「吉田部長とは、長年のつきあいだし、信頼関係もある。今回も、うちに発注いただけるはずだよ。」という営業部長。
担当営業が、その吉田部長を訪問すると「申し訳ない。今回は、他のところに頼むことにしたんだ。まあ、次もあるので、引き続きよろしくお願いしますよ。」という言葉。
ここで引き下がるわけにはいかないと考えた彼は、「うちとは長年のおつきあいでもありますし、なんとかお願いできないでしょうか?」と食い下がった。しかし、結果は変わらなかった。
仕事柄、ソリューション・ベンダーの経営者や営業の責任者と話をさせていただくことも多い。そうすると、最近、商談が増えたという話をされる。景気が戻ってきたようだという意見も聞こえてくる。しかし、成約に結びついているかと質問をすると、どうもそうではないらしい。むしろ、競合案件が増えて、簡単には受注できないという。
いままでは、他社との棲み分けができていて、この部分については、当たり前に自分達への発注があった。そんな、お客様でさえも、競合、相見積もりにされることが増えたという。お客様の担当者にしてみれば、自分のところのシステムをよく知っている業者であれば、余計な説明などしなくていい。「これ、よろしく!」、「分かりました!」ですまされる関係のほうが、手間もなく楽なはずである。それでも・・・である。
冷静にこの事実を考えれば、案件が増えたと考えるべきではないだろう。むしろ、相変わらず少ない案件を複数の会社に競合させているだけのことである。担当者が、あなたの会社を信頼し、自分も楽をしたいと思っても、もはや経営者が、それを許してくれない。そんな状況が、あるようだ。
加えて、クラウドやオフショアは、そんなお客様の意識をあおっている。クラウドやオフショアを使えば、もっと安くできるのではないかという期待感である。
また、「低単金」という新たな常識。リーマン・ショックでユーザー各社がコスト削減に躍起になっているとき、ITソリューション・ベンダーは、業務量を確保するために安い値段で仕事を引き受けてきた。
今までの仕事量は、変わらないのに一律単金20%カット・・・新人は勉強だから、とりあえずタダ・・・本来は、準委任で行うべき仕事を請負にして、単金の上限を押さえ、多少の工数の変動(ほとんどは、追加)は、そこで吸収させる・・・などの新しい常識が、定着してしまった。そこに、新たな調達の手段であるクラウドやオフショアが加わり、そことも競合しなくてはならない。
景気の先行きへの不安感から、多くの企業が内部留保金の積み増しを行っている。当然、新規投資には、お金が回らない。加えて、情報システム部門の高コスト体質。IT部門の予算の7割が、保守や運用などの経費に回され、新規投資は、わずか3割に過ぎない。もちろん、情報システム部門も、これ以上できないというくらいに、いろいろと工夫をしてきたのだろうが、従来の仕組を踏襲する限り、根本的なコスト構造の変革は、期待できない。
景気がよくて、会社の業績が伸びているときは、そんなことを気にすることもなかっただろう。しかし、今は、この現実が、経営者にとっては、「何とかならないのか」という気持ちをかき立てているように思う。
この閉塞感を打開するためには、もはや目先の改善や単金の引き下げといった取り組みでは、限界がある。低コストで、変更や変化に柔軟なシステムへの構造変革が、必要だ。お客様もその取り組みに関心を持ち始めている。
つまり、お客様が求めているのは、「これ、よろしく!」への対応ではない。「どうすればいいだろうか?」への回答であろう。「これ、よろしく」の時代は、お客様にも頼む仕事がいくらでもあった。だから、お客様との人間的な信頼関係は、強力な武器であり、それが案件獲得の大きな力になっていた。しかし、もはやその威力は、相対的に低下しつつある。
私は、お客様との個人的な信頼関係を否定するつもりはない。それは、従来もこれからも、大切なものだと思う。しかし、それだけでは、稟議を通し、決済を取り付けることが難しい時代になった。人と人のつながりの大切さに加え、経営合理的な観点での「どうすればいいだろうか?」に応える知恵と工夫が、今まで以上に求められているように思う。
この期待に応えるためには、個人力として営業力をとらえていては、無理である。組織として、会社として、お客様の期待に応えてゆくために、何をすべきかを考えるべきである。営業職の役割、エンジニアの役割、経営者の役割・・・もはや従来の常識を前提とした役割分担では、対処しきれない。
未だに、営業は売る人、事業部は作る人。そんな古い常識をかざし、新規顧客の開拓ができないのは、営業が無能であるからだと嘆き、既存顧客の深耕ができないのは、事業部のエンジニアに営業センスがないからだと愚痴っているようでは、お客様の期待に応えることはできないだろう。
組織を越えて、お客様の「どうすればいいだろうか?」に応えるためには、会社として何ができるだろうかを考えてみるべきだろう。その取り組みは、間違えなくお客様に伝わるはずだ。そこにこそ、人間関係を越えた、お客様との本当の信頼関係が築けるのではないだろうか。
普通に目的に合わせて組織を変えればいいのではないでしょうか?
何故組織を超えなければいけないのでしょう。組織は変わらない物という前提のお話なのでしょうか。
ozeさん コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、組織を変えれば良いというのはその通りです。しかし、組織というのは、ある意味、企業の精神構造が反映された結果であり、そう簡単に変えられない場合が多いのです。
組織を越える・・・そんな取り組みの結果として、うまくゆけば、それが結果として、組織の最適化をもたらす。ちょっと回りくどいと思われるかもしれないのですが、そのような手間をかける必要があるように思います。
少し訂正します。
組織を超える活動はいついかなる時にも必要だと思います。
ただその目的が組織の最適化のための活動だとすればそれは違うように感じます。
また、そのようなコストを必要とするような企業体にいつまでも付き合ってくれるほど取引先企業は鷹揚ではなくなってきていると思います。この取引先企業の事情については斎藤さんが書かれている通りなのではないでしょうか。
組織論などは極論すれば自社の勝手な台所事情でありそこに時間をかけていることは競争力を削ぐ以外の何者でもないとおもいます。
すみません、つい簡単なきれい事書いちゃいました。
クラウドでコストが削減できると思ったら大きな間違いです。さらにいろいろな問題が出てきて保守/運用費用が高くなりました。正直言うと、営業に騙されました。
営業担当やIT技術者が儲かる為の事が書いてありますがどれもユ-ザ-側から見れば困った問題です。こちらに掲載されてる事が正しい意見かどうか判断は別として、ユ-ザ-からの見た視点では理解できません。IBM的な考えであり、営業と技術職と分別してるようですが、国内メ-カ-の方々は組織力が強く技術職の方々も営業活動で訪問、売込みされます。買わせようとする営業が訪問されるよりも、技術者の最新情報が会社に重要で時には会社の戦略になります。
一度システム導入すると、会社としては取り返しのつかないことになります。会社としては現状維持が重要で景気回復まで待ち、何とか乗り越えていかなくてはなりません。というのは、どこも同じだと思います。
営業職は売上げがないと厳しい状況になるのはうちの会社でも同じです。個人力は重要で、既存顧客の取引先を紹介されたり新規開拓、新しいお客様を増やせない営業は致命的です。売れなければ、言訳にしかならずと言うのが常識です。最近はWEB販売導入で営業職や販売支店を大幅に減らした傾向にあります。