「いつも、遅くまで働いて・・・がんばってくれているんだが・・・」
あるSI事業者の営業本部長がため息混じりに、こんな話しをしてくれました。
「動き回っていることは分かるんだが、いっこうに成果を上げることができないんですよ。どうすればいいものでしょうかね。私から見れば、ただ、お客さまへのアポイントをこなしているだけにしか見えないんです。実際のお客さまとの関わりを見ていないので、何とも言えないのですが、どうも、手持ちの製品の話しをしてくるだけのようで、うちの持っているリソースやサービスを紹介しているようには思えない。突っ込んで、お客さまの困っていることや望んでいることを引きだそうということに関心がないようなんです。」
「いろいろ話を聞いたり、こうしてはどうかという話しをしても、自分は一生懸命やっている、タイミングが悪い、扱っている商材が悪い、だからダメなんだと不平を言い、最後は、かならず、自分の努力も足りないんで、いろいろと考えてやってみますとうまくまとめてしまう。でも、行動がまったく変化しないんです。この繰り返しなんですよ。」
その営業さんは、けっして新人ではありません。他の会社でも営業として経験した40代前半のベテランです。私は、営業から外れていだくしかないのではと進言すると・・・
「かれを営業から外すと、あてはめ先が、ないんですよ・・・」
本人は、まったくそんなことに関心がないように見えます。自分だけの世界を作り、周りと関わることを避けているようにも見えます。なぜ、社内のリソースを使わないのかと聞くと、社内は融通が利かなくて、こちらの思うように動いてくれない、面倒なので使えないという返事が返ってきました。
このような残念な人は、どこの会社にも一定の割合では、いるようです。
こういう人に共通していることは、自分は頑張っているとほんとうに信じて疑わず、うまくゆかないのは、自分以外に原因があり、仕方がないのだと考えていることです。自分の考えは正しく、世の中が間違っていると考える。そして、あのひとの考え方がおかしいと自分の正当性を主張する。その話しは確信に満ち、雄弁で説得力があるのです。そして、必ず、自分が至らないことも言葉の上では認め、改善を約束する。しかし、結局は、何も変えようとしないのです。
センスがない、感性がないと言ってしまえば、まさにその通りだと思います。しかし、そういう人が、企業には、必ず一定の割合でいる以上、経営者は、何らかの手を打たなければならないのです。それは、その本人の問題と言うよりも、部下や周りへの悪影響を減らすという意味においても、何とかしなければならないのです。
しかし、だからといって、「感性を磨け!」、「営業というのはなぁ・・・!」と説教をしても、こういう人には、絶対に通じません。その場をうまく治める才覚には長けているので、殊勝に話を聞き、なんだか分かってくれたような安心感を漂わせてはくれるので、こちらも一息つくのですが、心の耳を閉ざしている人には、何も届かないのです。きっと、こういう人は、酒席で、「あの人は、なにもわかっちゃいないんだよ」と周りに愚痴をこぼしているに違いありません。
では、どすればいいのでしょうか。残念ながら、本人の考えを、周りからとやかく言っても変えさせることはできないでしょう。人間を内側から変えることができない以上、それはかたちから矯正するしかないように思います。武道で言えば、「型」を徹底することです。その過程で、気付きがうまれ、「型」が習慣化できれば、結果として、考え方も変わってくる。そういうことを期待するしかないように思います。
守破離という言葉があります。千利休が残した茶道の心得です。
規矩作法 守り尽くして 破るとも 離るるとても 本ぞ忘るな
「守」とは先人の築き上げた「型」を守ることです。そこには、先人が苦労して成し遂げた経験が、織り込まれています。まずは、これを徹底してまねることで、先人の知恵を自分のものとして会得するのです。
この「型」を徹底的に守り通した上で、これをあえて破ってみる。自分ならではの工夫で、試してみる段階、それを「破」といいます。本来を知りつつ、自分なりにそのやり方をあえて破ることで、自分ならではの「型」を求める段階と言えるでしょう。
そして、それを他にも伝えられるほどに洗練させることができたならば、そこには、今までにはない「型」が生まれてくるのです。この段階を「離」といいます。
残念な人に、守破離の全てを期待しても難しいかもしれません。しかし、まずは、「守」を徹底させることで、チャンスを与えるべきなのではないかと思うのです。気付きの機会を与え、自ら変わろうとする気持ちを引き出す。それが、「型」を守らせることなのです。
また、これは、その本人のためというだけではなく、その部下や周りの人を、残念な人の影響力から隔離する手段ともなります。つまり、残念な人の「型」に拘束されることなく、本来の「型」に接することができれば、心ある人は、自ら次の段階へと向かい始めるのではないでしょうか。そのチャンスを与えることは、会社にとっても大きな意義があります。
営業という仕事における「型」のことを私は、「営業活動プロセス」と称しています。
私は職人芸の域に達した営業を何人も見てきました。そういう人たちは、どなたも個性豊かで、決して人にはまねのできないような、動きをします。残念ながら、その奥義(?)は、本人でも説明不可能であり、まねることなど、容易なことではありません。
しかし、そういう人たちの行動を見ていると、かならず共通の行動パターンが存在することに気付きます。
例えば、初めてのお客さまに訪問するとき、可能な限り徹底的に情報を集め、お客さまの仕事や関心がどこにあるのかを探り、仮説を用意してお客さまとの対面に望んでいます。
また、何らかの意志決定を迫るとき、その意志決定者だけではなく、だれがその意志決定に影響を与える人なのか、だれが承認してくれる人なのかを組織図だけでは見えない人と人との力の関係を探り、丁寧に関係者を説得して回っています。
当たり前と言われれば、その通りなのですが、こういう当たり前をしっかりとこなしているからこそ、彼らは優秀なのだと思います。
そんな彼らの当たり前の行動を分析的に洗い出し、描き出してみる。そして、時間軸に沿って整理してみる、つまり、仕事の手順として、並べてみたものが、「営業活動プロセス」なのです。私は、これを28のプロセスに整理してみました。もちろん、取り扱う商材やお客さま、社内用語の違いはありますので、それぞれに合わせて手直しはすべきですが、いざやってみると、大きな流れに違いはないようです。
こういうもの作り、それに従って行動させる。実際には、チェックリストとして、案件やお客さま毎に自分の活動を評価させるのですが、それをマネージメントは、営業会議の中で、必ず確認するのです。もはや文学的表現で言い逃れすることはできません。やったかやらないかのチェックを確認するわけですから、弁解の余地はありません。
抵抗はあります。でも、マネージャーは、それをこらえて、とにかくしばらく続けてみるのです。成果は、必ず出てくきます。
残念な人が抵抗しても、その人以外の周りがそれを守り、行動が変わってくれば、もはや本人も言訳はできなくなります。それで、自分も、この型を守ってみようと心変わりしてくれれば、儲けものです。仮にダメだとしても、その残念な人以外は、次の段階へと進む準備ができてゆきます。会社としては、全体として、底上げができるはずです。
そんな積み重ねの中で、誰かが「破」となり、そして、「離」となる。新しい営業の文化を築き上げてくれるかもしれません。
「何でそんなことができないんだ!」と怒鳴ってみても、血圧を上げるだけで、売上は上がりません。まずは、「型」を示すことです。これに従わせて、チャンスを与えてみてはどうでしょう。
何もしないよりは、きっとなにかが見えてくるように思うのですが、いかがでしょうか。
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