「なぜ、もっと早く報告しないんだ。早くわかってたら、やりようがあったんだよ。だから、こんなことになるんだ。」
ベテランの営業課長が、若い営業マンを前にして、言葉を噛み殺しながらも、怒りをぶつけている。
その営業課長に話を聞くと、「彼は、確かに一生懸命です。でも、ちゃんと報告しないし、相談もしない。自分で何とかしようという気持ちは、立派だけど、これじゃあとれるものも取れませんよ。」
つづけて、こんな話もしてくれた。
「どうも、最近の若い者は、覇気がなくていけない。確かに、忙しく仕事はしていますよ。遅くまで仕事をすることもいとわないし、よく頑張ってると思う。でも、チャレンジしないというか、自分から進んで新しいことをしない。私の若いころはねぇ・・・」。
こういうマネージャーが、部下の成長を阻み、組織の活力を殺いでいるんだなぁと思わずにはいられない。
彼には、次の3つの点で自覚が足りない。
1.報告しないのは、部下の問題と考えていること。
2.チャレンジしないのは、世代の問題で、自分の問題ではないと考えていること。
3.「頑張っている」、「忙しい」は、仕事が多いからで、別の意味があるとは考えていないこと。
この思い込みが、問題なのだが、それに気づいていない。部下は、次のように言うだろう。
「報告しない」のは、報告をしたくないから。
・報告をしても、結局は、自分のやり方を押し付けられる。
・こちらの話は、途中までしか聞かず、こうやればいいと指示される。
・日報やレポートを提出しても、まともなコメントなど返ってきたためしがない。
チャレンジしないのではく、チャレンジしても無駄だと考えている。
・いつでも相談できる、助けてくれるという安心感がない。
・頑張れ、自発的にやれとは言うが、失敗は、許されない雰囲気がある。
・結局は、自分のやり方の枠に当てはめようとする。それ以外のことは、そんなことは言ってないぞと、はしごを外される。
忙しいから「頑張っている」わけではない。忙しいふりをしているだけ。
・ちゃんと仕事をしています。余計な仕事をふらないでくださいね・・というメッセージ
・忙しくすることで、仕事をしている気持になりたい。自分を正当化したい。
・自分のことに没頭していたい。余計な干渉は受けたくない。
マネージャーには過去の成功体験がある。自分はそれでうまくやってきた。誰に教えられたわけではない。自分で苦労して見出してきた。なぜそれができないんだという気持ちであろう。そんな思い込みが、部下の意欲をそいでいるという事実に気が付いていないようだ。
プレーヤーとして優秀だから、マネージャーとなった。まだ未熟だから部下である。その視点が欠けているようだ。
部下を自分の基準で評価し、できていないことを指摘し、「だからだめなんだ」と考える。減点型のマネージメントスタイルである。
また、時代も違うことにも気付いていない。景気が良い時代は、お客様に足繁く通い、顔を覚えてもらい、要求には応え、トラブルにも直ちに対応する。そうすれば、仕事がもらえる時代だった。それができることが優秀であった。これもまた、間違えなくその時代の成功体験である。
しかし、今は、それでは仕事は手に入らない。お客さまは、「今までのお付き合い」だけでは、発注はしてくれない。なからず、複数社との比較検討を求められる。その相手は、国内とは限りない。オフショアも同じ土俵の上にいる。もはやかつての成功の方程式は、通用しなくなっている。
こんな現実に目をつむり、自分の過去の成功体験をいまだに金科玉条のごとく掲げ、その成功体験を基準にしているようでは、新たな成功を見出すことはできないだろう。
部下の能力や今までの実績。あるがままの本人を基準にし、「彼にしては、よくやっているなぁ」、「こんなことができるようになったんだ」、「こんなことが得意なんだ」という視点を持つ。良いところ、成果を評価する。これが、加点型のマネージメントスタイルである。
減点型のマネージメントスタイルを改め、加点型のマネージメントスタイルに転換する。これが、部下を活性化させる起点となるだろう。
また、自分の成功体験は、自分の名誉であり、歴史であり、自信として、心に刻むことである。ただし、その方法論は、もはや通用しないということも自覚すべきである。だからこそ、部下と一緒になって、どうすれば新しい成功体験ができるかを真摯に考えてみてはどうだろう。それを分析し、整理し、自分の言葉に置き換えて語ってみる。
一生懸命だが、整理できない。そこに混乱や不安がある。マネージャーは、そんな彼らの言葉を第三者として冷静に聞き、整理をする。それができれば、部下はきっとあなたの言葉に耳を傾けてくれるだろう。
マネージメントとは、技術者がそうであるように、専門のスペシャリティが必要だ。過去の経験の延長線上で、できるものではない。自分がその分野では、まだまだ素人であるということ。新しい時代となり、成功の方程式が変わったということ。その前提に立って、謙虚に学ぶべきである。
その教師は、書籍や研修ばかりではない。今あなたの目の前にいる部下もまた、今の時代の教師である。彼らの話に真摯に耳を傾け、謙虚に質問する。日報にも真剣に自分の考えや意見をぶつけてみる。そうすると、部下も報告や相談を進んでするようになるだろう。
一生懸命話を聞いてくれる人が、そこにいる。相談に乗ってくれる人がいる。そんなセーフティネットが、部下にチャレンジの意欲を与え、潜在力を引き出し、活力ある組織を生み出してくれるはずである。
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