「斎藤さん、そう簡単なもんじゃないですよ。」
いくつかのSI事業者の事業戦略策定をお手伝いしています。数千人の大会社から数百人の中堅会社と規模も様々です。ただ、共通するのは、どこの会社でも、経営幹部の何人かから、かならずこんな言葉を伺います。
当然のことだと思います。これまで育ててきた人材、多くのシステム資産、膨大な顧客資産・・・その膨大なアセットと歴史を抱えているわけです。簡単にできるなどというほうがおかしな話しです。
しかし、だったら何もしないでいいのでしょうか。事業改革の動きを止めてしまったいいのでしょうか。止めるとまでは行かなくても、ソフトランディングと称して、世間を見ながらゆっくり、徐々に・・・それでいいのでしょうか。
先週も書きましたが、JUASのレポートを見ると、情報システム予算の対売上高比率は、ここ10年で56%も激減しています。運用管理にかかるコストは情報システム予算の7割りを越えるほどに肥大化しています。もはやお客様は、これまでのやり方で情報システムを維持することが難しいと考え始めています。
年末も近づき、「2012年の展望」がガートナーやIDCから発表されています。これらを見ると、クラウド利用の壁が大きく崩されつつあるという実感です。
セキュリティ、コンプライアンス、標準化されたシステムへの移行・・・ミッションクリティカルな基幹業務システムをクラウドに移行するなど簡単なことじゃないと二の足を踏んでいた企業も少なくないはずです。しかし、もはやそんなことを言っていられる状況ではないようです。
パッケージ・ソフトウェアをそのまま使うなんて、あり得ないと豪語していた企業が、事業のグローバル展開を加速するためにカスタマイズすることなしに導入することはもはや常識となりつつあります。そこに収益を求めていたSI事業者にとっては、厳しい現実が待ち受けています。
開発-保守・運用-開発-保守・運用・・・このサイクルを前提に事業収益を拡大・維持してきたSI事業者にとっては、きっかけとなる開発という人工仕事がサービスやオフショアに置き換わり、運用はクラウドに任せれば必要ない時代になろうとしています。
モバイル・クライアントに関連した開発需要が急激に伸びています。しかし、未だにAjaxやobjectiv Cのスキル育成のための研修プログラムを体系化していない企業も少なくありません。
情報システムは、大きく舵を切り始めたこと、そしてそのスピードが加速していると、昨今の動きを見ていて強く感じています。
米企業のCIOと話す機会がありました。かれらは実に情報システムのトレンドや技術の細部を熟知していました。そんな話しを外資系企業の日本法人社長に話すと、米国では当たり前であり日本のCIOと称する人たちとは大きく違っているとのことでした(もちろん、みんながそうだと言うつもりはありません)。
SI事業者に丸投げし自らは思考停止状態になっているユーザー企業の情報システム部門。それをいいことに利益相反になる事業転換に進もうとしないSI事業者。そんな利害の一致が、時代の変革を遅らせていると考えるのは、間違っているでしょうか。
円高や国内市場の低迷を受けて、情報システムの国内需要は伸び悩んでいます。経営からは時代の変革に対応できない情報システム部門への不満が拡大しているようにも聞いています。そんな時代の流れの中で、変革をアピールできないSI事業者は、変革に躊躇する情報システム部門とともに一蓮托生で干されてしまう・・・そんな可能性も否定できないように思います。
「そう簡単じゃない」はその通りだと思います。じゃあ、どうするんですか?簡単じゃない、現状が把握できていない、とりあえずなんとか仕事は回っている。その通りかもしれませんが、それで思考停止になっては必ず時代の流れからはじき飛ばされてしまいます。
変化のスピードが速くなった訳ではありません。変化のパラダイムが変わったとみるべきでしょう。今までの延長線とは交差しない位相に新しい流れが生まれたと考えるべきでしょう。改善を加速しついて行こうとしても、もはや時代の流れは、今までの延長線上にはないのです。思い切って新しい流れに飛び移る決断が必要なのではないでしょうか。その決断は、経営者にしかできないことです。
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