「最近の新人は○○○だ」と一般化して評する人も少なくありません。しかし、本当にそうなのでしょうか。自分の時代を考えてみると、大して変わらないようにも思えます。
自分で考えて行動できない、保守化している、覇気がない・・・大人達は、自分たちの時代を懐かしみ、あたかもその時代こそが良かったのだと言わんばかりに、あえて、その違いを強調しているようにも思えてしまいます。
また、そんな議論の中に、そういう若者達を世の中に送り出した自分たちの責任について語られることは少ないようです。
ITソリューション塾をもう3年やっています。昨年2人の新入社員が、この塾の門をたたきました。なぜ参加したいのかと聞くと、「配属が決り、現場に出て、何も知らないことに愕然としました。このままでは、やっていけません。ぜひ、勉強させてください。」というものでした。
もちろん、会社の正規の研修ではありません。ブログで見つけて、連絡してきたとのことですが、当然、参加費は、自腹です。それでも参加したいという若者もいるのです。
このように志の高い若者もいる、そうでないものもいる。時代は変われど、いつの時代も、いろいろな若者がいるということには、かわりがないと思っています。
もちろん、それぞれの時代の社会環境の違い、そこから生ずる若者の意識の違いまでも否定するつもりはありません。例えば、社会学者である山田昌弘氏の著「なぜ若者は保守化するのか」を読むと、なるほどとうなずけることも少なくありません。例えば、
- 産業のサービス化、IT化の流れの中で、複雑で知的な労働については正社員として雇用し、単純労働は非正規雇用者で賄う。結果として、正社員需要が減っている。
- ITやサービスを主体とする知識型産業の富の源泉は、土地や工場などではなく、能力のある人間である。そうなると、土地のある地方であることの必然性は無くなり、効率の点から都会に人が集まり、富も集中する。結果として地方が衰退する。
- 少ない正規雇用と都会への集中、産業の空洞化により、市場の成長も限られてきた。高度経済成長の時代は、努力すれば報われる「努力保証社会」であったが、努力の積み重ねても、収入や社会的地位に直結することはなく、努力をしても「バカらしい」という意識を生み出している。だから、成功は、「宝くじ」頼みであり、運を天にまかせるしかないというあきらめが生じている。
そんな中で、自分の生活の安定を図らなければならず、結果として保守的な志向を持たざるを得ないというものです。
確かに、このような社会的な背景から生まれる「若者意識」があることを否定するつもりはありません。しかし、だからといって、おしなべて、その平均を目の前にいる新入社員に押しつけて考える必要もないように思うのです。
以前、「OJTというほったらかし」という記事を書きました。「我が社は、実践で人を育てる。」だから、OJTで十分という会社もあります。その志は、立派だと思います。しかし、実際のOJTの現場は、先輩社員が、部下を単なるアシスタントや雑用係として使っているだけであり、目標設定はなし、OJTリーダーに育成のノウハウもなければ、志もないのです。
確かに、これで育つ若者もいるのですが、それはOJTの成果ではなく、「これじゃあ大変だ」という本人の危機感であり、自助努力でしかないのです。つまり、育つか育たないかは、本人任せのほったらかしなのです。言うなれば、運任せです。
育たなければ、あいつには才能がなかったとか、仕事があっていなかったと自らの責任を棚上げにする。それをOJTといってはばからない大人の無神経を悲しく思います。
また、山田氏の言うかつての「努力保証社会」では、お客さまに行けば仕事がもらえました。「靴底を減らして、なんぼの世界」だったわけで、今管理職の立場にいる人の中にも、それで成功した人も多いと思います。
しかし、もはやそんな時代ではないのです。靴底を減らして、お客さまを足繁く回っても、仕事をもらえる時代ではありません。そんな今を見ようともせず過去の成功体験を、そのまま押しつける。それでは、うまくゆくわけはなく、若者達に「バカらしい」という意識を持たせてしまう。
「バカらしい」と開き直るくらいならまだいいのですが、「自分は役に立たない。何をやってもダメだ・・・」、そう考えて、心を病んでしまう。こうなってしまうと、本当に不幸です。これは、本人の責任ばかりとも言えないように思います。
では、どうするか。まずは、今の若者達と真剣に向かい合うことです。自分の成功が、今も通用するという思い込みを捨てることです。「こうすればいいんだ」と自分の主張を押しつけないことです。
自慢できる成功も、恥ずかしい失敗も、全て素直にさらけ出すことです。そして、独りの人間として、部下の声に素直に耳を傾けることです。そうして、自分ならどうするかを、真摯に考えることです。
その上で、自分は、どう思うかをしっかりと伝えることではないでしょうか。それは、決して、過去の成功の自慢話をすることではありません。「俺の若い頃はなぁ・・・」は、もはや過去の栄光に過ぎないことを自覚すべきです。
「本質おいては一致し、行動においては自由に、全てにおいては信頼を」とは、ドラッカーの一節です。まさに、本質を部下と語り合い、一致する。後は信頼して、まかせておけばいいのです。そして、困ったことや助けを必要とするときが来たらすぐに行動するセーフティネットを提供する。そんな、心の準備をしておくことでしょう。
自分で考えて行動できない若者が多くなったのではなく、このような現実を自分で考えて行動できない大人達が多くなったことの方が、むしろ問題なのでは・・・と考えてしまいます。
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