「IBMが全正社員40万人のうちの3/4に当たる30万人を2017年までに解雇し、プロジェクトの必要に応じて契約社員として再雇用する。」
IBMの人材管理の代表責任者が、こんな発言をしたという記事が報道されたのは、今年の4月である。あくまで検討されているだけであり決定されたことではないとの記述もある。また、あるIBMの現役の方から「IBMはこの記事を否定した」との情報も頂いた。
この記事の真偽をうんぬんする立場にはないが、この記事に書かれている内容は、実に現実感がある。
この記事には、さらにこんなことが書かれている。
・正社員を大幅に減らすことで、社屋のコスト、企業年金や保険の負担が大幅に削減される。
・大多数の大手サービス・プロバイダーは、既にこのような戦略を試み始めている。
・会社としての資金的蓄積を増すための現在とりうる唯一の方法は、正社員を削減することである。
また、人材は、必要に応じて「crowdsourcing(一般大衆からの調達)」するとの記述もある。
この記事を深読みすれば、こう解釈することができるだろう。
「会社として、余人に代えがたい専門性の高い人材(professional)は、全社員の1/4。残りの3/4は、グローバルに目を向けると、いつでも調達可能な大衆(crowd)である。」
つまり、「企業を先導するリーダーや専門家は、社員として長期継続的に抱え込む。しかし、それ以外は、プロジェクトごとの必要に応じて、最適な人材を、適正なコストで世界から調達できるので、あえて正社員として、雇っておく必要はない。」。経営合理的に考えれば、きわめてあたりまえな発想といえるだろう。
このようなクラウド・ソーシング(crowd sourcing)の取り組みはすでに始まっている。例えば、P&Gは商品開発に、ボーイングは機体組み立てに、この手法を活用している。さらに、クラウド・コンピューティングは、このような経営の在り方を後押しする存在になりつつある。
例えば、研究委託のサービスを提供する「InnoCentive」は、化学物質の研究開発課題の解決に、全世界数万人の研究者から公募し、共同研究を行う仕組みを提供している。また、「DELL Ideastorm」は、DELLの顧客を対象として、製品改善のための情報収集や提案を集めている。他にも、Webコンテンツの開発、市場予測、研究開発、システム開発など、クラウド・コンピューテング上にクラウド・ソーシングのための仕組みが、どんどんと出現している。
この社会インフラは、国境という壁を越えて、世界をひとつの人材調達市場に変えようとしている。例えば、ホームページの制作であるが、日本では、1ページ=7千円前後が相場とも言われているが、日本語のわかる中国の会社/個人にインターネットを介して依頼すると、500円前後で引き受けてくれる。つまり、国境を越えた「同一スキル=同一賃金」が、人材調達の常識となるかもしれない世界が、もはや現実のものとなっている。
クラウド・コンピューティングの普及は、クラウド・ソーシングが容易な社会インフラを築きつつある。この変化に私たちは、どのように対応すべきだろうか。
クラウドというと、私のようなコンピューター業界の人間は、ついついクラウド・コンピューティングという技術やサービスを考えてしまう。しかし、もうひとつのクラウドは、人材の在り方、あるいは、マネージメントやキャリアといった仕事の在り方、自己実現や自分のプロフェッショナリティの追求といった生き方にも関わる問題である。
このふたつのクラウド(cloud と crowd)は、これからの私たちの生活の変化に大きな影響を与えるキーワードとなりそうだ。
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確かにしばらくはやりそうな感じもします。「同一スキル=同一賃金」はいかにももっともらしそうに見えますので、社会のひずみを利用した搾取方式の錦の御旗にしばらくは使えることでしょう。
企業(法人)の生き残りコンサルの材料としては今は無視できない項目であることは確かだと思います。