最近、このような質問をしばしば受けるようになりました。どうも、それには次のような理由がありそうです。
- これまで営業職を置いていなかったが、ここのところの業績低迷で、営業力強化に乗り出さなければならないということで、営業部門を新設することになったから。
- これまでの営業は、請求書やクレーム処理などのどちらかというと売った後の後処理中心であり、売り込みはエンジニアという役割分担ができていた。しかしそれでは、必要な受注を確保できなくなってきたから。
- いままでは、技術者として採用・教育し、何年かの経験の後に営業職にしていたが、営業力を早期に育成しなければということから、営業職としての採用を始めるようになったから。
思うように増やせない案件数、競合も厳しさを増し、成約率も利益率も下がり始めています。かつてのように「棲み分け」に甘んじ、丁寧・誠実な仕事と良好な人間関係を維持していれば、次の仕事が確実に回ってくる時代は終わりました。もはや新規顧客を開拓するしか活路はありません。そのような危機感を抱く企業が営業力を強化しようと営業部門を新設・強化し、新人時代から営業職を育てようという取り組みを始めている・・・そんな理由があるのではないでしょうか。
しかし、実際に営業職として新入社員を採用しても、エンジニアと同じ研修カリキュラムをこなし、最後に社内の営業事務プロセスについて説明する程度で営業職の研修を済ましている場合も多いようです。研修期間が終わればOJTということになるのですが、そもそも営業環境が大きく変わってしまった今、手探りでこれからの営業を模索している現場に営業の「あるべき姿」を示す力はありません。新人営業たちは、何を模範に仕事を学べばいいのかわからなくなっています。
新規顧客を開拓することが営業の役割。それを自覚しつつも、なかなか成果を上げられず悩みを抱えている営業の現場。成功の模範がない中で、新人営業たちは何を体験としてOJTで学ぶのでしょうか。今までの経験が通用しなくなった先輩たちは、何を新人たちに教えればいいのでしょうか。そんなジレンマに立たされているのが、今の新人営業の現場ではないかと思っています。
「新人の営業に何を教えたらいいでしょうか?」という質問に、私は「営業という仕事の楽しさを伝え、お客様に相対する自信を持たせることです」と答えています。
新人の研修で、実務実践的な営業スキル、例えば、プレゼンテーションやドキュメンテーションを習得させようとしても、現場の実践に基づく切実さがないなかで身につくものではありません。現場に出て「どうしてうまくいかないんだろうか?」を身をもって体験して、初めて実践的なノウハウの大切さやその意味に気づくものです。
それよりも、営業という仕事が企業の経営を支えていること、知力を尽くし社内外のリソースを最大限に活用してお客様の成功をお手伝いするプロデューサーであること、お客様の経営に大きな影響を与えることができる仕事であること・・・とても大変な仕事だけれども、大きな成長のチャンスを与えてくれる仕事であることを伝えること、そのやりがいの大きさを伝えることが大切ではないかと思っています。
また、自信を与えるためには、営業という仕事のプロセス、つまり、大変な仕事であるということを感覚的、概念的ではなく、具体的な作業の手順に分解して教えておくことも大切でしょう。もちろん、それを直ちに実践できるわけがありません。しかし、知識として知っているのと知らないのとでは、仕事へのストレスが全く違います。例えば、何のガイドブックも地図も持たずに初めての土地を旅行することを考えてみてください。とても不安で、心細くなるはずです。場合によっては、ホテルにこもってしまうかもしれません。怖いんです。不安なんです。そんな気持ちを解消してあげることが必要です。
また、お客様が何を言っているかを理解できる程度に、ITの知識を身につけさせることも大切です。Javaのコーディング技術を身につけても、営業にとっては役に立ちません。コンピューターの原理や歴史を伝えることは大切なことではありますが、それがクラウドや仮想化、Webアプリケーションにどうつながっているかを教えなければ、お客様の話を理解できないのです。
提案できなくてもいい、しかし、お客様の話していることがどういうことなのかを整理して理解できる。その程度の知識もなければ、不安になりあせるだけであり、お客様を怖いと感じるかもしれません。
現場に配属される前は、何をすればいいのかわかりません。ワードやパワポの使い方、事務処理の手順、ビジネス・マナーなどのオペレーショナルなスキル不足への不安を持つようです。配属されて数ヶ月もたつと、そのようなオペレーショナルな不安は解消します。しかし、アカウント・マネージメントや顧客応対について苦労し失敗し、何とかしなければと思うようになります。提案書の書き方、会話や交渉の仕方、営業プロセスの管理など実践的な顧客応対スキルに関心が移ってゆくようです。
このような関心や不安の変化にあわせ、自信を持たせる研修を実施してゆくべきではないかと思っています。
このブログでもたびたび申し上げていますが、成功の方程式は、3年前と大きく変わっています。そのことを真摯に受け入れなくてはなりません。過去の成功体験を押しつけないでください。もしそれに従えば、彼らは失敗しますから、先輩や上司への不信を募らせることになります。
それよりも営業という仕事の大切さとその楽しさを伝えてあげてください。方法は変わっても、営業という仕事の価値は時代を超えて何も変わってはいないのです。方法がわからないことを悲観する必要はありません。なぜなら、あなたも新しい時代の初心者であり、新人たちと同じだからです。それを正直に、伝えるべきでしょう。営業の楽しさとすばらしさを伝える、方法は一緒に考える。そんな謙虚さも必要かもしれません。
かっこつけて、過去の栄光と精神論を押しつけることはやめましょう。話している方は気持ちはいいかもしれませんが、かれらは「うざったい」と思っています。
ここ数年のITビジネスにおけるパラダイムの変化は、劇的なものです。過去の延長線上に未来はありません。位相が変わってしまったというべきでしょう。この変化を彼らは敏感に読み取っています・・・というか、この変化をむしろ常識と受け取っているのです。そんな彼らを信じ、方法は任せてみてはどうでしょうか。そう、足を引っ張ることだけはやめにしませんか。それができる先輩上司は、きっと部下にも敬意を払われるはずであり、結果として、新しい時代を乗り切ることができる会社になるのではないかと思います。
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その通りだと思います。
「おじさんたちのルール」があり、その押し付け、あるべき論があるように若い世代にも「ルール」がありますね。
先週、ちょうどそんなコンフリクトが離れた世代間の本質的な課題となってる大手SIerの若手向けワークショップをやったところでした。
「分かり合うための歩み寄り」が大切だと思っています。