが、倒産件数という数字になって、現れているのではないでしょうか。
経済が右肩上がりの頃の成功体験は、もはや通用しません。大きなパラダイム・シフトが進んでいます。倒産件数の増大は、「不況」というような、表層的な現象と捉えるべきではありません。新旧の入れ替わりであり、ITビジネスの新たなスキームを産み出す「時代の変化」ととらえるほうが、自然ではないでしょうか。
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